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男コピーライター、育休をとる。No.6

育休で聞かれがちなこと

2018/01/16

今回はQ&A方式です

育休も残り2カ月を切った。おかげさまで、わが娘コケコは無事に生後半年を迎えようとしています。

最近はといえば、離乳食がはじまりました。米と水の比率が1:10のいわゆる「10倍粥」のほかに、かぼちゃ、にんじん、じゃがいも、小松菜、カブ、バナナなどを茹で、潰し、裏ごしして、「はい、あーん」とやる。モグモグ、のあと一瞬の間があって、ニタ〜ッと破顔するコケコ。
つくづく思うのだが、こんな生き物に向かって、SMAP「らいおんハート」(※1)のように、わざわざ「世界で二番目にスキだと話」すなんて酷なこと、できますか。私には無理だ。

さて今回は、いくつかの「よくある質問」に答えるかたちで進めたい。いずれも、私が友人・知人などから聞かれがちなことだ。

というかこのコラム、一人称は「僕」じゃなかったのかよ。連載を読んでくださっている方はそう思うかもしれない。その通りです。が、今回だけ「私」でいく。自分も父親になったことだし、いい加減「私」とか言えなくちゃと、ただそれだけの理由ですが。

Q1. お金の問題って、正直どうなの?

まずはキャッチーかつ生々しいこの質問。
第3回でも書いたように、育休中は会社からの給料がなくなり、ハローワークからの給付金に頼ることになる。収入が減るわけですね(※2)。
しかし支出だってだいぶ抑えられるだろう、と予想していた。なにしろ外食や買い物を含めた「遊びに出掛ける」機会が大幅に減るんだから。

ところがフタを開けてみると、支出はそこまで減っていない!
まず休業中だろうが給料がなかろうが、とめどなく出ていくものがある。「住宅ローンの返済」と「住民税」だ。
特に「住民税」は盲点でした。ご存じのとおりこれは、前年度の1月時点での収入をベースに計算される。給料がもらえている前提での住民税を、給料がなくなっても払わねばならないわけで、差し当たってはなかなか痛い(※3)。

それから、この5カ月間の光熱費は、去年と比べて約1.4倍になった。共働きで日中は家にいなかった夫婦が、四六時中在宅するようになる。しかも夏から冬まで過ごすのだから当然ですね。

さらに、育休に入ってから、避けようのない「大きめの買い物」があれこれ発生した。コードレス掃除機(古いやつが突然壊れた。赤ちゃんに嫉妬したのか?)、抱っこひも、プレイマット、ベビーカー(レンタルしていた乳母車にコケコが収まらなくなった)、粉ミルクやオムツ(の総額はばかにならない)などだ。

以上。と言えればまだいいが、欲望がそれを許してくれない。なんだかんだで、こまごまとしたもの(雑貨、食器、本、子ども服など)を、インターネットでポチりがち(※4)になっているではないか。育休前よりもむしろ頻繁に!
家から出ずとも、いや、出られないからこそ、反動で買い物欲求が膨らむようなのだ。「ゆりかごと買い物かごの法則」である。いまテキトーに名付けた。

一方、給付金は2カ月ごとに振り込まれるシステムだ。月給制になじんだ身としてはそれだけでも「まだ?ねえ、まだ?」とじれったいが、誤算だったのは「実際には2カ月よりもさらに大きな時差が生じる」ということです。
自分・会社・ハローワークの3者間で書類をやりとりするのに時間を要するのだ。私の場合、育休に入ってから最初の給付金が振り込まれるまでに88日かかった。およそ3カ月間は収入ゼロというわけだ。

結論。育休を3カ月以上取るなら、少なくとも「基本給×3カ月ぶん」ぐらいはこれ用に用意しておけるといいですね。私もそれに助けられた。

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イラストレーション:第2CRプランニング局 三宅優輝
 

Q2. 自分の時間ってちょっとは作れるの?

友人に会いに出掛けたり、ちょっと顔を出したいイベントに行ったりと、妻に断って外出する日はある。平均して月に2回ぐらいです。これに対し、妻のそれはもっとずっと少ない。母乳を4時間以上ため込むと身体的につらいからというのもあるけど(※5)、彼女の性格による部分も大きい。正直、「俺ばっかり出掛けて」という後ろめたさが付きまとう。

ここは妻からもコメントをもらおう。
「まあコケコが卒乳したら(※6)、私も思うぞんぶん一人で出掛けようと思ってるから。そのときコケコをよろしくね」
ということです。

そうした外出とは別に、1日に3時間ほど、自分の時間をこじ開けることができないでもない。どうやって?
生後5カ月目あたりから、授乳やコケコの睡眠がかなり規則的になってきた。深夜から朝にかけては、23時、3時、7時に授乳を行う。このうち、24時から3時までのおよそ3時間(※7)は、リビングにコケコを寝かせ(3時の授乳の後、寝室へ運ぶ)、妻も仮眠する。妻子も草木も眠るウシミツドキ。ここを、私の時間にするのだ。

とはいえコケコから目を離せないので、部屋からは出られない。できることが限られるなか、明かりを落としたリビングでノートPCを開き、Netflixで海外ドラマや映画を観ることが多かった(※8)。おかげで話題作なんかもわりと追えてしまっている。身動きのとれない密室で目にする、遠い街の風景の眩しいこと。でもこれ、睡眠が犠牲になることもあって最近はあまりやっていない。

娯楽といえば、私も妻も演劇が好きなのだが、このあいだどうしても二人で観たい舞台があった(※9)。一度は諦めかけたものの、結局こんな苦肉の策をとりました。別々の回のチケットを1枚ずつ買って、片方が観に行っている間、もう片方が家でコケコをケアする。互いが観終えたら、家で感想を話す。つまりバーチャルに「二人で観た」のだ。この手は今後も使うと思う。

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Q3. 夫婦の関係性に変化はあった?

去年、妻は知人に「出産したら夫婦の関係も変わるだろうしねー」と言われて「子どもができたぐらいで変わるほどの付き合いじゃないっつーの」と(心の中で)反論したらしい。なんて頼もしい!でも実際のところどうなんだろう。

私たちはけっこう長い付き合いなのだが、朝から晩まで何週間も、こんなに連続して一緒に過ごしたことはなかった。いま、夫婦二人「きり」になる機会はほぼ失われたのに、一緒に居る時間はかつてなく長いのである。不思議な感じだ。

子どもができたからというより、お互いがずっと至近距離にいるせいで、二人の瑣末なズレが顕在化しやすいということはある。言い換えれば、イラっとしたりさせたりすることが、育休前よりある気がする。
一例に過ぎないけど、ベビーカーをエレベータに乗せるとき。どっちがどう立ち回るといった所作のレベルで息が合わず、あ、いま彼女イラついてるな、とか。

関係性自体は変わらないものの、私の、妻に比べてダメな部分が浮き彫りになることも増えた。
たとえば、俺がコケコを見とくから、と言いながら寝入ってしまったり。ミルクを与えながら自分が寝落ちしかけたり、で妻を怒らせる。
わが家ではおなじみのダメさが「育児バージョン」として露出しやすくなっているだけなのだが、互いに疲れていること、子の安全に関わること、というのがあって、ちょっとピリピリした感じになる。

そんなときはどうするか。コケコに話しかけて逃げるのである。
ケンカには発展しにくい。非があるのはきまって私だから、口論しようがないのです。なんだかアンフェアだ。彼女に非があるとすれば、このアンフェアさにおいてではないだろうか(屁理屈)。

もちろん、ずっと一緒に居ることで得られるものは大きいが、それはすでに書いてきた通りである。

一度、民間の託児サービスにコケコを3時間だけ預けてみた(※10)。そして夫婦水入らずで、レストランのランチコースを堪能した。のだけれども、預けるときと引き取るとき、不安げにこっちを見上げるわが子に対して「ほんとごめん」って気持ちになってしまった。水入らずを手放しに楽しむことは当分なくなるんだな、と感じた瞬間だ。

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Q4. 育休って、出世を邪魔しないの?

またまたエグくてポップな質問。
出世というのがいわゆる昇進を指すのだとしたら、実際のところどうなんでしょう、実は私はよく分かっていない。すみません。部署や職種によっても違うんだろうか?

私が目指したいのは、コピーライターとして新しい視座を手に入れること。そして復職後に、新しい仕事や、その仕方を模索することだ。それらは昇進とはあまり関係がなさそうだけど、職業的にはステップアップと言っても良さそうではないか。いったん仕事から離れることが、ある意味で仕事のチャンスにつながる(かも?)という、こういうやり方もアリなのだと思っている。

これって、クリエーティブ職あるいは広告業にしか通用しないことでしょうか? いやいや、ほかにも当てはまりますよ、という意見や体験談を是非聞いてみたかったりする。

ただまあ、このへんのことは私がもうそれなりの年次(※11)だから言えることかもしれない。他者のペースに振り回されてばかりの若手時代だったら、出世は別にしても、自分の席を半年間空けることはもっと不安だったろう。コピーライターでいられなくなるんじゃないか、とか。同期に取り残される感覚とか。

育休は年齢・年次を問わず取ればいいけど、若い人に対して「居場所のことは気にしないで」と無責任に言いたくはないなとも思う。だって気になるし。そのとき何を優先するか、結局それぞれの価値観で決めることでしょう。

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Q5. ところで太った?

この5カ月で3.5kgほど太りました。会社に通っていたときよりも運動不足かつ睡眠不足だから仕方ないのだが、この体重、コケコ(体重増加が横ばい気味)に分けてやれれば父娘Win-Win(※12)なのに。
育休中はジムで水泳をやる!と育休前に考えていたけど、そんな暇がどこにあるというのか。

そういえば育休前に、同僚に言われた。「仕事のあとの一杯」がなくなると、お酒が美味しくなくなるよ、と。ウソばっかり!実際には、育児の合間に飲むお酒はうまい(※13)。昼に飲めることもあって、むしろ酒量は増える。こうしてまた体重も増えるのだった。

育休は、優等生のものじゃない

いろいろあるけど、まあそんな感じです。育休生活といっても、なにかこう、家族や育児のパーフェクトな像からは程遠いということが分かってもらえるだろう。

けど、半ば自己正当化、半ば本気で思うのは、育児休業は育児優等生の(あるいは“意識高い系”の)占有物じゃないよなってこと。
こんな育児をしたいと願いながらも、ジタバタしたりミスったり怠けちゃったり、大事なことを見過ごしたり、それでも家族とできるだけ前向きにやっていきたい人たち、要はどこにでもいるごくフツーの僕らのためのものだ、と思う。あ、「僕」って言ってしまった。
完璧を目指すより、自分の家族らしさを追求できたら最高だ。

次回が、月イチの定期連載としては最後になる。が、復職してからのことも不定期で書いていく予定です(※14)。引き続きどうかお手柔らかに。

※1
「らいおんハート」はSMAPが2000年に発表したシングル曲。歌詞の内容は、配偶者および子どもへ向けたメッセージと読める。作詞は、脚本家の野島伸司氏。

※2
育休期間が6カ月以内なら、基本給の67%にあたる金額が、日割りに換算されて支給される。6カ月間を超えた期間については、この値が50%になる。

※3
住民税は毎月引き落とされるわけではなく(天引きされる給料自体がないため)、何カ月分かをまとめて区の窓口に払いに行くことになる。もちろんこの半年間が無給だった分、翌年の住民税は減額されるので帳尻は合うのだが。

※4
「ポチる」とは、インターネットショッピングにおいて、何らかをポチッと購入・決済すること。この時代、財布のひもが緩むとはつまり、クリックする人差し指が緩むということである。

※5
「混合育児」を採用しているわが家だが、授乳のインターバルが4時間を超えると、妻は胸が張ってきて苦痛を感じがちになる。

※6
子が母乳を必要としなくなり、「食事」に完全移行すること。1〜2歳で卒乳するケースが多いようだが、これこそ完全に個人差の世界。

※7
「23時から3時までの4時間じゃないの?」と思った方は連載の第2回を是非お読みください。

※8
映像ストリーミング配信サービス、Netflix。新作も旧作も、興味をそそるものがここまで絶え間なくアップされ続けると、生きている間にどこまで観られるんだろうという気になる。

※9
具体的には、NYLON100℃の新作「ちょっと、まってください」。東京公演は、本多劇場にて2017年11月10日から12月3日まで上演された。

※10
一時保育専用の託児所を利用。社の福利厚生サービス「ベネフィット・ステーション」を経由して、割引を適用した。われわれの場合、区と提携した施設よりもさらに利用料は安く、かつ必要書類もシンプルで、とても利用しやすかった。

※11
15年目。一方で20代に比べ、体力的には育児にだいぶ不利だなという実感もある。

※12
Win-Win(ウィンウィン)はある二者間において、双方に得・メリットがある状態。

※13
妻がもしもお酒を好む人間だったなら、筆者の飲酒はもうすこし遠慮気味になっていただろうか。

※14
というのも、復職後の体験を語ることではじめて育児「休業」の全体像を語ることになるからである。