コンテンツマーケティングで、良きマーケターをめざす
2015/03/25
過去2回では、なぜ私たちがコンテンツマーケティングにたどり着いたか(第1回)、コンテンツマーケティングを実施する際の苦労と向き合い方(第2回)を、ネクステッジ電通の杉浦さんとお話ししてきました。3回目となる今回は、コンテンツマーケティングに携わるマーケターのあり方が見えてくるのではと思います。
郡司:いよいよ4月から新年度ですが、昨年度との違いはどんなところにありそうですか?
杉浦:僕は、2014年がコンテンツマーケティング元年だったと捉えています。そして今年はチャレンジをする実行の年。ここで本当に成果を出していけるのか、正念場かと思います。各企業でトライアルが始まっていますし、それに応える専門会社も目立ち始めています。
ただ、スタートアップやベンチャーなどのレベルでは、コンテンツでこんなに上手くいきましたという話はありますが、大手企業となると国内では例が少ない。今年は、いわゆるナショナルクライアントが腰を据えて取り組むだろうと思っています。
郡司:私も同じ認識です。以前、杉浦さんに「私の周辺では、ブランドのファンをつくりたい。エンゲージメントを強めたい、といった相談があるのだけれど」と話したことがあったじゃないですか。あのとき「郡司さん、そんなの、測れないからだめです。それは置いといて」って言われましたよね。
杉浦:そうでしたっけ(笑)。
郡司:デジタルマーケティングの領域が広がり、そこに求められる目的も多様化していると感じています。最終的なゴールはセールスなんだけど、コンテンツでダイレクトにセールスに繋げようとすると、買おうかどうしようか迷っている一部の人しかターゲットにできない。だから、まだ買う気持ちになっていない人に対してはブランドとの関係づくりやエンゲージメントを強めるための、コンテンツが必要、ということになってくる。結果的に課題やゴールは違ってもやっぱり、コンテンツマーケティングの考え方が必要になっているという感じが、私の肌感覚としては去年あたりからきているように思います。
「いいね!」後の行動を追うか否か
杉浦:これは私の性格も影響していますが、10年以上も前から、例えば家電や自動車のような、たとえウェブ上だけで購入が完結しないような商品であっても、デジタルの施策を展開したことで「商品が売れたかどうか」は常に気になってしまうので、売り上げの推移を確認したり、来店のデータなどを預かって分析をしたりしていました。一方で、ウェブユーザーの行動データを解析すれば、そのユーザーのインサイトが見えてきます。どんなコンテンツが興味を持たれてページに滞在し、どんなコンテンツであれば離脱されてしまうのか。
一方で、行動だけで分からないことがあれば、アンケートを掛け合わせて心理変容を捉えてみる。その中で、これはどういう仮説が成り立つのか、その仮説は正しかったのか間違っていたのか、なぜ間違ったのかなど試行錯誤してきたんです。そうしたことがデジタルの世界、特にダイレクトマーケティングの世界では如実にわかる。怖い世界ではありますが、私の体質には合っていると思います。
郡司:そうしたことはソーシャルメディアが出てきてからさらに加速していますよね。そうでなかったら私と杉浦さんは同じ電通グループで会うこともなかったし、仕事することもなかったと思います(笑)。そこが根本的に変わってきていますよね。
もともとマスメディアでコミュニケーションのプランニングをしてきた私たちは、ブランドとか、エンゲージメントとか、ファンになるといった課題になかでどういう企画がどんなふうに人の心を動かすのか、行動を起こさせるのか、をこれまでも考えてきたので、そういった物語作りや企画設計、までトータルでできます。ただ、評価は1つ1つのコンテンツを見て◯×つけていけばいいというものではないのですよね。改善していくために何が分かりたいか。コンテンツの消費傾向だったり、コンテクストだったり、見ている人たちのプロフィールだったり。いろいろです。
さらにそうやってコンテンツが改善されていくことが事業に対してどう効果を与えるのか、かなり俯瞰して一つ一つロジックをつなげていかなければならないのですが、1つのコンテンツにフォーカス当てすぎちゃうとぶっちゃけた話、もうグチャグチャになってしまうのです。
杉浦:例えばFacebookページ上でファンを増やして継続的なブランドとの接点を作ることで、エンゲージメントを高める施策を展開するとします。厳密に効果を測ろうとすればFacebookのIDを自社のCRMのIDと紐づけられる形で取得し、自社で「いいね!をした人」が「いいね!をしていない人」と比べて、その後のLTV(顧客生涯価値)にどのような差が出ているのか、というところまで見ることでその効果を検証する必要があると思うんですが、実際には「『いいね!』が何件とれました」で終わることが少なくない。本来は「いいね!」をした人のその後の行動を追いかけないと、一線は越えられないんです。
郡司:根本的なことですが、コンテンツマーケティングはコンテンツによってターゲットに態度変容を求めていくという考え方なのですが、オウンドメディアで自ら情報発信をしていくことがコンテンツマーケティングと捉えられていたり、とにかく生活者を喜ばせるコンテンツをつくることがコンテンツマーケティングだと思われていたりするケースも多々あります。トライアル段階なのでKPIは考えずやっていこうというケースもある。そうしていくと、どんどん情報発信をし、ユーザーと直接会話ができる回路まではできてもその先で壁につきあたってしまいます。
コンテンツマーケティングを突き詰めることは、マーケティングを突き詰めること
杉浦:先ほど分析の話をしたのは、いま語ってきたようなことが「やりやすくなってきている」「ユーザーの行動を捉えやすくなってきている」というだけの話で、別にウェブ上の「クッキー」に紐づくユーザーの行動だけが全てでもない。
たとえば、肌感的にウェブサイトに10万人の人がやって来て、そのうちの1万人の人が、すごくいい体験をしたとしたら、それはマーケティングとしてどんな意味があるのか。テレビで1000万人にリーチし、300万人の認知を獲得することに比べて、どちらを優先すべき、あるいはどう棲み分ける話なのか。コンテンツマーケティングを盲目的に選択するのではなく、そもそもターゲットの違い、目的の違いなどを、他の手法などと比較しながら理解し、相対化して確信を持てるか、または判断ができるかが大事と思う。これはコンテンツマーケティングというよりも、そもそものマーケティングの話です。
郡司:コンテンツマーケティングを突き詰めて考えていくと、「良きマーケターになる」ということに尽きるのだと思います。良きマーケターであれば、コミュニケーションでごまかしがきかなくなっているなかで従来のようなイメージづくり偏重のブランディングは難しくなっている、とか、ブランディングにおいてはイメージづくり以上に関係づくりが大事になっているということに気がついていると思います。ただ関係づくりは時間がかかるので、早く始めないといけないということですよね。
杉浦:僕は、今までマーケターが本当にやりたかったことができる環境になってきたと実感しています。マーケティングの理論上はボヤッと捉えられていた部分が、社会にデジタルなものが浸透したことで、自分たちの施策がこんな風に受け取られ、それによって起こったアクションや、気持ちの変化がわかり、行動に結びついているというのが見える化してきている。
その意味では、私が個人的に好きな格闘技の話に例えると、マーケティングは総合格闘技のような世界になっているともいえるかもしれません。結果が出てしまうからこそ、まずは勝つことが大事。短期的であれ、長期的であれ、売上という最終成果に結びつけることが大事であると。それにはボクシングだけ、柔道だけ、プロレスだけではダメで、クリエーティブも、データも、運用もそれぞれ大事ですし、それらをどう組み合わせて手を打つかというマネージメント、さらにはプロデュースというところまで目配りが効くかも必要。
かつ、その「戦闘力」は、本を読んで知り得るような知識だけで高まるわけもなく、スパーリングや実戦をこなしていくことによって磨かれるものです。この世界においては、オリンピックの金メダリストであっても、まだ見ぬブラジルの強豪に秒殺されることもある。一方で、金メダリストほどのポテンシャルと基礎能力をベースに、適切なトレーニングと実戦経験を積めば、最強。この話は長くなるのでこのあたりにしておきますが(笑)、広告業界における「群雄割拠」とも言えるこの状況にワクワクしながら仕事をしています。
郡司:総合格闘技的チームって、ある種の異文化コミュニケーションが求められますよね。実際ネクステッジチームと仕事をしていると、言語が違うのでしばしば議論になるんです。でも最後は言い合いになるくらいよくよく話をしてみると、実は同じことを言っていることが多々あります。すごくタフな打ち合わせだけれど、互いに学ぶことが多くていつもわくわくします。
【Gunji's eye】
過去の対談を通じて、具体的になったことは今回タイトルにもした「良きマーケターになる」ということ。マーケターに何が求められているかを誠実に考え抜いていくと自然と、コンテンツマーケティングというアプローチに行き着くのだと思います。コンテンツマーケティングは、いま着手すべき流行りの手段、というよりも、いまの生活者をとりまくメディアや情報環境のなかでは最適なマーケティングの方法、と捉えるべきなのでしょう。
コンテンツマーケティングに着手するにあたり、視点を変える必要があったり、いままでの経験を超えるような苦労があったりすること。杉浦さんとは、この対談だけでなく実際のプロジェクトのなかでも共有し、確認し合う日々です。