OOHの未来No.4
マキアージュに見た!
心にストーリーを刻むダイナミックDOOH
2017/12/13
デジタルテクノロジーの進化により、OOH(屋外広告・交通広告等)も変革の時を迎えようとしています。この連載では電通アウト・オブ・ホーム・メディア局(OOH局)のメンバーが、主にデジタルサイネージを中心とした屋外広告・交通広告の進化と可能性をお伝えします。
最終回は電通OOH局・浜田桂氏が資生堂マキアージュキャンペーンの体験を通じて、今後のOOHの未来を語ります。
ドレスよりまつ毛より印象に残ったルージュの魅力
恥ずかしながら、実は私はあまりお化粧が得意ではありません…と、資生堂のキャンペーンについて話す前段でいうことではないのですが、初めて自分に似合う口紅の色を知ったのは、自分の結婚式のための化粧品を選んだときでした。
いつも化粧っ気のない私が、披露宴でばっちりお化粧している姿を見た上司は、翌週会社で会うなり「あの口紅が、とても似合っていて素敵だった!」と声をかけてくれました。純白のドレスでもなく、もりもりに盛ったまつ毛でもなく、彼の印象に残ったのは「ルージュ」だったんですね。ルージュの魅力は、やはり人を惹きつけるのか…と思ったのでした。
それ以来、「口紅くらいは」塗らなくては、といろんなブランドを試したのですが、なんと偶然にも昨年からは資生堂のマキアージュを愛用しています(これは本当です。宣伝ではありません!)。
そんなマキアージュが、ダイナミックDOOHキャンペーンを六本木駅で行うということで、ぜひ体験してみなくては! といそいそと出かけてきました。
最初の画面はこんな感じです。
ふしぎな鏡に促されるままに、サイネージの前に立ってみると…
画面が変わって、ふしぎな鏡から、メッセージが。
「あなたなら、どの色を選ぶ?ルージュの先を3秒見つめて。」
好きなルージュの先をじっと見つめてみます。
なんと、私が見つめていた色のルージュがズームされたのです!
なんで私が見ていた色がわかったんでしょうか?
私が選んだ色は、「ピンクドリーム」という名前だったんですね!
最後は、なにやらプレゼントが…
というわけで、私が見つめたルージュの色をまほうの鏡に言い当てられたような気分でした!
最後にどんなプレゼントが出てくるのかは、みなさま、ぜひぜひ都営六本木駅のホームで体験してみてください!(サイネージ展開期間: 2017年12月24日まで)
さて、このサイネージ、どうやって私が見つめた色を言い当てたのでしょうか?
実は、「白目の面積」を検知して、3色のルージュのどれを見ているかを判定していたのです。面白いですよね!
テクノロジーとOOHが手をつないで「ストーリー」を提供する
今回は、こんなふうに視線検知の技術を使ったキャンペーンですが、他にもさまざまな技術を用いて、人の性別や年齢を判定したり、骨格の動きから目の前の人の動作を認識したり、表情から感情を読み取ったり、熱や発汗から眠いかどうかを判定したりといったことが可能になりつつあります。
テクノロジーを使ってデータを取得し、そのデータから生活者が求めている情報を推測することで、より効果的なアプローチを設計できるわけですね。
このように、テクノロジーが進化すると、「こういう体験を提供したい!」と思ったことがどんどん実現できるようになってきます。OOHでテクノロジーを使う目的、それはオーディエンスに「体験」を提供することにより、その商品との「ストーリー」を見た人の心に残すことではないでしょうか。
そもそも、お化粧に疎い私がマキアージュのルージュを使うようになったきっかけは、ある「思い出」でした。
昨年、シンガポールに住んでいる友人のもとに遊びに行ったとき、そこに集まっていた人の中にたまたま資生堂社員の方がいらっしゃいました。そこで、他の女子たちも交えて、「マキアージュのルージュは塗りやすくて、ケースもかわいい」という話題で盛り上がったのです。その会話自体はほんの一瞬でしたが、シンガポール旅行はとっても楽しい思い出として、私の中に残りました。
そして帰国してしばらくたったある日、デパートでマキアージュのロゴが目に入った時、シンガポールの楽しい記憶がよみがえったのです。つまり、私の中では、「マキアージュ=楽しい」イメージなんですね。その楽しい気持ちに背中を押されて、なんとなく使ってみたくなり、購入に至りました。
無数の商品があふれている今、「商品ではなく、ストーリーを買う」などと言われますが、私にとってのマキアージュのストーリーは「なんか楽しい」ということだったのです。そして、私の場合は、たまたまマキアージュについてのストーリーを旅行先で手に入れたわけですが、このストーリーをつくり出す手段として、テクノロジーがとても有効なのです。
ここで面白い例をご紹介しましょう。今回のキャンペーン、実は事前テストの段階で、企画内容を全然知らない女性に体験してもらったことがあります。
他の関係者はみんな、過去のテストにも参加しており、次に何が出てくるか知っていますから、淡々と体験していました。ですが、ただ一人内容を知らないその女性は、自分が視線を送ったルージュの色が選ばれたその瞬間に、「わぁ、すごい!」と、なんともいえないうれしそうな表情になったのです。
まさしくこれが、テクノロジーが「体験」を提供して、その商品との「ストーリー」を見た人の心に刻んだ瞬間だな、と思います。
彼女はきっと次にデパートに立ち寄ったとき、この時のなんかうれしい気持ちを思い出して、マキアージュのコーナーに行ってみちゃうでしょうね。私のように。ふふふ。
どんなにテクノロジーが進化しても人は「外」に出かけていく
この連載の第1回では、OOHの長所が「強制視認性」にあることや、デジタルサイネージがデータと連動することで、より「その時、その場所、その気持ち」に寄り添えるメディアになる、というお話をしました。
第2回では、外部データでクリエーティブが変化する「ダイナミックDOOH」の海外事例を紹介し、第3回では、東京メトロのOOHメディアを扱うメトロアドエージェンシーの浜田さんと国内のダイナミックDOOH事情について語り合いました。
・海外のサイネージはこんなに面白い!ダイナミックDOOH事例集
・東京メトロ事例に見る 日本のダイナミックDOOH最前線
そして、今回は人々の心に「ストーリー」を刻むダイナミックDOOHについてご紹介しました。
さて、OOHの未来はどうなるのでしょうか?
今やっと、OOHはデジタルと親友になり、さまざまなデータに、やぁ! と声をかけたところです。そしてこれから、今声をかけたばかりのデータと、もっともっと仲良くなっていくと思います。
つまり、OOHの得意とする「その時、その場所、その気持ち」にいっそう寄り添うために、「そのOOHメディアの前にはその時、どんな人がいるのか?」というオーディエンスデータがますます活用されるようになっていくのです。
実は、今回のマキアージュのキャンペーンも、AI技術を使ってリアルタイムに「サイネージの前を通った人数」「サイネージを実際に見た人数・性別」といったデータを取得しています。
さらに注目されるのは、「位置情報」とOOHの親和性です。今後、人々の位置情報が集まることで、より詳細なカスタマージャーニーを把握できるようになってきます。そこから、「本当はこの場所でターゲットを捉えればよかったんだ!」ということが明らかになったとき、「場所にひも付くメディア」であるOOHの出番なのです。
どんなにテクノロジーが進化しても、家の中でなんでもできるようになっても、人は「外に出かける」と思いませんか? いつの時代も「こんなところで出合っちゃったら、ひとめぼれしちゃうよ!」という瞬間をつくり出すため、テクノロジーやデータを使って、あの手この手でみなさんを口説いていく。それがOOHの未来、いや、OOHの使命です。
つたない連載に最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!