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食品の機能性表示制度で広がるビジネスチャンス②
~“20年先行く”米国ヘルスケア市場の変遷とビジネス事例~後編

2015/04/29

4月1日に食品の機能性表示制度が施行された。44年ぶりの大改定といわれている今回の新制度。その施行によって日本市場はどうなっていくのか。ビジネスチャンスはどのように広がっていくのか。電通ヘルスケアチームのメンバーが有識者に話を聞いた。


日本の食品の機能性表示制度は、米国のダイエタリーサプリメント制度を参考に検討が重ねられてきました。米国で機能性表示が導入されたのが、今から約20年前。それ以降、米国のヘルスケア市場はどう変貌を遂げたのか。また、日本市場との共通点と相違点は何なのか。健康食品のグローバル市場に詳しいグローバルニュートリショングループの武田猛氏に聞いた。

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栄養成分の多様な訴求と、きめ細かいカテゴリー戦略

瀧澤:日米で、製品戦略の違いは生まれそうですか?

武田:米国は科学的根拠を製品情報の中で示さなくていいこともあって、消費者にとっては、どの製品が自分に必要なのか分かりにくい側面はあります。しかし、それを補うために、摂取対象者を明示して訴求する手法をよく取っています。例えば、マルチビタミンを販売するある会社では、商品を男性向けと女性向けにまず分けて、男女共に40歳以上というカテゴリーを設け、さらにそれぞれのカテゴリーで、機能性の訴求ポイントを分けるといった、非常にきめ細かい品ぞろえをしています。

※日本の新制度では、ビタミン/ミネラルは対象外
 

瀧澤:米国の市場推移も踏まえ、日本の機能性表示食品の今後のトレンドについてどのように捉えていらっしゃいますか。

武田:私見になりますが、今後予想されることを「10のシナリオ」として挙げてみました。

【図1】

図表1
 

最初の「売り場が変わる、売れ筋が変わる」について言えば、前述のように、販売チャネルや売れ筋商品には、日米で大きな違いがあります。そんなに劇的な変化は起きないにしても、科学的根拠を踏まえた売り場づくりや商品訴求をする傾向が高まっていくのは間違いないでしょう。それと連動して、消費者の知識も確実に向上して関心も高まっていく。
また、機能性表示をする商品が増えると、商品ごとの機能・品質の差がなくなるコモディティー化も進む。機能性表示食品のプライベートブランドも増えるはずです。
先ほど、米国のマルチビタミンのカテゴリー戦略を紹介しましたが、日本でもカテゴリーマネジメントが成長の大きな鍵を握るようになります。これまでは単品型通販で成長してきた企業が多いですが、今後は、カテゴリーの細分化や、販売チャネルの多様化が加速するでしょう。また、従来の情緒的なマーケティングの世界が、機能的なマーケティングに変わっていくので海外企業も参入しやすくなる。国内の異業種からの参入も増えるでしょうし、M&Aや水平・垂直統合、さまざまな形で企業規模の拡大や合従連衡が起きてくるのではないでしょうか。

機能性表示だけでなく、ベネフィットをどう伝えるか

瀧澤:メーカー側は、消費者へのコミュニケーションについて、どのような注意・工夫をすべきでしょうか?

武田:機能性を表示すればそれだけで商品が売れるかというと、決してそうではありません。機能性に附帯するコミュニケーションとして、科学的根拠の範囲内で、どこまで分かりやすく「その商品を摂るベネフィット」にまで昇華して伝えられるかは重要なポイントになります。

瀧澤:機能性表示が20年前からできる米国では、今、「食」とヘルスケアへの関心はどのようなフェーズにあるのでしょうか?

武田:米国では今、「○○フリー」という訴求の仕方が大きなトレンドになっています。デイリー(乳成分)フリー、小麦フリー、大豆フリーなど、「フリー」をうたうものが山ほどあります。それに加えて、食品または食品原料に素材本来の機能性があることを前提に、「ナチュラル」という言葉もよく使われます。「オールナチュラル+○○不使用」とうたった商品が、消費者から高い支持を集めています。
そのような食品を摂るライフスタイルが一種の社会的ステータスになっているわけですね。それから、「スーパーフード」という言葉も、ここ数年よく使われるようになりました。アサイーやマンゴスチン、ココナッツ、チアなどが人気を集めています。古代穀物も最近ファンが急増していて、南米産の穀物であるキヌアなどはすごく売れています。古代穀物入りの食品も増え、アステカなどの先住民族が常食していたチアシードは、たんぱく質と食物繊維とオメガ3が入っているということで、大変人気があります。

瀧澤氏

瀧澤:日本でも、「食」に関するブームの起き方が変わるでしょうか?

武田:科学的な視点から商品選択をするという習慣が少しずつ浸透していけば、少し違ってくるかもしれないですね。例えば、ナチュラル志向は、日本にも親和性の高い考え方です。
日本にも黒酢やニンニクなど機能性が期待できる素材はたくさんあり、サイエンスの視点を加えることによって、米国のようなブームにしていける可能性は十分にあると思います。

武田氏
 

機能性研究と医学的な研究が手を組んで進化していく

瀧澤:日本の機能性表示食品市場は、10年、20年後、米国がたどった変遷とは異なる特有の発展を遂げそうでしょうか?

武田:日本特有なのは、今回の制度の対象に生鮮品が含まれている点です。これまで、生鮮食品の分野では、有効性試験が動物までになってしまうことが多かった。たとえヒトで研究はしていても、アウトプットの機会が少なかった。今回の制度ではヒトでのデータが必要なので、食品の機能性をヒトで評価する技術は、今後10年でかなり進化すると思います。食品の機能性を研究する先生たちと、医学部系の先生たちが一緒になって、試験・評価を推進していく傾向が高まるのではないかと思います。

瀧澤:生鮮食品の機能性表示に関して、今後の課題となることはありますか?

武田:機能性に関して、健常者での臨床結果をどう収集していくかでしょうね。疾患のない人に対する効果を証明するのは非常に難しい。しかし、そんな課題に対しても、日本の企業や研究者は優秀ですから、必ず解決策が出てくると思います。


食品の機能性表示制度とは

4月から食品の機能性表示制度が始まりました。安全性と機能性の根拠となる科学的データがあれば、消費者庁に届け出ることで“事業者の責任において”、食品の機能性に関して表示ができるようになるこの制度。機能性表示食品は、早いもので6月ごろから店頭に並ぶことになります。

<新制度のポイント>
1.トクホとは異なり、国が安全性と機能性の審査を行いません。科学的根拠の内容・説明、科学的根拠と表示内容に乖離(かいり)がないことなどは、事業者の責任となります。
2.消費者庁に販売日の60日前までに届け出なければなりません。届け出た資料は、一部を除き消費者庁のサイトで全て開示され、他の事業者や消費者が内容を確認できます。
3.生鮮食品を含め、全ての食品が対象※となります。従って、食品・飲料メーカーだけでなく、機能性素材メーカー、商社、農家などさまざまな業種の参入が予想されます。

※アルコールを含む飲料、脂質やナトリウムの過剰摂取につながる食品などは対象外になります。
 

<機能性表示のポイント>
健康の維持・増進にどのような効果があるかを表示できます。
例えば、「目の健康を維持する」「良質な睡眠をサポートする」など、体の特定の部位の表示も可能。「糖尿病の人に」「高血圧の人向けに」といった、疾病の治療・予防効果を暗示する表現や、「増毛」「美白」といった、健康の維持・増進の範囲を超えた表現はできません。


電通ヘルスケアチーム

生活者視点とクリエーティビティーを強みに、「健康先進国日本」の実現とそれに向けた企業サポート業務を行っています。重要テーマの一つ「食品の機能性表示制度」については、さらに専門チームを立ち上げ、関連企業のコンサルティングやコミュニケーション業務などのサービスを提供しています。


バックナンバー
 
【食品の機能性表示制度で広がるビジネスチャンス①】
~新制度成立の背景と今後の見通し~前編[2015.04.23]
~新制度成立の背景と今後の見通し~後編[2015.04.24]
 
【食品の機能性表示制度で広がるビジネスチャンス②】
~“20年先行く”米国ヘルスケア市場の変遷とビジネス事例~前編[2015.04.27]
~“20年先行く”米国ヘルスケア市場の変遷とビジネス事例~中編[2015.04.28]
~“20年先行く”米国ヘルスケア市場の変遷とビジネス事例~後編[2015.04.29]
 
【食品の機能性表示制度で広がるビジネスチャンス③】
~新制度で広がる機能性表示食品市場の展望と課題~前編[2015.04.30]
~新制度で広がる機能性表示食品市場の展望と課題~後編[2015.05.01]