“絶対に一生忘れないランチ”を食べる!?
2017/08/08
電通総研アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所は、2015年10月の設立以来、全国のさまざまな学校で先生たちとユニークな共同授業、実践授業を行ってきました。授業コンテンツを一方的に提供するのではなく、その学校、そのクラスが一番「アクティブ」になる形を、そのつど教育のプロである先生たちと模索。今回は学校ではなく、企業の研修を行ってきました。同研究所研究員の野田千尋からのレポートです。
■依頼主は、「全ての建物に、キャンディル」
2017年2月、キャンディルという会社の人事・採用担当の方から研究所に対し、同4月に入社する新入社員40人の研修(1コマ)の依頼が来ました。
キャンディルは主な事業として、一般の住宅から商業施設まで、さまざまな建物に対し内装関係に特化したサービスを提供しています。特にそのリペア技術は素晴らしく、とても直せそうにない傷や汚れも、新築同様に修復してしまうのです。有名コーヒーチェーンや、都内の超高級ホテルなど。普段の生活圏内に実はキャンディルがサービスを提供している建物がたくさんあります。
そのキャンディルですが経営統合(16年10月と17年4月の2段階で再編)があり、三つの事業会社が一つの「キャンディルグループ」として誕生したばかり。今年 4月に入社した新入社員の皆さんは、「キャンディルグループ」としては初の新入社員です。
キャンディルからのお願いは、とてもシンプルなものでした。どのようなお願いだったのかは最後に明かしますが、実はシンプルなお願いほど、難しい(けどやりがいがある)ものです。
■あれ、自分の新入社員研修って何やったっけ・・・
どんなプログラムをやるか考えるに当たり、周りにも、新入社員研修についてヒアリングしてみました。みんな「忘れた」「覚えてない」の連発。ですが、とある中途入社の先輩の話で、「入社した年の1月に阪神大震災があったので、その現場に行ったことはすごく覚えている」という印象的なものがありました。
私自身も社内の先輩にインタビューをする研修や、営業現場実習で行った撮影見学は、ものすごく鮮明に覚えています。
こうしたヒアリングや振り返りを通し、以下の発見が得られました。
●ほとんどの人が、新入社員研修の中身を覚えていない(特に座学)。
●印象的な場所で受けた研修や自分のカラダを動かして受けた研修など、自分で体験・体感したことは覚えている。
自分自身が受けた新入社員研修は、座学も含め、人事が趣向を凝らしたものだと思います。でも、よほど興味がある内容じゃない限り、一方的に話を聞くだけの座学はなかなか記憶に残らないもの。人は、自分で手や足や頭を動かして得たことを、学習するものなのです。
・・・そうだ、そもそもアクティブラーニングってそういうことじゃないか!
新入社員の皆さんが、自分たちで手や足や頭を目いっぱい働かせて、達成感が得られる研修にしよう。そう決めました。
■肝心の、研修課題は・・・
「みんなでキャンディル本社を清掃する、そしてキャンディルにこそ修繕箇所がないかチェックする」「みんなでキャンディルの仕事ぶり(建物)を見てくる」「みんなで何かをリペアする」・・・などなど、いろいろ、いろいろ、考えた結果、研修の課題は、
「みんなで、絶対一生忘れないランチを食べてきてください」にしました。
今回の研修に込めた思いと大きく関わるのですが、今回は、全員が同じ気持ちで楽しく積極的に関わろうと思えるお題(課題)にすることが大事でした。
誰かがあまり興味を持てなかったり、誰かが積極的にやる気になれなかったり。そんなお題では、意味がない。
ランチなら、みんな食べないわけにはいかないし、何しろ若い皆さんはおなかがすきます。誰もが自主的に関わらずにはいられないお題です。
■いよいよ研修開始。何と「社長チーム」も参加!
研修を行ったのは入社2日目。前日に入社されたばかりの皆さんですが、とても明るく楽しそうに、和気あいあいと研修に臨んでいます。聞けば、年齢も18~22歳とやや幅があり、出身地も全国各地バラバラという皆さん。ですが、すでに雰囲気がとても良い。そしてなんと、各グループの社長も「社長チーム」として参加してくださるとのこと。
満を持して(?)、ミッションの発表。
「みんなで、絶対一生忘れないランチを食べてきてください。」
午前11時30分~午後1時30分の2時間で、各チーム、ランチの場所を決め、ランチに行きます。ランチの最中に、ランチの様子が分かる写真3枚を人事の方に送り、戻ってきたら午後1時30分から報告発表です。
ルールを以下のように決めました。
✔4~5人を1チームとし、各チーム、ランチ資金を1人当たり2500円とする。
✔ランチ資金は、移動代に使ってもOK
戸惑うことなくみんな楽しそうに作戦会議を始め、ほどなく、各チーム、目指す場所に飛び出していきました。
■思わずうなったランチ
時間通りに無事みんな戻り、各チーム、報告です。
人生初のギガ盛りローストビーフ丼に挑戦してきたチーム、
新宿高層ビルの高層階で非日常空間ランチをしてきたチーム、
萌えカフェでランチしてSNOWで記念撮影したチーム、
「東京といえば築地」ということで有名すしチェーンの海鮮丼を食べてきたチーム、
研修会場近くの神楽坂の中華料理店でジャンボ餃子に挑戦しようとしたチーム、
高田馬場のエスニック料理店で虫料理(!)を食べてきたチーム…などなど、
各チーム、こちらの想像以上・期待以上の「絶対忘れられないランチ」を食べてきました。
しかもみんなプレゼン上手。
その中でも、思わず研究所もうなったのが、
「コンビニで一番安いコッペパンを一つ買って桜の木の下、3人で分け合って食べた」
というチームです。
この日、東京はぽかぽか陽気で、研修会場がある飯田橋駅周辺は桜が満開でした。桜がきれいだなあと思っていたのですが、まさか、1人当たり2500円の軍資金がありながら、一つのコッペパンを分け合う。それも満開の桜の木の下で。何てフレッシュなんだ。何てロマンチックなんだ。
元々順位を争うような研修ではないですし、皆さん素晴らしかったですが、満場一致でコッペパンチームに研究所賞を進呈しました。コッペパンチームが、今回の研修の狙いを一番形にしたランチだったからです。
■研修に込めた思い
今回、研究所がキャンディルから頂いたお願いは二つ。
一つは、
◎新入社員が、仲良くなる研修にしてほしい
でした。
キャンディルの新入社員の皆さんは、入社1週目の研修後、入社2週目には各グループ会社に分かれ、それぞれ全国各地の赴任先で仕事をすることになります。皆さんバラバラになってしまうのです。
そんな皆さんに、これから仕事で大変な思いをした時も、「自分には仲間・同期がいる」という心強さを持ってほしい。研修を通じて同期の一体感を感じ、その思いを胸に、現場で頑張ってほしい。ただ、イマドキの若者は人との距離を縮めることに遠慮しがちだから、一気にみんなが仲良くなるようにしてほしい。それがキャンディル人事の方の一番のお願いでした。
そしてもう一つ、お願いがありました。
〇(できれば)社是である「革新創造」を理解(が難しければ記憶)してほしい
キャンディルの社是は「革新創造」です。その思いを(何となくでも)理解してほしいというのがお願いでした。
「革新」:古くからの習慣・制度・状態・考え方などを新しく変えようとすること。
「創造」:それまでなかったものを初めてつくり出すこと。
(大辞林 第三版から)
固定概念を覆す、新しいものをつくり出すこと。それが「革新創造」です。
1人2500円持っているにもかかわらず、コンビニで一番安いコッペパンを一つ買って、
桜の木の下で楽しく分けあって食べる。最高に仲良くなれる、革新創造なランチです。
■ずっと、忘れないこと
追ってお聞きしたところによると、その夜の懇親会も、ランチ研修の話題で持ちきりだったとのこと。きっと、この先も新入社員の皆さんはこの研修のことは忘れないでいてくれるだろう、と思います。
研修をする側も、受ける側も、絶対にこれからも忘れない研修であること。それは、お互いにどれだけ「その研修(授業)でアクティブになったか」と密接に関わると思います。
これからも、学校でも、企業でも、研究所では「忘れない」「忘れられない」プログラムを開発していきたいと思います。