通販広告と心理学のタッグで見えてきた「現代人の購買心理」No.3
面白いCMと、ベタなCM、売れるのはどっち?
2020/04/16
通販広告と心理学、異色タッグのプロジェクトチームが、3年かけて通販広告のデータを解析。その成果をまとめた『売れる広告 7つの法則』 (光文社新書)より、全7回シリーズでトピックスをご紹介します。
この原稿を書いているのは4月初旬ですが、 残念なことに、この1カ月で世の中の景色がガラリと変わってしまいました。人から人へウイルスが伝わっていくのを食い止めるには、人から人への情報の伝え方がとても重要となります。コミュニケーションに携わる者として、自分たちが貢献できることは何かを常に考えながら、日々行動していきたいと思います。
さて、そんな激動のせいでとても昔のことのように思えますが、ひと月ほど前の3月、「インターネット広告費がテレビ広告費を超えた!」というニュースが発表されました。まさに広告が、ヒトの心を動かす表現の優劣を競う右脳型の産業から、デジタルデータを駆使して明確な答えを導き出す左脳型の産業に変わった、そんな時代の転換を思わせるこのニュース、皆さんはどんなふうに捉えましたか?
日々、通販広告と向き合う中で私が感じるのは、確かに広告は、間違いなくデータと結びついた左脳型の産業になりつつあるな、という実感です。とはいえ一方で、全く逆のことも感じています。広告はまだまだ恐ろしいほど不可解なことだらけで、どんなにデータが揃ったとしても、「確実にモノを売れる答え」にたどり着くのは、当分先なんじゃないか、ということ。
その典型ともいえるのが、「面白いCMとベタなCM、実際に売れるのはどっち?」という、ものすごくシンプルな質問です。クリエイターは「面白くなければ誰も見ないし、効果がないですよ!」と言い張り、アナリストは「ターゲットに当てられるのであれば、ベタな方が結果がいいはずです!」と主張してくる。つまり今でも、私たちは、こんなシンプルな問いにさえ確実な答えを持ち合わせていないのが現実なのです。
「面白いCM」と「ベタなCM」を直接対決させてみると…
果たして、「面白いCM」と「ベタなCM」、どちらが販促において効果的なのでしょうか?
そんなのケースバイケースだろ!という大方の意見にあえて抗い、私たちがこの“論争”の答えを求めて行ったのが、その名も「面白いCM vs ベタなCM 直接対決テスト」です。名前の通り、注目度を増すことで商品の圧倒的刷り込みを狙った「面白いCM」と、商品の具体的役割を伝えることを意図した「ベタなCM」の二つを用意。それらをほぼ同条件で放送し、結果どれだけの人がどのように動いたのかを、インターネット上の検索数やホームページの訪問数、商品の販売数をもって計測したのです。
いったいどんな差が出るのか、ワクワクしながらやってみた結果が、次の表。ご覧の通り、「面白いCM」と「ベタなCM」は、共に◎と〇と△が一つずつという、何とも判断に困る結果となりました。
「面白くなければ誰も見ないし、効果がない」というクリエイターの主張も、「ベタな方が結果がいいはず」というアナリストの主張も、どちらも正しいといえそうなこの結果。やはりこの問いに答えはないのか…。
いいえ、そんなことはありません。大事なのは「どちらが販促において効果的か」という観点。「面白いCM」の方は、検索数は増えたものの販売数はそれほど増えず、逆に「ベタなCM」は、検索数は増えなかったものの、最終的な販売数では上回っています。つまり、販促への貢献度という意味では、軍配が上がったのは「ベタなCM」だったといえるのではないでしょうか。
実は、モノを売ることに特化した通販広告の場合だと、この傾向はさらに顕著です。というよりもむしろ通販広告においては、商品の具体的特徴を、例えばビフォーアフター型のような、いわばベタを通り越した「ベタベタ」な表現にしない限り、なかなかお客さまに買っていただくことはできません。モノを売ろうとするのであれば、キレイな表現やウィットに富んだ表現よりも、直接的に商品価値を描いた表現の方が圧倒的に有効だというのが、通販におけるまぎれもない事実なのです。
「ベタなCM」が生み出しているものとは?
ベタな表現の方が、なぜモノが売れるのか。そのカギを握るのは、「Identify」すなわち「認識」という心理だと私たちは考えます。
「Identify(認識)」とは、どのような心理で、どのように購買行動に影響しているのか。それを知るために見ていただきたいのが、私たちが通販の反応データから導き出した購買心理モデル、「A・I・D・E・A(×3)」モデルです。(全容は1回目の記事 にまとめておりますのでそちらをお読みください)
人は、五つのステップを順次クリアして購買に至るわけですが、その2番目に位置するのが、「Identify(認識)」です。
あれ、2番目の「I」って、「Interest(興味・関心)」じゃないの?と思う方も多いと思います。ですが、現代の購買行動において大事なのは、「Interest(興味・関心)」ではなく、「Identify(認識)」だと私たちは考えます。
例えば、ビフォーアフターのようなベタベタな表現で商品の必要性を見せつけなければ、人はモノを買ってくれない。この事実が意味するのは、モノを買ってもらう上では、単に「興味」や「関心」という薄い感情ではなく「この商品は自分のニーズを満たす、自分が求めているものなんだ」という明確で強い「認識」を持ってもらうことが欠かせないのだ、ということです。
そして、この「Identify(認識)」をしっかりできるか否かで、「Discussion」以降のステップに進む数も変わります。「Identify(認識)」が上手くいけば、その先のステップに進む人が増えるし、上手くいかなければそこで購買心理は途切れてしまう。「面白いCM」と「ベタなCM」の間で販売数に差が生まれたのは、まさに「Identify(認識)」の差だったといえるでしょう。
ゴールインから逆算したCMが、理想のCM。
このような考え方は、昨今、ファネルという概念で語られます。ファネルとは、本来「漏斗」を意味する英単語で、見込み客が購入に至る流れが、漏斗のように徐々に数が絞り込まれる形になることから、転じてマーケティング用語となったものです。
一般的にファネルは、商品情報との初期の接触を指す「トップファネル」と、商品を理解する段階である「ミドルファネル」、最終的な購買決断の段階となる「ボトムファネル」に分けて考えられます。各段階で適切な手を打って、漏斗をできるだけ太いまま保つことで販売数を増やしていこう、というのがファネルの基本的な考え方です。
そんなファネルの概念に、「面白いCM」と「ベタなCM」の検証結果を当てはめると、次の図のようになります。
「面白い」CMは、面白いがゆえにトップファネルで反応する人は多く生み出したものの、商品価値への認識を強く植え付けられなかったせいでミドル以降のファネルにはあまり人を押し流せなかったということになります。
逆に「ベタなCM」はトップファネルの反応数は少ないものの、商品価値を認識させる力が強かったことで以降のファネルに多くを押し流すことに成功、結果的に商品の販売数も増えた、という形で表せます。
このように捉えると、「Identify(認識)」というステップは、トップファネルとミドルファネルをつなぐ役割を果たしていることが分かります。
商品が自分のニーズを満たすモノだとしっかり認識させる、この過程を経ることで、人はその商品に興味を持ち、驚くほどスムーズに次のステップに進んで行ってくれるのです。
これこそが、「Identify(認識)」というステップが、現代の消費者にモノを売るために欠かせない真の理由だと、私たちは考えるのです。
2019年、インターネット広告費がテレビ広告費を超えた。このニュースの裏にあるのは、モノや情報があふれた結果、消費者もマーケターも行動を変えた、という事実です。
モノや情報があふれ過ぎたせいで、消費者はより商品の価値を認識しないと買わなくなった。そしてマーケターも、その変化をデータを駆使して追いかける必要が出てきた。そんなさまざまな変化が水面上に表れたのが、「Interest(興味・関心)」から「Identify(認識)」への「I」の変化なのかもしれません。
とはいえ、どちらの「I」にせよ、動かさないといけないのは、商品の価値に気づき、商品を好きになるという人の心です。そして、いつの時代も最も難しいのが、どうやったら人の心を動かせるかの具体的なアイデア。
単純なCMだけでなく、さまざまな技術を用いたインターネット広告やリアルイベントなど、アイデアの発想範囲もさらに広がりを見せている今、私も、今まで以上にアンテナを張り発想を広げて、今までにない画期的な広告を考え出せるよう引き続き努力していきたいと思います。