半径ワンクリックNo.4
IDPW×土屋泰洋:後編「価値観や宗教観が全く違うものも、すべて並列で入ってきちゃう状況が面白い」
2014/04/07
前回に続き、IDPW(http://idpw.org/)のメンバーに、土屋泰洋さんがGoogle ハングアウトで行ったインタビューをお送りします。インターネットをテーマにしたフリーマーケット「インターネットヤミ市」をベルリンで行ったお話から、サカワボーイズ、そして…。
ベルリンは自由への意識が強くて、それは見ていて面白かった
土屋:2014年の2月に、ベルリンでインターネットヤミ市を開催されたわけですが、海外でやられてみてどうでしたか?
千房:まず、IDPWメンバーのTax Gull (aka Merce Death)が作ってくれた映像「Back streets of the Internet」(http://youtu.be/mjWJsE7B1cs)で、海外にもインターネットヤミ市の空気感やコンセプトが伝わりやすくなっていて。最初、インターネットヤミ市の感じをドイツの人に伝えるのは無理かもしれないと思っていたけど、ふたを開けたら、東京のインターネットヤミ市と変わらない空気感だった。
ベルリンで開催したインターネットヤミ市の様子 |
赤岩:だけどよく見ると出品されるものが、やっぱりちょっと違った。インターネットヤミ市はベルリンでも公募じゃなくて、面白そうなコミュニティーに声を掛けて、まあそこに偏りがあったのかもしれないけど、わりと政治色が強かった。
渡邉:そうでしたね。
赤岩:海賊党っていうインターネット政党をやってる人たちも出てくれたんだけど、この人たちは日本のヤミ市でいうとギークハウス的な感じの雑多ノリを醸し出していた。出品しているものは、不自由さに対しての批判とか批評をテーマにしたものが多かった。
萩原:ベルリンの土地柄なんでしょうね。
赤岩:そうだよね。自由への意識が強くて、それは見ていて面白かった。日本だとあそこまで政治色は出ない。
土屋:確かに日本のインターネットヤミ市では政治的なメッセージを持つものは見かけませんでしたね。
千房:日本のヤミ市は、神社的なものとか、おみくじとか、そういうのが結構多いよね。
赤岩:そう、神道系が少なくとも2~3人は必ず出てくる。
渡邉:たしかにベルリンのヤミ市に参加されていた、ベルリンUFOというベルリン在住の日本の人たちも、くじを出してましたね。
千房:あと、「パケットグールー」。
渡邉:そうそう、ベルリン在住の本田さんというアーティストが居て、その人がネットワーク上を流れているパケットを浄化して、綺麗なデータを送れるようにしてくれるソフトウェアを販売してました。
千房:イベント中ずっと瞑想してましたね(笑)。
パケットグールー |
萩原:僕はリモートホストといって、ベルリンに来られなかった人たちの商品を委託販売していて、売る方に専念してたんですけど、興味を持ってくれるわりにドイツの人はお財布のひもが固いなと思いました。
赤岩:そうそう。出店者にインタビューして回ったんだけど、売れ行きはそれほどでもなかったみたい。でもコミュニケーションするのが楽しいから、売れるか売れないかは関係ないって言ってた。例えばアートと、それを見る人という関係性だと、作家に直接話しかけるってなかなかハードルが高いんだけど、ヤミ市みたいな形態だと自然に作り手と受け手のコミュニケーションが発生するのは面白いと思う。
例えば、おじいちゃんが考えるインターネットみたいなのも、見てみたい
土屋:インターネットヤミ市は、今後どうなっていくのでしょうか。
千房:実は結構引き合いがあって、フォーマットとして流通できるから広げていきたいなと思ってる。
赤岩:ネットとリアルの関係性のバランスが今っぽいから面白いんだと思っていて、ずっと続けていくというよりも、今世界中にバーッて広げた方が面白いんじゃないかな。しかも、誰でもできるような形をつくったら、もっと広がりやすいんじゃないかなって考えてる。
渡邉:そうですね。いろんな場所でやる方が、インターネットっぽさっていうか、そういったものの一致や差異が見えてくるかなと。東京では見れなかったインターネットっぽさを、違う場所で見つけていけばいいなって思う。個人的には、あまりインターネットが広まってない国でやったら面白いと思ってます。
土屋:インターネットがない国でインターネットヤミ市やったら面白そうですね(笑)。
赤岩:妄想のインターネット(笑)。
萩原:世代っていう切り口もありますよね、例えば、おじいちゃんが考えるインターネットみたいなのも、見てみたい。
赤岩:自分らが日頃活動しているのがアートの場だから、アートフェステイバルの中でインターネットヤミ市をやることが多くなるんだけど、インターネットって別にアートに限らないから、いろんな人を巻き込んでいったら面白いと思う。
千房:うん、そうだね。できるだけいろいろなタイプの人に参加してもらいたいですね。
土屋:福岡にあったIDPWのスペースのようなことは、今後はやらないんですか?
赤石:あそこは、結局1年くらいやったんだよね。最初は場所とインターネットを接続するというコンセプトだったけど、徐々に比重がインターネットのほうに移ってきて、固定された場所は、あまり必要なくなってきた。でも完全にインターネットだけじゃなくて、その時々で場所と接続したり切れたり、そういう状態が今は面白いなって思う。
千房:そうだね。最初に場所を経由してからインターネットに戻っていったことが、インターネットから始めるのとは違う結果につながってると思う。
古き良きインターネットパラダイスがまた復活するかも
土屋:では最後に、今インターネットに関することで、一番興味深いと感じることを教えてください。
萩原:最近思うのは、何でも「リアル」を付けるとインターネット的になる現象が面白いということです。その状況自体がインターネット的だなと。「リアルツイート」とか「リアルクリック」とかいうと、いったいどういう現象を指すんだろうかと。「リアル」って言葉を付けることによって、1回インターネットを経由してから現実空間でそのことを考えるわけで。
赤岩:うん。ちなみにNHKの朝の情報番組とかでも「リアル○○」って言葉を普通に使ってるから、これってインターネット人に限った話ではないんだよね。
土屋:なるほど。そういえば、デスクトップってそもそもリアルを模倣してるわけじゃないですか。
萩原:そうですね。
土屋:その上で、例えば「リアルゴミ箱」って言った場合、一周して、また現実のゴミ箱になるわけですよね?
萩原:でもそれって、ただのゴミ箱じゃなくて、「MacやWindowsで要らなくなったファイルを削除するための特殊なフォルダ」という文脈を経由した「ゴミ箱」になるんですよ。
土屋:ああ、なるほど。ゴミ箱を空にするときに「削除しますか?」と聞いてきたり、ちょっと気が利いてるとか(笑)。
赤岩:東京に行った人が里帰りしてきたら、ちょっとあか抜けてるみたいな(笑)。
渡邉:インターネットを経由した新しい属性を見ているような感じですね。
土屋:インターネットヤミ市も、インターネットを経由した「見慣れてるけど微妙に違う何か」がたくさん出品されていたように思います。それってまさに、萩原さんがおっしゃっている「リアル○○」だったんだなあと思いました。
千房:最近興味深かったことで、ガーナのインターネット詐欺の話があって(https://www.youtube.com/watch?v=4BNO5n7FBUw)。ガーナはアフリカのインターネットの中心地っていわれていて、そこにサカワボーイズっていうインターネット詐欺集団がいるんだけど、お金を持ってるから若者たちの憧れになっているという、困った現象が起きている。
で、その人たちって伝統的なブラックマジックを信仰していて、インターネット詐欺を成功させるために血を浴びたりっていう儀式をやっている。今は、そういう人たちもインターネットに入ってきて、現実につながりはじめているんですよ。
土屋:黒魔術! インターネットって世界中がつながるから、当然といえば当然なんですけど、僕らとはあまりにも価値観が遠くてびっくりしますね。
千房:半径ワンクリックではないかもしれないけど(笑)、2~3クリックくらい先に黒魔術があったり。本当に、全く価値観や宗教観が違うものも、すべて並列で入ってきちゃう状況がある。
渡邉:去年、バングラデシュのダッカにある「いいね!」生産工場がニュースになりました。それまで考えたことなかったんですが、新興国の人たちって、コンピューターと自分、あるいはインターネットと自分という関係が、僕らとはだいぶ違うんじゃないかと思ったんですね。つまり、生活における1クリックの重み、「いいね!」の重み、リツイートの重みとでも言うのでしょうか、それが大きく異なるように感じました。
サカワボーイズもそうですが、そうした「いいね!」工場の人たちが、たとえばFacebookのような、僕らと共有可能なアーキテクチャ上に、僕らと等価な存在として存在しているっていう事実にびっくりします。インターネットはグローバルっていうけど、ある意味ではまだ全然グローバルじゃない。むしろ超ローカルで、限られた様式のインターネットしか躍進してないんだなって思った。
千房:マーク・ザッカーバーグらがInternet.orgっていう、世界中の人たちをインターネットにつなげようって活動をしてるけど、本当に世界中の人たちがインターネットにつながったら、今までいなかったタイプの人達が乱入してきて価値観が逆転するかもしれない。
あと、今新しくインターネットに入ってくる人って、スマホからだよね。これってすごい管理されたインターネットじゃん。
萩原:そうですね。ソースコード見れないし。
千房:うん。新しくインターネットに入ってくる人は、普通に便利に使うだけであれば管理されたインターネットで満足できるし、ソースコードまで見れるようなコンピューターを使う人たちの数って減っていくんじゃないかなって思う。そうすると、スマホとかでインターネットをただ便利に使うだけの人たちと、PCでインターネットを駆使している人たちに、インターネットの世界が二分されて、一部のリテラシーが高い人だけの古き良きインターネットパラダイスがまた復活するんじゃないかと最近思っている。
萩原:確かに、既にスマホでインターネットする人と、パソコンを使う人とで二分してきてますよね。
渡邉:そのときサカワボーイズたちはどっちの側に行くんでしょうかね。
千房:サカワボーイズ、パソコン側に来そう(笑)。ただ、それでもやっぱり僕らは言葉の壁によって隔てられてるんだよね。
土屋:そうなんですよね。僕らが使えない2バイト文字で作られたコンテンツは、僕らには検索できないけれども、すごく豊潤なコンテンツがたくさんあるはずで。
千房:そうですね。つまらないと感じるとこっていうのはそこかな。こんなに便利になってもまだ言葉の壁で隔てられているという状況。つまらないっていうか、もったいないというか。
赤岩:日本人は英語でやってないから守られてる部分はあるよね、かなり。
死に方も、ちゃんと自分で考えていかなきゃいけない
赤岩:個人的には、もう人生折り返し地点に来てるから、死ぬ時のこと考えてて(笑)。これからの死に方みたいなのって、結構変わってくるだろうなと思ってる。
渡邉:あー。それはありますよね。
赤岩:死に方も、ちゃんと自分で考えていかなきゃいけないんだと思う。今スマートアグリっていうITを利用した農業があるんだけど、専門家の知識を全部データ化して、いろんな農園にセンサー取りつけて、その人の知識を元に温度や水量を判断する。結局その専門家の知識っていうのは、そうしてこの先も生き続けるわけじゃない? 死んじゃったら体はないけど、システムに組み込まれて生き続けるわけでしょ。
土屋:今生きてる人の持っている技術や知見がデジタルデータとして生かされていくわけですね。
赤岩:そういうことって、これから普通に起きてくるんじゃないかなって思う。例えば交通整理がめちゃ上手い警察官の知識が、信号に宿ったり。それって自分が生き続けることになるかもしれなくて、体がなくなっても、物質に宿ったりっていうことがあるかもしれない。望んでなるのかもしれないし、望んでないけどそうなっちゃうかもしれないっていう、死ぬに死ねない状況が起こるかもしれないよね。
今までは、体がなくなった時点で終わりだったけど、これからは、ある意味生き続けちゃうみたいな状態になるのかも。そういう意味で、死に方を考えたほうがいいのかなって思う。
土屋:なるほど。仮に初音ミクの声の元データの声優の方が亡くなったとしても、プログラムとしての初音ミクは存在し続けて歌い続けるみたいな。冷静に考えたら世の中すっかりSFの世界になってますね。
千房:昔IS Parade(※)で、亡くなった山口小夜子さんのアカウントがパレードを歩いてるのを見たときに、ちょっとショック受けた。
赤岩:これって、ちゃんと仕組みがデザインされてないと混乱する話だと思うんだよね。FacebookとかTwitterのアカウントとかもそうだし。あとさ、ニコ動の削除された動画にコメントを残すことで、墓参りみたいな感じがあるよね。
土屋:ありますね。亡くなったタレントのブログに追悼コメントが延々書いてあって、「来年また来ます」みたいな。
赤岩:そこがお墓になってるんだよね。だから、お墓もインターネット上に自然にできてくると思う。
千房:そうだよね。そうやって自然発生的に出てくるものだって本当のお墓だよね。もはや“自分の記憶”よりもGoogleで見つかる“自分の記録”の方が密度も範囲も増してきているという現実もあり。
赤岩:いろんな形ができて、じゃあ自分はどうしたいのかっていうのを考えないと。
土屋:死んだ後のアカウントをどうするかとか、これから亡くなる方の中でインターネット上にアカウントを持っている方の比率も増えていくことは間違いないでしょうし、今まさに議論されるべきトピックだという気がしますね。
90年代以降、インターネットユーザーが爆発的に拡大するにつれて、インターネットの中の世界は独自のリアリティを獲得するようになってきました。それが「インターネットっぽさ」っていう共通の感覚だと思うんです。そして今度は、そのリアリティが逆に現実社会に影響を与えるようになってきた…。この流れは、今日最後にあった死ぬことについての話もそうだけど、決して大げさではなく、今後より色濃く僕たちの生き方に影響を与えていくのだと思います。
そして、今日ぼくたちが話をしている「インターネットっぽさ」という感覚も、いつかは当たり前になるか、まったく別の形に変化して、理解できない感覚になってしまうのかもしれないですよね。昔は電卓の計算結果を確認するために電卓の横にそろばんついてたんだよ!みたいな(笑)。それこそ、今日のお話は100年後の人たちが見たら民俗学的にすごく貴重な話かもしれません。今日は面白いお話がたくさん聞けました。ありがとうございました!
(※)IS Parade:twitter IDを入れるとフォロワーと一緒に行進できるパレード・ジェネレーター。第14回(2011年)文化庁メディア芸術祭 エンターテインメント部門 大賞
エキソニモ
(IDPWネーム:Sister Abalone、Last Fish)
怒りと笑いとテキストエディタを駆使し、さまざまなメディアにハッキングの感覚で挑むアートユニット。千房けん輔と赤岩やえにより1996年よりウェブ上で活動開始。2000年より活動をインスタレーション、ライヴ・パフォーマンス、イヴェント・プロデュース、コニュニティ・オーガナイズなどへと拡張し、デジタルとアナログ、ネットワーク世界と実世界を柔軟に横断しながら、ユーモアのある切り口と新しい視点を携えた実験的なプロジェクトを数多く手がける。国内外の展覧会やフェスティバルで活躍。2006年《The Road Movie》がアルス・エレクトロニカ ネット・ヴィジョン部門でゴールデン・ニカ賞を受賞。2010年に東京TDC賞で《ANTIBOT T-SHIRTS》がRGB賞を受賞。2013年、東京都写真美術館にiPhoneアプリ「Joiner」他2作品が収蔵される。IDPW正会員。
萩原俊矢
(IDPWネーム:Gray Sea Star)
ウェブ・デザイナー。2012年、セミトランスペアレント・デザインを経てセミ・セリフを設立。ウェブ・デザイン、ネット・アートの分野を中心に幅広く活動し、同時にデザインと編集の集団クックトゥや、flapper3としても活動している。CBCNETエディター。IDPW正会員として第16回文化庁メディア芸術祭エンターテイメント部門新人賞を受賞。
渡邉朋也
(IDPWネーム:Tomorrow Shark)
1984年生まれ。コンピュータやテレビジョンといったメディア技術をベースに、自作のソフトウェアを用い、パフォーマンス、インスタレーション、映像作品などを制作する。主な展覧会に「Central East Tokyo」(2007年~2009年 東京馬喰横山周辺 )、「scopic measure #07」(2008年 山口情報芸術センター)、「redundant web」(2010年 インターネット上)などがある。2010年からは谷口暁彦とともにCBCNETにてエッセイ「思い出横丁情報科学芸術アカデミー」の連載を開始。主な受賞に第2回京急蒲田処女小説文藝大賞優秀賞、グッドデザイソ賞がある。