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アクティブラーニングこんなのどうだろうレポートNo.10

あなたの「考える秘密基地」は、どこですか?

2017/12/25

電通アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所は、2015年10月15日の設立以来、全国のさまざまな学校で先生たちとユニークな共同授業、実践授業を行ってきました。授業コンテンツを一方的に提供するのではなく、その学校、そのクラスが一番「アクティブ」になれる形を、そのつど教育のプロである先生たちと模索。毎回とてもオリジナルな方法とドラマが生まれました。今回は担当した研究員、森口哲平氏がその模様をレポートします。

塗るだけで壁がホワイトボードになる。

そんな塗料との出合いが、新しい教育プログラムを生み出すきっかけになりました。

「世界づくり」が、人を活発にさせる

皆さんは、子どものころ、仲間たちと「秘密基地」をつくって遊んだ原体験、ありませんか?
団地に住んでいた少年時代、僕にもススキの生えた斜面に仲間と基地を構え、放課後遊んだ思い出があります。

今思うと、外からは丸見えで秘密感はなかったものの、自分たちだけの場所があることが、気持ちを自由にしていたのだと思います。

自宅や教室などの、いわば「公平に保証された居場所」とは別に、幼少期のおままごとやヒーローごっこに始まる、自分で生み出した空間を獲得する「世界づくり」は、子どもの活動をより前向きにさせるといわれています。

部活やサークルの部室や、行きつけの喫茶店のお決まりの席なんかも自分の世界づくりといえるかもしれません。

きっかけは、ベンチャーとの出会い

始まりは、研究所に舞い込んだ、一通の問い合わせメール。それが、米国の大学生3人が始めたベンチャー企業の塗料、IdeaPaintの日本代理店をされている澤田真由美さんとの出会いでした。

聞けば、米国ではNASAやGoogle、Appleなど名だたる組織のオフィスに施工の実績があるらしい。お台場のオフィスに体験ウォールがあると聞いて、とりあえず見に行こう!と研究所メンバーのアートディレクターの本田晶大氏を誘いました。

お台場のオフィスの1階のウォールは全面がIdeaPaintによってホワイトボードになっている

学生たちでも、専門家の指導・サポートを受ければ、学年を問わずに導入できることも分かってきました。透明色のIdeaPaintを利用すれば、下地のデザインが自由なので、ホワイドボード自体の形や色を学生が自由にデザインできます。

IdeaPaintのプロダクト 主剤(THAT)に硬化剤(THIS)を入れて撹拌してから壁に塗布する

それまでの導入事例の多くは、発注があり施工を請け負って納品するもの。

せっかく僕らが関わるなら、つくる過程を教育のプログラムにする方が、楽しい「こんなのどうだろう」になるんじゃないか。

学校に「自分の秘密基地」があったらどうだろう
教育の現場において、学生たち自らが発想するアイデアの質も変わるかもしれない。

人をアクティブにする「世界づくり」を学びの分野で促すコンテンツがいい。こうして、僕ら研究所メンバーが、学校のデッドスペースを自らの考える場所に変えてしまうワークショップをつくりました。

題して、「考える秘密基地」。

第1弾の実施校には、研究所とコラボレーションした実績のある高崎商科大学が、名乗り出てくれました。

考える秘密基地のロゴ

目指したのは学園祭のノリ

学年も学科も違う参加メンバー20人を三つのグループに分けて、趣旨説明もそこそこに、まずは、学校を探検してもらいます。

「学校にこんな場所あったんだ」「ここも、意外といいスペースになるんじゃね?」と早くもワイワイ始まります。教室を飛び出して、歩きながら話をしたり考えたりすることで、メンバー同士が自然と仲間になっていくのが面白い。

地図とメジャーとマスキングテープの三種の神器を携えて

構内で、良さそうな場所を見つけたら、サイズ感をチェック。場所とスケールを確認します。
 

探検が終わると、見つけたところをみんなで回遊しながら候補地の良さを各人がアピール。デッドスペースにホワイトボードができたら、どんな空間になるだろう、使いやすい環境がつくれるだろうか。真剣に話し合いが始まります。

「人の動線が多いからうるさいかも」とか「曇りの日にはちょっと暗くて寂しいかも」などいろんなケースを想定して、ベストな場所を六つ選定。

せっかくだからオリジナルな形や色で

次はデザイン。学生らしい、自由な発想が次々と提案されます。それって施工場所に合っている? 色はどうする? 濃過ぎたらホワイトボードとして使いにくいかも? 長く使えるデザインを目指して、ミニマルなものを選びつつ、カラーリングで工夫しようという意見も出て、結局、次までの宿題となりました。

後日、六つそれぞれのデザインが決まり、カラーチャートから自分たちで色指定をして、塗料を発注。次回はいよいよ施工です。

白にもいろいろな白がある。場所に合うものをみんなで一つずつ選びます

こんな汚れる格好で作業するのは久しぶり!

作業着姿で集まった施工の日。ペンキで汚れる準備も万端です。マスキングの方法や、ローラーの使い方、適切な量や回数など、キレイに塗るための本格レクチャーに、メンバーのまなざしは真剣そのもの。テープの貼り方、塗り方にメンバーの一人がポツリ。

「これって個人の性格が出るよね」

あっという間に、下地のデザインは完了。24時間乾かします。そして次の日、いよいよ透明なIdeaPaintを塗布します。塗りムラは禁物なので、丁寧に重ねて塗ったら、そこから1週間しっかり乾燥すれば、オリジナルなホワイトボードの完成です。

※凹凸のある壁や、ひび割れた箇所は、事前に施工業者の手で平滑面に仕立ててもらいます。

丁寧なマスキング作業が肝要であると教えられて、緻密な作業に取り組んでくれました

教室を貸し切るより、アイデアが出やすいって感じた

ワークショップの3回目は、自分たちの「考える秘密基地」を使って実際にグループワーク。

“今までに見たことのない商品やサービスを自由に発想してみよう”というのがテーマです。

身の回りのモノやコトで、よく利用したり体験したりするのに、実は長い間進化していないものを探して、たくさん書き出してみる。

グループごとに開発対象が決まったら、次は新結合。

新しいアイデアを生むために、「今思い浮かんだ人」「ちょっとドキドキする時間や場所」「好きだと思うものの特徴」などを書き出して、開発対象とランダムにドッキング。強制発想で、思ってもみなかったアイデアに出合います。

その結果、「骨伝導で音楽が流れる歯ブラシ」「ストリートライブ用のランドセル」「そっと起こしてくれる下着」「足のパックができる靴下」など新しい体験につながる商品アイデアが数時間で誕生。

使ってみてどうだったのかも聞きました。

「大きな教室を貸し切って机集めてやるよりも、周りを気にしないで落ち着いて考えられる」

「普通に雑談とかして爆笑しても怒られないし、面白い企画考えるなら、これもあり」

自分たちだけの開放的な場所なので、自然と笑い声が響きます

サマープログラムや卒業制作にも

早くも見学者が来校したと、うれしい報告も。

普段の授業プログラムの中に組み込むのはなかなか難しいという学校には、学生に時間の余裕があり、施工もしやすい夏休みの特別授業プログラムとして、また在校生に向けた卒業生のギフト制作物として利用してもらうことも可能です。

これからも、学生たちのための学生たちによる「考える秘密基地」が、全国津々浦々の学校にひっそりと増えていくことを目指していきます。

左がビッグライト、右が白地図。生徒自らタイトルをつけました

オフィスで自分の居場所、自分で決めてますか?

今、ビジネスの現場では、固定的なデスクにしばられない新しいオフィスワークが少しずつ広がっています。それでも、知らず知らずのうちに、与えられた環境で作業することが当たり前になっている、そんな人も多いのではないでしょうか。

逆に、クリエーティブなスペースを利用して、“発想している自分に酔っちゃう”スタイル先行型も。

選んでいるようで、選ばされているってことも実は多い。

学びには、オールインワンで絶対的な場所など存在しません。これは、リアルだけでなく、VRのようなバーチャルテクノロジー空間になっても同様です。

いつもと違う空気が吸える別の環境にあえて身を置いてみる、なんなら、自分に最適な環境をイメージしてつくってしまう。フレッシュな自分に出会いたいなら、試してみる価値はあるでしょう。

今回は、そんな思考の環境についての、小さな「こんなのどうだろう」です。