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男コピーライター、育休をとる。No.5

育休使って、保活してみた

2017/12/13

「第30希望」ってなんだ!

そろそろ保活やんないとねー、と妻に言われたのは、わが娘コケコが満4カ月になるちょっと前だった(※1)。正直「うわぁ、もう?」と思った。  

うちは共働きだから、そりゃたしかに保育園は重要な問題である。それにしたって、まだまだマシュマロマンのような(※2)、ビバンダムのような(※3)、このムチムチの太ももと戯れていたい。世知辛い現実とこんなに早く対峙しようなんて、鬼が笑…いや、小鬼(※4)が笑うぞ。とも思った。だがしかし、それでは甘すぎるのだった。

よりによって僕の住んでいる区は、地方自治体として全国屈指の待機児童数なのである。たとえば認可保育園の入園申込書なんて、第1希望から第30希望まで記入できます、とうたっているほどだ。「第30希望」って!

そんなシビアな保活環境で、それでも比較的入園させやすい(定員の枠が広がる)時期が「0歳の4月」、つまり来春なのですね。妻はこのタイミングでの復職を予定している。いまこそ保活の季節なのだ。僕の半年間の育休をそれに役立てない手もないだろう。

先に断っておくと、これを書いている時点ではまだ何も決着がついていません。今回はだから、結果じゃなくて経過の話になる。保活のコツ、みたいなテクニカルなことでもなくて(それはいろんなところに書かれている)、もっと現場目線の体験談を書いてみます。

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イラストレーション:第2CRプランニング局 三宅優輝

ダメもと?認可保育園

と言いつつ基礎知識だけは整理しておきたい。あなたが保活経験者なら、このへんのくだりはスルーしてくださって構いません。
まず、わが区にある保育園の種類について。これはざっくりと図で済ませてしまおう。

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いろいろなタイプの保育園があるものの、大きくは認可保育園(以下、「認可」)と認可外保育園(以下、「認可外」)に分けられる。

認可への入園は、「指数」と呼ばれるスコアの上位者から優先して決まっていく。保育園を求める切実度がいろんな事情で高い家庭ほど、指数も高い。
わが家のように単に「共働きだから子を預けるしかない」というぐらいでは指数は低いし(107点)、この区では同点の家庭がズラーッと横並びになるそうだ。認可の0歳児枠は、109点以上の家庭だけでほぼ埋まってしまうとの説もある(※5)。

このあいだ近所でやっていた保活のセミナーに参加して、あけすけに質問してみたのだ。
「極論だけど、指数の高い人の第30希望と、指数の低い人の第1希望が同じ園だった場合でも、前者が優先されるのか?」
Yes、とのことだった。勝ち目なし! 年末には園ごとの希望者数の1次集計結果が発表され、それを見て希望を変えることもできるそうだが、よく考えると指数の低い人はさらに不利になるのでは? という気もする。

認可ヘの入園は絶望的、という地点からのスタートではあるのだ。

ノミネートは58園から

ただせっかくだから、いったんは認可・認可外の両方を見学してみることにした。認可がどんなものか興味もある。

最初にしたことは、候補となる保育園(以下、「園」)のリストを作ることだ。
コケコが入園したら、送るのは僕、迎えるのは妻、という前提で考える。家から通えそうな距離として、ギリギリなんとか徒歩25分。自分の住む町を中心に、「東西南北それぞれの隣町」まで(自宅の最寄り駅以外に六つの駅まで)を射程に入れた。この範囲にある園をすべて知っておきたい。

家との距離、駅との距離、電話番号、認可外なら保育料や選考方法など。すべてを1個の表にまとめてしまうのである。
特に認可外を完全に網羅したくて、四つの手段を組み合わせた。

①自分の土地勘。あのへんに園があったな、という記憶をもとにネットで検索。
②会社の福利厚生サービス「保活コンシェルジュ」(※6)に依頼。いくつかの園を見繕ってもらえる。
③ 区の「子育て支援コーディネーター」(※7)から最新情報を得る。
④ 区の子育て情報アプリ。

②は便利だけど完璧ではない。僕の町については僕のほうが詳しい部分も多いからだ。ふだん使い慣れていないExcel(※8)なんかも使って、妻とコケコが寝ている時間に作業した。リストは2晩で完成した。

まず、58の園がノミネートされた(※9)。次に、あらためて地図をにらみながらアクセスに無理があるところを除外していく。たとえば家から15分で行けても、そこから駅までさらに15分かかるようでは、通勤途中に寄りづらい。

結果、候補は20園にまで絞られた。
あとは、家に近い園から順に電話をかけまくり、説明会や見学の予約をひとつずつ入れていくのである。この電話も僕の担当だ。説明会を月イチでしかやらない園もあれば、個別に応じる園もある。バッティングを避けながらアポを取っていく。育休に入ってからというもの、このコラム執筆以外でこんなにデスクワークに集中したのは初めてだ。かくしてカレンダーが20の園で埋まった。

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社会見学としての5週間

1日に見学するのは1園まで。これを週4か週5でやる。つまり平日はほぼ毎日どこかしらを見に行く段取りで、それを5週間続ける。
ハードだなあ、と最初は思った。でもですよ、そんなの気のせいで、実はどうってことない。だって会社ではこんなのザラだからだ。毎日どこか取引先へ行ったり、現場へ行ったりしますよね。約5kgのコケコを毎回抱っこしていく負担はあるものの(※10)、外出時のコケコは機嫌がいいので扱いやすい。

園による違いって、そんなにあるものか?
それはもう多様でした。行事が自慢の園。園庭や建築をウリにしている園。音楽をウリにしている園。鍼灸サービスがついてくる園。パンを焼ける園。私立小学校の受験を意識しまくりの園。引っ越しの会社が経営する園。歯科医が経営する園。シュワルツェネッガーが保育士をやっている園。ホビットたちが住む園。CGでできた園…。後半ちょっとデタラメを書いてしまったけれど(※11)、まあいろいろだ。施設を案内してくれる保育士長や園長のキャラクターも、バラエティー豊かで面白い。
広告業でいえば、毎日違うクライアントのオフィスや工場を見に行くようなイメージです。

認可よりも認可外のほうが保育料が高い、という先入観があったが、そうとは限らないことも分かってきた。

保育園って、未来に関係する場所だからか、だいたいどこもハッピーな雰囲気なんですね。コケコをさしおいて「俺が」ここに入ってもう一度やり直してみたい、なんて思える園もあった。そんな多幸感のシャワーを、5週間ぶっ続けで浴びる機会にこれはなる。
とはいえ、さすがに億劫な日もありますよ。徒歩20分以上の場所で、雨だったりすると特に。
といったような実感も、実は参考になる。入園したらそこに毎日行くことになるのだから。この5週間、連日どこかに通うことが、そうした「距離と億劫さと疲労感」のリアルなシミュレーションにもなった。

それにしても、父親の姿はレアだった。
妻の妊娠期に通っていた産婦人科では、毎回たくさんの夫たちを見たのになあ、と思う。スーツ姿じゃない人ばかりで、(自分を棚に上げて)「この人どんな仕事してるんだろう」と想像したものだ。あんなにいた男性たちが、ここにはいないのだった。
園見学は、だいたい平日の午前に40分程度。きっと産婦人科よりも手間暇はかからない。何より、わが子が幼年期を過ごす(かもしれない)場所である。あなたが保活に臨む父親なら、是非とも時間を作って見学することをおすすめします。

1組だけ、何度か見かけた夫婦がいた。本とか読み聞かせについての質問をよくしていたのが印象的だったが、向こうもこちらを意識していたかもしれない。同志でありながらライバルになってしまうこの感じ…就職活動を思い出す。ただ就職活動と決定的に違ったのは、1人で闘わなくてもいいってことだ。

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保活を遊ぼう、のススメ

この際はっきり書いてしまうと、2人でやる園見学は楽しかったのである。はじめる前はハードに見えたのに、もう見学に行かなくていいとなると寂しさすら覚える。

見学の後に感想を交換するのがけっこう盛り上がった、というのがある。これはまるで、あれだ。映画みた後に感想を言い合うのに似ていますね。好き勝手にディスったり(※12)絶賛したり、1人ではできないことだ。

さらに、パンのおかげでもある。
なんのことだよって話ですが、僕の妻はパンと洋菓子にものすごく目がない。それゆえ、その日に見学する園の付近にあるパン屋やパティスリーをマークしておいて、見学後にそこで何か買う(翌日の朝食や昼食になったりする)というパターンが定着した。この園に入ったらこの店に通うんだろうな、とたやすく想像できる。これはいったい保活なのかパン活なのか。

ともあれ、園見学にもれなく付いてくる楽しみができた。たかがパン? そう、でもパンこそは“A Small, Good Thing”(ささやかだけれど、役に立つこと)なのだと、レイモンド・カーヴァーの小説(※13)も言っていた気がする。

こうやって書くと、なんだか遊んでいるみたいですね。しかし、保活に集中することと保活を遊ぶことは、矛盾しない。実際に入園できるかどうかでいえば、どうせ過酷な現実が待っているのである。だけど、いや、だからこそ、せめてそのプロセスぐらい遊ばなくちゃ損じゃないか。かつてピチカート・ファイヴは「いつか ぼくたちにも 子供が生まれるだろう でも いつまでもふたり 遊んで暮らせるなら」と歌ったけれど(※14)、こんな保活さえ、その遊びの一部にしてしまいたい。レースで負けてもプレイで勝ちたいではないか。って何を言っているのか分からなくなってきたが。

「子育てを楽しんで」というコメントに比べて、「保活を楽しんで」というのは案外見ない気がするのです。だから少なくともここでは、これから保活をやる人にそれを言いたい。やり方次第で、保活は遊べる。
父親が保活のために育休2週間取る、みたいなことだってアリだと思うのだ。

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さて、見学をほぼ終えたいま、どういう作戦で申込手続きを進めようか…まだ考え中です。

認可は絶望的と知りながら、それでも申し込むのか?
認可外だと、いまのうちに入園金を払ってしまえば枠を確保できるという園もあるのだが、それはそれで英断が要求される。
一方で、書類選考のある認可外は、認可と「併願」だと言っただけで落選するという話もある。ポーズだけでも「単願」ってことにしておくべし、なんてこともよく聞く。どうなんだ。そしてどうしたものか。いましばらく熟考したい。

すでに5カ月目に入ったコケコは首がすわり、寝返りを打ってばかりいる。魚のようにピチピチと。これは寝返りというより、もはや魚返(※15)ではないか? 転がりながら「兄上〜」って叫んだ! と妻は言うのだが(コケコに兄などいない)、僕には“anyway”と聴こえた。もちろん、どちらも空耳である。

次回の内容は…これまた考え中です。

※ 1
子どもを保育園などに入れるための活動全般を保活というが、保ナントカ活動、という正式名称はなさそうだ。

※ 2
マシュマロマンは、1984年の映画「ゴーストバスターズ」(アイヴァン・ライトマン監督)に登場するキャラクター。白くてフカフカ。ビバンダムと混同されやすい。

※ 3
ビバンダムは、フランスのタイヤメーカー「ミシュラン」のマスコットキャラクター。ゴム(タイヤ)の質感。マシュマロマンと混同されやすい。

※ 4
本連載の第3回「僕はこうして育休を取った」参照。

※ 5
あくまでも筆者の住む区においての話であり、自治体によって指数の基準や計算方法はもちろん異なる。

※ 6
福利厚生を担っている「ベネフィット・ステーション」に、社員専用のこうした窓口が設置されており、条件に合った保育園探しを手伝ってもらえる。電話またはオンラインで情報収集を依頼することが可能。

※ 7
行政サービスの一環で、区の保育情報に詳しいこういうスタッフがいる。筆者の場合、連載第4回で触れたコミュニティースペースで知り合い、名刺をもらった。

※ 8
マイクロソフト社の表計算ソフト「Excel」を使用するも、計算の機能など一切使わず、単に表を作成するだけである。コピーライターも人それぞれだが、ふだんはもっぱら「Word」(ワープロソフト)を使っている人が多い印象(筆者もしかり)。

※ 9
待機児童の多い自治体ではあるが、保育施設が少ないということでは決してない。そればかりかこの2年、新規の施設が相次いでオープンしている。ただそれでも追いつかないほど、人口が多いのだ。

※ 10
ベビーカーを止めておける園はきわめてレアなのだ。

※ 11
アーノルド・シュワルツェネッガー演じる刑事が、潜入捜査先の幼稚園で保育士をやるはめになる。というのは1990年のコメディ映画「キンダガートン・コップ」(これまたアイヴァン・ライトマン監督)の設定である。

※ 12
「ディスる」とは、disrespect。つまり悪口を言ったり、けなしたりすること。

※ 13
アメリカの小説家レイモンド・カーヴァー(1938〜88)が、82年に発表した作品「A Small, Good Thing」は、ある家族に訪れる不幸と焼きたてのパンについての物語。村上春樹氏の翻訳で読める。

※ 14
PIZZICATO FIVEの1993年のアルバム「ボサ・ノヴァ2001」に収録されている楽曲「マジック・カーペット・ライド」。この“いつまでも遊んでいよう”というメッセージは、作詞作曲の小西康陽氏がその24年後に書き下ろした「72時間ホンネテレビ」のテーマ曲「72」(稲垣吾郎・草彅剛・香取慎吾)でも変奏される。

※ 15
「魚返」は筆者の姓で、ルーツは九州とされている。