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半径ワンクリックNo.3

IDPW×土屋泰洋:前編「インターネットを経由した"感じ"がインターネットヤミ市の現場に現れた」

2014/03/31

今回の「半径ワンクリック」は、「ネットワークが降臨する場」をテーマに活動し「100年前から続くインターネット上の秘密結社」を名乗るIDPW(アイパス)(http://idpw.org/)のメンバーに、土屋泰洋さんがインタビュー。話題となった「どうでもいいね!ボタン」や、フリーマーケット「インターネットヤミ市」など、インターネットをテーマにしたユニークな活動を展開するIDPWの謎に迫ります。メンバーのエキソニモ(赤岩やえさん、千房けん輔さん)は福岡、渡邉朋也さんは山口、萩原俊矢さんは東京在住のため、今回はGoogle ハングアウトを利用してお話を伺いました。

エキソニモ:赤岩やえ(IDPWネーム:Sister Abalone)
エキソニモ:千房けん輔(IDPWネーム:Last Fish)
萩原俊矢(IDPWネーム:Gray Sea Star)
渡邉朋也(IDPWネーム:Tomorrow Shark)

場所とインターネットをつないで何かやろうと、月1回くらいのパーティーを始めた

土屋:IDPWって、そもそもどうやって始まったんですか?

赤岩:私たち(エキソニモ)は2011年に福岡に移住したんだけど、活動するベースをつくるのに場所があったらいいなと思って探したら、100平米の倉庫みたいな場所を見つけたんだよね。東京や他の場所に住んでいる人にも声を掛けて、そこを拠点に場所とインターネットとつないだ何かができないかな、というので始まったのがIDPW。

土屋:じゃあ、最初に場所ありきだったんですね。

赤岩:そうそう。その建物自体はFUCAという名称で、アーティストインレジデンスとかイベントスペースもあって、そこの2階をIDPWが使わせてもらうことになった。それが決まる前から、萩原君や渡邉君と「何かやりたいね」って話をしていたから声を掛けて、まずは月1回くらいのパーティーを始めたんだよね。

土屋:IDPWメンバーのみなさんの役割は、それぞれどのようになっているんですか?

千房:仕事じゃないので、みんなそれぞれ自分の興味の範囲で関わっていて、完全に役割分担してるわけじゃないんですよ。

土屋:やはりエキソニモが中心になっているんですか?

萩原:中心といえばそうですね。その時々で中心がずれたりしながらも、IDPWのコアにはやっぱりエキソニモがいるのかなと思う。

千房:言い出しっぺとしての役割はあるけど、まあ臨機応変にって感じだね。

赤岩:IDPWって今、合計何人いるんだっけ? ちゃんと把握してないんだよね。

千房:10人くらいかな。深く関わってくる人は、5、6人。今日いるメンバーの役割でいうと、なべたん(渡邉さん)は知識の引き出し担当。あとホームページビルダー使いでWeb1.0担当(笑)。

土屋:ホームページビルダー!懐かしいですね。確かにIDPWのサイト(http://idpw.org/)はWeb1.0っぽいテイストですね(笑)。

渡邉:僕がホームページビルダーを持っていて…。

千房:バージョンいくつだっけ。

渡邉: 6.5です。ホームページビルダーは、6から7あたりが黄金期なんですよ。

土屋:(IDPWホームページのソースを見て)あ、本当だ、ちゃんとホームページビルダーのメタタグが入ってる!(笑)。

萩原:で、それをさらに僕がモダンウェブ風にアレンジしたり。

土屋:あまり見たことないハイブリッド感ですね(笑)。渡邉さんが引き出し兼ホームページビルダー使いとすると、萩原さんはどんな感じなんですか?

赤岩:萩原君といえば「どうでもいいね!ボタン」(※1)だよね。あれはいつごろだっけ?

渡邉:2012年の9月頃ですね。IDPWの定期的なミーティングの中で、萩原君が「どうでもいいね!ボタンというものを作ったんだけど、これをIDPWから配布できないか?」って言いだして。で、みんなで「今後はIDPWとしてこういうアプリとか出していくって面白いね」って感じになって、ホームページにIDPW Porto(http://idpw.org/porto/)っていうコーナーを作りました。いまのところ「どうでもいいね!ボタン」しか出してないんですけどね。

萩原:あとは、千房さんがGoogle ハングアウトの目隠しアプリを作っていて…。

千房:これはMEKAKUSHIっていうGoogleハングアウト用の簡単なアプリなんだけど、これも公開しておこうかなと。

土屋:あ!自動で目隠しが入る!これは怪しい(笑)。

 

手で食うとチャンネルがガチャンって切り替わる

土屋:IDPWの活動として、月一回くらいのパーティーをやり始めたということなんですが、サイトで過去のパーティーの記録を見てみると、1回目が「featuring手」とあります。これは手で物を食べるパーティーのようですが、どういう経緯でこの内容に?

赤岩:一番最初の企画はいい加減な感じから始めないと、きっとみんな真面目になると思って。これくらいハミ出すのもありっていう気持ちで(笑)。

千房:手食いに関しては、わが家で流行ってた時期があったんだよね。

赤岩:そうそう。普通の和食を、それも定食みたいなやつを、あえて手で食うっていうのを定期的にやってる時期があって。

土屋:カレーとかじゃなくて、定食を、手で。

赤岩:そうそう。手で食うとチャンネルがガチャンって切り替わるような、すごいリフレッシュされる感じがあるんだよね。それを、みんなで体験したいなって思って。「なんで手なの」っていうのはみんなに聞かれて…。

千房:そこら辺は、萩原君、説明お願いします(笑)。

萩原:今まではマウスとかキーボードっていう入力端末越しにインターネット上にあるコンテンツに触れていたけど、スマホ時代になると画面にタッチして直接コンテンツに触れるようになったじゃないですか。だからおかずっていうコンテンツにダイレクトにタッチすることが現代の食べ方ではないか、と(笑)。

実際に手で食べてみると、なんか悪いことしてるような感覚があったり、熱さとかも感じ方が違って、食感だけじゃなくて触感もあって…。

土屋:妙な納得感がありますね(笑)。身体性、重要ですね!

赤岩:そうそう。やっぱり手を鍛えていかないとね!

「featuring手」の様子

 

渡邉:インターネットって基本的には視覚的な媒体だけど、これから触覚や味覚にまで拡張していくかもしれないですからね。そういう意味でも今のうちに鍛えといた方がいいですよ。

土屋:IDPWのインターネット的に見える活動が「手で食う」っていう、極端にフィジカルなところから始まっているのが面白いですね。

 

サンバを踊りながらインターネットしてるのか、インターネットしながらサンバを踊ってるのか

土屋:そして、2回目のパーティーは…「サンバ教室」って書いてありますけど(笑)。

萩原:これは、むちゃくちゃ楽しかったです!

渡邉:100年の歴史で見ても、かなりエポックメーキングなイベントだったと思います。

千房:そうだね。これがIDPWの方向性を決めたよね。

赤岩:これはね、IDPWのメンバーの一人がサンバって言いだしたんだよね。

千房:唐突に「サンバが踊りたいんですよね」って(笑)。それでサンバ教室をやろうってことになったんだけど、誰もサンバ踊れないし先生もいないから、当日イベント中にインターネットで探すことにした。

以前IDPWのオープニングパーティの時にGoogle ハングアウトをオープン状態にしておいたら、知らない外国人がどんどん入ってきて勝手にチャットを始めて、しかもこっちのパーティー会場がうるさいから、逆にこっちが30分に一回追い出されるっていうのがあって。その経験が面白かったので、公開Google Hangoutで、飛び込んできた人をあてにして場当たり的にサンバの先生を探すイベントにしたという(笑)。

土屋:主催者が追い出されたんですか(笑)。結局サンバの先生は現れたんですか?

千房:サンバの先生は現れなかったんですけど、サンバ的な人たちはいっぱい現れて(笑)。

渡邉:そうそう、サンバっぽい曲をギターで弾ける外国人が乱入してきて、その人のギターに合わせて僕らが踊ったりしていました。

土屋:IDPW側はパーティー会場だからみんな踊って盛り上がってるけど、ハングアウト越しでつながってる外国の人は部屋にいるわけですよね。

千房:そうです。接続してる向こう側の人は、多分1人で部屋に居るんでしょうけど(笑)。

萩原:だから温度差はすごいですよ。

千房:この時なべたんが、「チャクラ開いた」みたいなこと言ってたよね。

渡邉:そうですね。このイベントって、ダンスとインターネットをパラレルに接続したような、そういう特殊な行為を実現したところがあったと思うんです。それで、実際にそういう行為を体験してみて、インターネットをする時の身体の有りようというんでしょうか、そういったことに意識が開いたんですよね。

土屋:途中で回線が切れると、当然音楽も止まっちゃうわけですよね? 遅延が起きればリズムがこけたりして、ダンスフロアはそれに引っ張られるんでしょうね。そういう接続状況に依存するところもインターネットに踊らされてるのか、踊りながらインターネットやってるのか分かんない感じがあって面白そうですね。

渡邉:まさしくダンスフロアがインターネット化したような感覚がありました。会場ではハングアウトの画面をプロジェクターで大画面に投影していたのですが、それもあってインターネットとリアルな空間が地続きでつながっているような感覚もありましたね。そもそもインターネットをするという行為は、スクリーンだけを見て、スピーカーから放たれる音だけに耳を澄ませていれば完結するものではないんですよ。もっと全感覚的で、総合的な体験なんじゃないか。そういう確信めいたものをこのイベントで掴んだ気がします。

「サンバ教室」の告知画像

 

千房:そのあと「ワールドワイドビアガーデン」という、いろんな場所にいる人たちがインターネットでつながってビールを飲んで、世界一でかいビアガーデンを作ろうっていうパーティーや、敬老の日に耳栓やおもりやゴーグルを使ったり、空間もスモーク炊いてプロジェクターもピンぼけにしたりして、空間全体で老人の身体を体験できるようにして老人を敬うパーティ「K-RAW」をなんかがあって、2012年の11月に「インターネットヤミ市」をやりました。

 

そこら辺を歩いているだけで視界が全部インターネットに見える

土屋:インターネットヤミ市ってそもそもどんなコンセプトで、どういう経緯で行われたんですか?

千房:トランス・アーツ・トーキョーっていうアートイベントがあったんですけど、そこに伊藤ガビンさん(※2)が場所を持っていて「IDPWでインスタレーションでも何でもいいからやらない?」って話があって。

赤岩:「ドークボット」(http://www.dorkbot.org/)っていう、電気で変なことする人たちのコミュニティーが世界各地にあるんだけど、以前、その東京支部の「ドークボット東京」っていうのをオーガナイズしていたことがあって。そのイベントの一環でフリーマーケットをやったらすごく活気があって面白かったので、インターネット版もきっと面白ことになるだろうっていうところからアイデアが生まれたんだよね。

千房:以前、エキソニモで開発したiPhoneアプリがApp Storeの審査でリジェクトされたことがあって。App Storeでは販売できないけど、直接会ってケーブルを挿してインストールすれば売れるよねって話をしていて。最近インターネットが以前より自由さが無くなって窮屈になってきたというのは、みんなが感じていることだと思うんですけど、それに対する斜め上の対処法みたいな感じで企画が決まっていった。企画自体は「インターネットに関するものを売り買いしよう」っていうシンプルなものだから、取りあえず面白いことをやってくれそうな人たちに声を掛けて、何が出てくるかは当日のお楽しみで。

土屋:僕、インターネットヤミ市の1回目は残念ながら参加できなかったんですけど話は聞いていて、イベント前はどんな感じになるのか全然想像つかなかったんです。でもレポートとか読むと、出店者がみんなそれぞれの解釈で「インターネットっぽいもの」を出品していて、これは面白いなと思いました。

千房:その場にいる人の言った言葉を、大声で繰り返す「リアル・リツイート」ってパフォーマンスをする全身タイツのパフォーマー「インターネットおじさん」が人気者になったりね(笑)。それぞれが自分なりに文脈を解釈して出品してくれていることにびっくりした。

赤岩:あと、世代によって出すものが違う印象があった。私たち上の世代はアプリケーションとか「形のあるもの」を売るっていう発想が多いんだけど、若い子たちは会話とか握手とか「形のないもの」を売っていて、そういう違いが出てきたことが面白いと思った。

インターネットヤミ市の様子

 

土屋:形があるものとないものといえば、渡邉さんが販売していた、山口県で採取した岩石と、それをスキャンした3Dデータのセット(※3)は、話題になっていましたね。

渡邉:そうですね。漠然と石が売れるんじゃないかって思って、極力ありがたみの少なさそうな家の前の石を拾って、それの3Dデータとセットで販売したところ、開始20分くらいで全て完売してしまいました。石ってインターネットに関係なさそうに見えるけど、むしろ「インターネットに存在しないからデータとセットで売る」という理屈でやっていました。

あと、インターネットヤミ市では、スマホやパソコンといった端末が手元に無くても、インターネットをしている感覚があった。どういうことかと言うと、もうインターネットヤミ市の会場そのものがインターネット化していたんですよね。自己の肉体というリアルブラウザを駆使して、リアルインターネットとしてのヤミ市会場をリアルブラウズする。とにかく、そこら辺を歩いているだけで視界が全部インターネットをしているように感じられるっていう。

赤岩:そうそう。インターネットを経由した“感じ”がインターネットヤミ市の現場に現れた。例えばリクエスト聞いてモノマネする人がいたのね、それを見てると、モノマネしてるだけなんだけど、なんかすごい解像度の高いYouTubeを見てるような気分になって。こっちのマインドがインターネットを経由してるだけなんだけど(笑)。

渡邉:そう、リアルブラウザなんですよ、本当に。

萩原:僕もその「解像度の高さ」を感じました。何ていうか「どうインターネットに関連してるんだろう」って考ながら商品を見てるのって、ひと昔まえのブラウジングというかインターネットサーフィンをしていた時のことを思い出すんですよね。

土屋:今やインターネット上に何でもあるがゆえに、逆説的に何でもインターネット的に見えてしまうという…。インターネットヤミ市などのIDPWの活動を通して「インターネット的だよね」って、みんなが口をそろえて言うところの、「インターネットっぽさ」の正体って何なんでしょうね。

渡邉:ある意味で、それを探し求めて、ベルリンでインターネットヤミ市をやったのかもしれないですね。海外でやってみて、日本と同じところもあるし、多少違うところもあった。でも「インターネットって何だろう?」っていう問いへの答えは、まだ明確には分からないんですよね。

次回に続く)

(※1)「どうでもいいね!ボタン」:facebook.com上のすべての「いいね!」ボタンを一括でクリックできるGoogle Chromeのアプリ。第16回(2012年)文化庁メディア芸術祭 エンターテインメント部門新人賞受賞。

(※2)伊藤ガビンさん:編集者。雑誌『ログイン』の編集を経て、93年、ボストーク(株)設立。編集、執筆、CG制作、映像制作、テレビ番組企画、ゲームソフト開発などを中心に活動中。女子美術大学短期大学部造形学科デザインコース教授。

(※3)石をスキャンした3Dデータのセット:山口県で拾ってきた岩石と、その3Dデータのセットを時価で販売し完売。

 

エキソニモ (赤岩やえ、千房けん輔)
(IDPWネーム:Sister Abalone、Last Fish)
怒りと笑いとテキストエディタを駆使し、さまざまなメディアにハッキングの感覚で挑むアートユニット。赤岩やえと千房けん輔により1996年よりウェブ上で活動開始。2000年より活動をインスタレーション、ライヴ・パフォーマンス、イヴェント・プロデュース、コニュニティ・オーガナイズなどへと拡張し、デジタルとアナログ、ネットワーク世界と実世界を柔軟に横断しながら、ユーモアのある切り口と新しい視点を携えた実験的なプロジェクトを数多く手がける。国内外の展覧会やフェスティバルで活躍。2006年《The Road Movie》がアルス・エレクトロニカ ネット・ヴィジョン部門でゴールデン・ニカ賞を受賞。2010年に東京TDC賞で《ANTIBOT T-SHIRTS》がRGB賞を受賞。2013年、東京都写真美術館にiPhoneアプリ「Joiner」他2作品が収蔵される。IDPW正会員。

萩原俊矢
(IDPWネーム:Gray Sea Star)
ウェブ・デザイナー。2012年、セミトランスペアレント・デザインを経てセミ・セリフを設立。ウェブ・デザイン、ネット・アートの分野を中心に幅広く活動し、同時にデザインと編集の集団クックトゥや、flapper3としても活動している。CBCNETエディター。IDPW正会員として第16回文化庁メディア芸術祭エンターテイメント部門新人賞を受賞。

渡邉朋也
(IDPWネーム:Tomorrow Shark)
1984年生まれ。コンピュータやテレビジョンといったメディア技術をベースに、自作のソフトウェアを用い、パフォーマンス、インスタレーション、映像作品などを制作する。主な展覧会に「Central East Tokyo」(2007年~2009年 東京馬喰横山周辺 )、「scopic measure #07」(2008年 山口情報芸術センター)、「redundant web」(2010年 インターネット上)などがある。2010年からは谷口暁彦とともにCBCNETにてエッセイ「思い出横丁情報科学芸術アカデミー」の連載を開始。主な受賞に第2回京急蒲田処女小説文藝大賞優秀賞、グッドデザイソ賞がある。