データとVRは物語る:アーロン・コブリン(後編)
2016/04/08
Dentsu Lab Tokyoではテクノロジーを用いて表現する人をクリエーティブ・テクノロジストと名付け、世界中のクリエーティブ・テクノロジストの仕事、作品についてインタビューします。連載を通して、テクノロジーからどんな新しい表現が生まれるかを探ります。
データアートの先駆者、アーロン・コブリン
前編では、アーロン・コブリン(Aaron Koblin)氏にVirtual Reality(VR)の会社を興した理由を聞きました。同氏は2008年から2015年までGoogle Data Artsチームに所属しており、昨年VRを使った映像を制作するVRSE(バース)を立ち上げてCTOになりました。後編では、起業後どのように仕事が生まれているか語っていただきます。
(今回の取材はオンラインでメッセージのやり取りを行いました)
テクノロジーが人とアートを結ぶ
木田:VRSEでのアーロンさんの役割を教えてください。
アーロン:私は現在、VRSEのファウンダーおよびCTOとして仕事をしています。一番の役割は、ビジョンを提示しチームをまとめながらプロダクトを開発していくことです。
木田:具体的にはどんなことをしていますか?
アーロン:実験です。ストーリーテリングの方法論を学んでいます。VRで良いストーリーを語るにはどの方法がベストなのか、そもそもストーリーとは何なのか、そしてVRが媒体として他とどう違うかを理解しないといけません。
例えばVRという3D空間の中で、見る人とストーリーとの関わりをどのようにつくればいいのでしょうか。ストーリーを語る時に、見る人のことを考えて設計しなければなりません。
木田:なるほど、VRはどの視点から映像を撮るかも大事になりますよね。ナレーションが子どもなら映像の視点も子どもの高さがいいのかだったり、ナレーターを映像内に映すのか映さないのかだったり。
VRSEの仕事相手は、ニューヨーク・タイムズや国連からアーティストのU2まで幅広いですね。どんな相手と組んでいきたいですか?
アーロン: VRを用いて、私たちは臨場感あふれる体験がつくりたいです。そのために、情熱にあふれたアーティスト、クリエーターと組みたい。目的は、人々が興奮し、つながりたいと思う作品をつくることです。
木田: テクノロジーを用いて鑑賞者と作品をつなげたいと思うのは、VRを用いる前も後も共通していると思います。
アーロン: 映像ディレクターのクリス・ミルクと、VRSEを興す前からプロジェクトを行ってきました。Johnny Cash Projectのようなアニメーションをクラウドソーシングするプロジェクト、そして住所を入れるとその地のストリートビューを使ったPVが流れるWilderness Downtownのようなインタラクティブなミュージックビデオなど、多岐にわたります。
VRSEでも、見る人がつながりたいと思う作品を目指したいです。私たちはストーリーテラーという観点からこの技術を理解し、使い方を考えていきたいと思います。
VRの未来を築きたい
木田: 過去のGoogle Data Artsチームと現在のVRSEを比較すると、いろいろと環境が変わったこともあると思います。作品をつくったりプロジェクトを進めたりする上で、仕事のやり方に違いはありますか?
アーロン:Google Data Artsチームはきわめて自由に実験ができる環境でした。試行錯誤しながら、よりスケールの大きいプロジェクトをリリースしていました。
VRSEで行っていることのほとんどは実験です。われわれの目標はVR制作とコンテンツ流通に関してシステムをつくることなので、アーティスト/ハッカーとして慣れているアプローチとは違う方法をとっています。
木田:直近のいくつかのプロジェクトを見ると、クリス・ミルクをはじめとしてコラボレーションした仕事が非常に多いですよね。他者とコラボレーションする上で気をつけていること、コラボレーションをする上で、自分自身の役割定義について教えてください。
アーロン:クリスと私は、互いの補完がとてもうまくできると思っています。お互い専門領域の重なりが少しだけあり、興味がある領域の重なりがたくさんあります。そして究極的にはお互いテーブルに持ち寄れるユニークなアイデアとスキルがあり、それらをすべて自分たちのスキルとして共有できます。
よいコラボレーターを選ぶことは重要です。オープンにコミュニケーションができる人を探すのは非常に難しい。相手のことを思って徹底的に率直になれて、チームとして動けることが大事です。
木田:なるほど。VRSEや自分の仕事に関して、読者に向けてメッセージをください。
アーロン:VRSEの目指している方向はとてもエキサイティングです。私たちには偉大な野心があります。これから、VRの未来を形づくりたいと思っています。
皆さんもVRを自分の目で見て、どのような進化を遂げていくかチェックしてください。映像含め、これまでのメディアは成熟するにはある程度時間がかかりました。けれどもVRについては、比較的早くパワフルなものになると思います。
木田:ありがとうございました。今後の更なる活躍を楽しみにしています!
【取材を終えて】
ストーリーテリングを通じ、テクノロジーの意味や使い方が再定義された
VRというと、テクノロジーありきの文脈で語られがちですが、アーロン氏の話を聞いていると、テクノロジーというベースは自分の専門領域としてもちつつも、ストーリーテリング、つまり「いかに伝えるか?」ということを主眼においていたのが印象的でした。彼は、データを通じて、その背後に潜む何かしらのストーリーテリングを行おうとしています。技術ありきではなく、それを用いて何を伝えたいか。これが大事なのかもしれません。
その意味でいうと、アーロン氏の姿勢は一貫しています。彼がやろうとしてきたことは、テクノロジーをテクノロジーのまま見せるのではなく、その中に人間的な要素や面白さを見つけ出し、物語る。それは、「テクノロジーで人と関わること」と言い換えられるかもしれません。Ten Thousand CentsやThe Sheep Marketは、絵描きに協力してくれる1万人がいなければできませんでした。だからアーロン氏は、完成した全体絵だけでなく一枚一枚の絵も作品としてとらえて描く過程を公開しています。The Sheep Marketではそれらを売ることもできました
テクノロジーで人と関わることは、作品制作に関わった個々の人へ興味を持つことです。VRという手段を用いてもその姿勢は変わりません。移民の立場からニューヨークを描いたWalking New Yorkも、難民の視点から撮影したThe DisplacedやClouds Over Sidraも、さまざまな立場から見える世界を映像にしています。
ストーリーテリングに主眼をおき、新しいテクノロジーを使うことにより、そのテクノロジーの意味や使い方が再定義され、より広がっていくのです。
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