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進化するEC 新しい時代のあり方とは?No.1

「安い・速い・ロングテールは付加価値でなくスタンダード」日本のEコマース市場分析

2016/08/24

現在、日本のインターネット通販(Eコマース)市場は13兆円を超える規模に成長。通信環境やデバイスの進化によって多くの人たちが手軽にEコマースを利用するようになったことで、今や私たちの生活や価値観も変わりつつあります。この連載では、電通の神野潤一氏がモデレーターとなり、近い未来のEコマースの在り方について考えていきます。第1回は、電通プロモーション・デザイン局が実施したEコマース市場に関する調査について、同局の神野氏、尾﨑直子氏、岩井孝憲氏が分析します。


 

神野:今回は、業界のキープレーヤーに話を聞く前段階として電通のプロモーション・デザイン局で独自に実施した調査の考察を通して、日本のEコマース市場の現状を明らかにしていきたいと思います。

調査概要

目的:EC利用実態と意識の把握
手法:ウェブ調査
エリア:全国
対象者:1年以内Eコマースサイト利用者(※Amazon、楽天市場、Yahoo!ショッピング、LOHACO、Yodobashi.comのいずれか1年以内利用)合計1500ss 性別・年代別のサンプル数は以下表

実施スケジュール:2016年5月19日(木)スクリーニング、2016年5月23日(月)本調査

尾﨑:経済産業省のデータに基づくと、2015年の日本国内のEコマース市場規模は13兆7000億円余りです。カテゴリーごとに差はあるものの、市場規模は右肩上がりで伸長しており、百貨店やスーパーの流通総額をしのぐ規模です。日本で楽天市場がスタートしてから来年で20年になり、すっかり生活になじんだ感のあるEコマース市場は今後もさらに成長し、毎日の生活に浸透していくのではないでしょうか。

経済産業省:平成27年度我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)BtoC-ECの市場規模およびEC化率の経年推移

経済産業省:平成27年度我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)BtoC-ECの市場規模およびEC化率の経年推移

神野:一方、市場の様子の変化も感じます。これまでは価格・品ぞろえ・配送スピードを向上させながら成長してきましたが、こうしたいわゆる“基礎体力”の向上をエンジンとした成長は終焉を迎えたという印象です。

この状況をつくったのはアマゾンだと見ています。圧倒的な品ぞろえ、低価格、そして翌日や1時間のレベルでのスピード配送など、同社が業界をリードしながら、Eコマースユーザーの中に、ある種のスタンダードをつくり上げたといっても過言ではないでしょう。アマゾンの日本での翌日配送カバー率が全国95%を超えており、“スタンダード”は十分に高いレベルまで引き上げられたと言っていいと思います。その意味で、これからのEコマース事業者間の差別化はこれらの要素での競争というよりも、付加サービスの方向性や企業ブランディングによるところが大きくなってきています。

岩井:直近の主要プレーヤーの事業規模でも、実際にアマゾンが際立っています。昨年の売上規模はほぼ1兆円、SimilarWebによる数値では5月の訪問数は4億に迫る数字です。

同時に、直近の決算ではヤフーやロハコもそれぞれ昨年対比で売上が140%、165%と大きく伸びており、市場全体が活況です。

神野:滞在時間やPVの比較も興味深いですね。高い利便性を追求するアマゾンとモール型で買い回りを重視する楽天を比べると、滞在時間やPVは楽天の方が高い傾向にあるのではとの見方もありましたが、5月のアマゾンと楽天の比較では、両社の差がほとんどないことが分かります。

岩井:Eコマース利用者に対するアンケートでは、「信頼できる」「商品が充実している」などサイトのイメージに関する項目で、主要プレーヤーの中でアマゾンがトップでした。また、「サイト内で重視する情報」では、アマゾンが「商品詳細」「商品レビュー」「レコメンド商品」で他サービスより高いスコアだったことから考えると、買う場としてだけでなく、商品を知る場としても活用されているということが言えそうです。

尾﨑:また、規模はまだ2強には及ばないロハコですが、「センスがよい」「個性がある」「おしゃれ」というブランドイメージに関する項目ではトップだったことが特徴的です。“暮らしになじむデザイン”をテーマにしてメーカーと協働した商品開発や、スタイルロハコなどコンテンツを通した訴求などの取り組みが確実にファンをつかんでいるのだと思います。

神野:Eコマース利用者の買い物意識からは、「買い物好きで、商品をよく比較して、お得に買う工夫をしている」様子がうかがえます。単に安いものを求めているのではなく、スマートに買い物をしたいということの表れではないでしょうか。ロハコは、セールを打ち出している一方で、尾﨑さんが挙げたような“きれいな暮らし”を意識した売り場づくり行っているのが支持されているのかもしれません。

尾﨑:お得に買う工夫という観点では、ポイントに関する調査に関しては楽天が圧倒的です。ポイントサービスの利用経験ではTポイントと2強ですが、主たる利用では楽天スーパーポイントが競合を大きく引き離してトップです。また、楽天ユーザーは「サイトでの購入理由」でもポイントサービスを挙げています。

岩井:ポイントについては、ポイントをためる場所と使う場所についての意識調査が面白い結果でした。ためる場所はリアルの店舗などを含めて多岐にわたりますが、使う場所ではEコマースサイトが断トツです。

神野:Eコマースを考える際には、Eコマースのことだけを考えるのではなく、生活全体を考える重要性が増しているということでしょうか。モール運営型ビジネスを行う楽天が、ポイントを軸にした事業多角化を進めているのもうなずけます。最近、楽天では、決算発表の場で「No.1 Membership Company」という言葉を掲げており、その方針をより鮮明に打ち出していると思います。

岩井:エコシステムを構築して生活への浸透度をどのように高めていくかという視点ですね。生活への浸透度を高めるためには、スマートフォン利用者が拡大していることを念頭に、あらゆる利用シーンでの利便性を考えていくことの重要性が増していくと思います。

神野:楽天はポイントで他を圧倒していますが、セールも頻繁に行ってきました。他方、アマゾン利用者の中で値引きやセールへの意識が相対的に低い点は、両社の違いを表している注目すべきポイントです。

尾﨑:今回の調査の中で、各種のサービスへの利用意向を聞いてみましたが、受け取り日時を指定できるサービスへのニーズが最も高かったのが印象的です。配送時間に関しては、日時指定>翌日>3日以内>当日>1時間>20分という順番に意向のスコアが下がっていきます。

もちろん「今すぐ欲しい」というニーズはあり続けると思いますが、同時に、岩井さんも指摘していた、自分の生活スタイルに合ったサービスを提供してほしいというニーズがより強いという証しではないでしょうか。今後、1時間以内などの超スピード配送が一般化していった際に、生活者のニーズがどのように変化していくかは注目です。

神野:生活者の利用サービス選びの基準が、一律的な規模拡大や効率性から、自分に合ったサービスを提供してくれるかどうかということに変化しているのだと思います。

次回からは、一見同じように見えてそれぞれが全く異なる事業基盤を持っている楽天、アマゾン、ロハコという業界キープレーヤーへのインタビューを通して、今後のEコマースのあり方を探っていきます。