【続】ろーかる・ぐるぐるNo.53
広告志望の学生とマーケティング
2015/04/02
桜の季節ですね。こうなると週末は花見。だらしがなく昼酒を満喫です。
これよりちょっと前。「もうすぐ春ですね」という時期、築地の居酒屋に行ったら、ニシン、メバル、サワラにサヨリ。「春告魚」と呼ばれる魚を見つけるのが楽しみです。「春告鳥」といえばウグイス、「春告草」といえばウメというのが定番でしょうか。でも知人が言うのは「秋田ではギバサが春を告げる草だ」ということです。
「ギバサ」とは標準和名をアカモクという一年生の海藻。日本全国に広く分布していますが、まだまだ雪が残る春先に、なかなか新鮮な野菜が手に入らない秋田県では昔から愛されているそうです。熱湯にくぐらせて包丁でたたくとヌルヌル、トロトロ。やっぱり秋田県民はこの種の粘り気が大好きなようです。
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さて、今年は就職活動が後ろ倒しになったせいでしょう。この季節になっても多くの学生さんにお目にかかります。そんなときによく出るのが「わたし、広告会社でマーケティングをやりたいんです」「広告会社なら、偏りなくいろいろな業界のマーケティングができますよね?」といった質問です。皆さんならどう答えますか?
ぼくはたいてい「もし本当にマーケティングをやりたいなら、たとえばメーカーに行く方が良いかも」と言います。別に意地悪のつもりはないのですが、予想外なのでしょうか、学生さんは目を白黒させます。
日本マーケティング協会の定義によれば「マーケティングとは、企業および他の組織がグローバルな視野に立ち、顧客との相互理解を得ながら、公正な競争を通じて行う市場創造のための総合的活動である」ということです。アメリカマーケティング協会は“Marketing is the activity, set of institutions, and processes for creating, communicating, delivering, and exchanging offerings that have value for customers, clients, partners, and society at large.”(マーケティングとは、顧客、依頼人、パートナー、社会全体にとって価値のある提供物を創造・伝達・配達・交換するための活動であり、一連の制度、そしてプロセスである)と定義しています。古典的にはProduct、Price、Place、Promotionの「4つのP」で整理されますが、いずれにせよマーケティングとは「市場創造のための総合的活動」を意味します。
そして、残念ながら広告会社が主に手掛けるのはPromotionの半分にあたる「広告領域」に過ぎません。もちろん商品開発のお手伝いをすることもありますが、例えば麺のスープをとんこつベースにするか、チキンベースにするか、最終的な意思決定をするのは常にクライアントです。価格政策や流通政策に関与する機会も多いとは言えません。
たとえばメーカーの事業部なら、このすべての役割を果たすことになります。まさに総合活動としての「マーケティング」をできるのです。
誰でも赤ちゃんの時には「末は博士か大臣か」、ありとあらゆる可能性にあふれています。成長し、たとえば理系と文系を選択しても、まだ世の中の半分くらいの選択肢は残っています。それが就職となると急に「保険?食品?鉄鋼?物流?そこからひとつ選びなさい」なんて言われて困っちゃうのでしょう。「ひとつに絞れないし、広告会社ならいろいろな分野をできるからいいかも」なんて考えたくなる気持ちも理解できます。
でも残念ながら広告会社で「いろいろ」はできません。その代わりマーケティング領域の4分の1の、そのまた半分の「広告」を思いっきりやることができます。単にCM制作やメディアバイイングに限らない、広い広い意味での「広告」にどっぷりつかることができます。
実はぼくも大学4年の時、竹内弘高先生から「広告代理店にマーケティングなんかないですよ」と言われても「またご冗談を」と聞き流していた経験があります。幸い「広告」がとても楽しかったのでよかったですが、先生の真意は入社後しばらくしてからようやく理解できました。
大学生の皆さんが後悔しない就職活動ができますように。心から応援しています。
さて次回はコピーライターの磯島拓矢さんのお話をしようと思います。
どうぞ、召し上がれ!