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AIが巻きおこすセレンディピティーNo.5

AIで、日本が炊きあがる!? AICOのお仕事2

2017/12/26

電通の福田宏幸氏、堤藤成氏、静岡大学の狩野芳伸教授の3人から始まったAIコピーライタープロジェクト(通称:AICO)は、現在AIによるマーケティング支援を担当するMAIも開発され「AIプランナーズMAI&AICO」として、電通・電通デジタルをはじめ社内外にも多くのメンバーが加わり、プロジェクトは進化し続けています。

昨年2016年の「新聞広告の日」にAIが書いたコピーを使った新聞広告を掲出し世の中をざわつかせたAIコピーライターのAICOですが、今回はさらにパワーアップしたフジサンケイビジネスアイの「新聞広告の日」企画についてご紹介します。

2年目のAICOの「新聞広告の日」企画は、金融、ファッション、NPOとのコラボが実現!

2年目となるフジサンケイビジネスアイでのAI企画ですが、今年のテーマは「人とAIの共創で生み出すフジサンケイビジネスアイ」。未来の新聞広告を象徴して、「フジサンケイビジネスエーアイ(AI)」を掲げ、題字まで変えて展開しました。

以前の記事で紹介した「新聞広告のセクシーが待っている」は新聞業界でも注目していただきましたが、プロジェクトチームと電通新聞局、新聞社で話し合う中で、今年の展開は単に「AICOを使ってコピーを書く」だけではなく、AICOのコンセプトである「人とAIの共創」を実際にクライアントの実用にまで推し進めて特集展開に挑むことが大切ではないかという結論になりました。

結果として、AIでスコア・レンディングサービスを展開する「J.Score」、ファッション業界から今年で1周年を迎えた「ISETAN THE JAPAN STORE」、ホームレスの就職支援をサポートする認定NPO法人の「Homedoor」の3者との多種多様なコラボレーションが実現しました。それでは、一つずつ見ていきましょう。

AIが、金融のコピーに挑戦!? AICO×J.scoreの事例

今回の企画に手を挙げていただいたJ.Scoreは、利用者がチャット形式の質問に答えていくことで自身の可能性や信用力を数値化した「AIスコア」を算出することができ、その値に応じた金利や限度額で融資を受けることができる「AIスコア・レンディング」サービスを提供しています。

これまで「AIスコア・レンディング、はじまる。」というコピーでキャンペーンを展開していましたが、今回の新聞広告企画ではAICOを用いて、「お金」「フィンテック」などのキーワードでコピーを大量に生成しました。

【AICOが書いたコピー】

・想いを、お金に。
・フィンテックは、みんなのもの。
・挑戦し続けるお金のために。
・フィンテックヤバい、たまらん。

こうしてAICOから提案されたコピーの中から、特にクライアントの事業に近い骨太のメッセージ「その投資は、夢を育む」というコピーが選ばれ、実際の広告が誕生しました。

実際にAICOを活用してJ.Scoreの広告を制作したメンバーからは「今回初めてAICOでコピーを書いてみましたが、想定していた以上にちゃんとしたコピーが出てきて驚きました」とのこと。今後この領域におけるAIの活用に向けて、手応えを感じることができました。

AICOが、ファッション広告に挑戦!?

続いて金融コピーと対照的に、感覚的なセンスが求められるファッション広告にAICOが挑んだ事例を紹介します。ISETAN THE JAPAN STOREの1周年のブランディングに合わせたファッション広告にAICOを活用しました。

当初のISETAN THE JAPAN STORE1周年の広告コンセプトは、「New Wonder.」。クールジャパンを世界に打ち出すためにマレーシアに設置されたコンセプトショップであり、日本のテクノロジーであるAICOとのコラボは相性が良いのではないかと思いました。今回1周年のブランドブックやポスターを制作するために撮影時にたくさんのアザーカットが存在したため、それらのビジュアルにAICOで「日本」というキーワードを入力して、大量のコピーを出力。

【AICOが書いたコピー】

・アジア飲んだら、間近したくなった。
・どうして、アメリカは、オッホンなの?
・蒔かぬ日本は生えぬ。
・日本を読むな。ネバネバしろ。

など20点以上を制作し、Sankei.Bizで掲載しました。

さらに、日本に関連したキーワードとして「アジア」「景気後退」「世界」などの話題が自動的に含まれたAICOのコピーを大量に見ていくうちに、これらのコピーをつなげてひとつのボディーコピーやメッセージが生み出せるのではないだろうか?とアイデアが展開していきました。そこで、元々のISETAN THE JAPAN STOREの広告の横に、AICOがコラボして書いたボディーコピーのようなメッセージを対比させて見せていくという今回の新聞原稿が出来上がりました。

世界一いらず。
(もはや日本は、「世界一」なんて目指さなくてもいいんじゃないだろうか) 

もう逃げるのはやめよう日本。
(見たくない現実から目をそむけずに、今の日本を見つめよう)

景気後退は試し。
(少子高齢化など「景気後退」など、逆境さえもチャンスかもしれない)

なぜ、欧米関係は、ワッサワッサなんだろう。
(たとえ欧米などの大国が、ダイナミックに動くとしても)

アジア諸国が、髪だ。
(身近なアジアの国々とつながることで、髪(神?)に救われるかもしれない)

日本が炊き上がる。
(さぁ、日本らしく魅力を立ち上らせよう)

※カッコ内は、AICOのコピーを見て、人間のコピーライターが勝手に妄想した意訳です。

このようにあくまでもAIが書いたコピーだからこそ、受け手が多様な解釈のできる余地が生まれ、イマジネーションがかき立てられるという新たな楽しみ方が生まれると思っていました。

AIが人の就労支援をする!? NPO法人Homedoor

最後に、現在も継続してプロジェクトが進行している事例として、ホームレスの人々を支援しているNPO法人のHomedoor(ホームドア/http://www.homedoor.org)との取り組みについてご紹介します。

昨今AIを語る際、人間の仕事がAIに代替され、人間は職を奪われてしまうのではないかという議論がよく起きています。そこでこうした現状に対し、AIプランナーズMAI&AICOができることはないのだろうかとチームメンバーで議論していました。そこでAIが仕事を奪うという文脈へのアンチテーゼとして、AIが人間の就労をサポートできないかという話が出てきました。

Homedoorの川口加奈理事長は14歳でホームレス問題に出合い、19歳で同NPO法人を設立。それ以来、大阪市内を拠点としてホームレスの人々や生活保護受給者ら160人以上に就労支援、600人以上に生活支援をしてきた人物です。自転車修理の事業も展開し雇用を創出しています。

そこでAIプランナーズMAI&AICOのプロジェクトは2017年7月からHomedoorと連携し、「AIが人間の仕事を生み出すサポートに取り組む」という前代未聞の取り組みをスタートさせました。Homedoorが以前からホームレスの人々への認知拡大、企業・個人への寄付募集、ホームレスの人々が自転車修理を行うシェアサイクル事業「HUBchari」の宣伝のためにリスティング広告(検索エンジンの検索結果に表示される広告)を出稿していることを知り、これらの広告の文面をAICOが考えることで、クリック率向上を図ることができないかという話になりました。

まず「ホームレス」「生活保護」「自転車」などのキーワードを元に、約3000個のコピーをAICOで生成し、その中から50個を選定。ホームレスの人々に投票してもらい、人気の高かったコピーを選出しました。

【AICOが書いたコピー】

・ホームレス。必要なのは、周りかもしれない。
・すべての一日に支援を。
・第一歩を始めた。俺は第二章になった。

さらに現在はこのコピーを用いたリスティング広告を実際に運用中で、今後はクリック率の高かったコピーを分析するとともに、ホームレスの人々の意見を参考にしながらキーワードの選定を繰り返し、より効果の高いコピーを生成できるようPDCAサイクルを回しています。

AICOで生成したコピーを実際にリスティング広告で掲出、クリック率や問い合わせ数の向上のために月次でPDCAを回しています。実際、2017年の8〜10月の結果では、全体としては僅差であるもののAICOのコピーが好成績を収めており、対象サービスのカテゴリーによっては、クリック率で人間が書いたコピーに比べて1.4倍ほどの結果となったものも。今回の結果を踏まえ改善していくことで、今更なるパフォーマンスの向上を目指しています。

AICOの1年間の成長から見えてくる、AIと人間の共創する未来

今回の事例のように「AIと新聞」というトピックに関しては、日本経済新聞の決算記事自動化や、中部経済新聞の70周年企画として実施されたAI記者など(https://dentsu-ho.com/articles/4875)さまざまな施策が行われています。今回の施策を振り返ってプロジェクトメンバーでは今後もメディアとの関係性を生かしたAI開発をすることで、電通ならではのAI技術を活用したソリューションがつくり出せるのではないかと手応えを感じています。今回紹介した事例以外にも本プロジェクトは、歌詞生成への取り組みや、プロモーション領域での活用の可能性を探るなど、さまざまな広がりを見せています。

現在もMAI&AICOは多くのコピーライターやプランナーの協力のもとで開発は続いており、社内のベータ版として既に200人以上のメンバーがテスト的に活用しフィードバックを続けています。そしてAICOに続く実務でのデビューに向けて開発を続けるマーケティングAIのMAIもいます。改めて同プロジェクトに協力いただいている全ての方々に感謝を申し上げます。今後さらに世の中でお役に立つ機会が広がっていけばと思っていますので、これからもAICOとMAIをどうぞよろしくお願いいたします。