未来の難題を、こう解いていく by Future Creative CenterNo.12
雪見だいくふうに見る共創マーケティング
2021/03/19
電通のクリエイティブ横串組織「Future Creative Center」(FCC)は、広告の枠を超えて、未来づくりの領域をクリエイティビティーでサポートする70人強による集団。この連載では、「Future×クリエイティビティー」をテーマに、センター員がこれからの取り組みについて語ります。
今回取り上げるのは、アイスの定番商品「雪見だいふく」を使って2019年に行われた「雪見だいくふう」キャンペーン。新しい企画をするにも、ロングセラーであり、これまで50以上のフレーバーに挑戦してきた商品ゆえに「ネタ切れ」状態だった雪見だいふく。そこで、雪見だいふくに一工夫加えた“新しい食べ方”を募集したのがこの企画。一般消費者の応募だけでなく、他社商品とのコラボも生まれました。加えてこのキャンペーンは、2020年以降の商品リニューアルや、さらなる企業コラボにもつながっています。
「ネタ切れ」をネタにしたキャンペーンはどう生まれたのでしょうか。雪見だいふくのブランド担当を務めるロッテの安藤崇平氏(ロッテノベーション本部 雪見だいふくブランド課)と、プロジェクトに携わった電通FCCメンバーの吉川隼太氏(クリエーティブディレクター)、石橋枝里子氏(クリエーティブディレクター/コピーライター)が振り返りました。
雪見だいふくファンの高い熱量を借りたマーケティング
安藤:雪見だいふくの人気は安定していましたが、購入率の伸び悩みという課題もありました。そこで電通さんに相談したのが企画の始まりでしたね。希望としては、単純に購入率を上げるだけでなく、話題化する企画にしたいと。雪見だいふくって、ありがたいことに、とにかく熱いファンの皆さまが多くて、話題化されやすいんです。そして過去の傾向を見ると、話題化されたときに購入率が上がっていました。
そこで、話題化と購入率アップを実現できる企画をやりたいと。リクエストだけして、あとは吉川さんのチームに丸投げさせてもらいました(笑)
吉川:決して丸投げではなかったですけど(笑)。でもスタートはそんな経緯でしたね。
安藤:正直なところ、もうネタがなかったんです(笑)。雪見だいふくは発売から40年近くたつ商品で、ロッテのアイスの中でも歴史の長いブランドです。しかも今までに50種類以上のフレーバーを展開していて、味が出尽くしていたんですよね。これ以上、何をしたらいいのかと。
石橋:その悩みが、企画内容へとつながってきますよね。
安藤:はい。私が雪見だいふくを担当したのは2018年で、その前は別のアイスの商品開発をやっていました。担当になってから「こんな味の雪見だいふくはどうですか?」と提案しても、「すでにやってるよ」と即答されたりで(笑)。正直、これ以上何をすればいいんだろうという状態でした。
その後、電通さんから「雪見だいくふう」の企画が提案されて、こちらにネタがないなら「ファンの皆さまの力を借りよう」と素直に思ったんですね。
吉川:雪見だいふくはとにかくファンの皆さまに愛されているブランドです。そこで、ファンの方のパワーを借りたファンマーケティングがいいとみんなで話していて。実際にSNSを見ると、ファンの方が独自に雪見だいふくの食べ方を開発・発信しているんですね。
石橋:ウイスキーと一緒に食べたり、天ぷらにしたり。あとは車のボンネットで温めるとか、ネタ系のものまでいろいろ出ていますよね。雪見だいふくファンの文化というか。
吉川:すでにたくさんの面白い展開ができていました。それなら、この文化を企画にしようと。雪見だいふくの面白い食べ方をSNSで募集する「雪見だいくふう」を立ち上げました。もともとファンの方がやっている活動を、あえてキャンペーンにしたんです。それまでも、SNSを使ったファンマーケティング企画を雪見だいふくで行っていて、その反応の強さから、きっと盛り上がると思いました。
企業コラボは今までの延長線上にない、新しいブランドの姿を見せられる
吉川:企画のポイントとしては「雪見だいくふう」というネーミングが大事だったと思います。ファンの方が今までやってきたことを、どう新しく世の中に発信するかという点で。
石橋:ネーミングを考えるとき、堅いレシピコンテストには見えないよう注意しました。SNSにはネタ系の投稿も多いように、ファンの方はおいしさの追求に限らず、自由に雪見だいふくを楽しんでいるんですよね。その自由な枠組みを表現できればと、「雪見だいくふう」というネーミングにしました。
吉川:石橋さんがダジャレ好きということもありますね(笑)。もうひとつ、“ネタ切れ”という悩みを正直に打ち明けました。キャンペーンサイトのトップに「雪見だいふくの新しい味の開発を助けてください!」と載せて。その下にファンの皆さまへの“お願い文”をつけたんです。
安藤:本当にネタ切れだったので、これでいいと思いましたね。「おまえが考えろ」と言われたらどうしようもありませんが(笑)。
石橋:とはいえ、あまり自虐的になり過ぎないように、シンプルな文章で、少しかわいげのある表現に調整しました。サイト自体も、お客さま相談室のようなニュアンスで「雪見だいくふう室」としたんです。
吉川:キャンペーンの応募期間は2019年9月3日〜11月29日。11月からは他社商品とのコラボも行いました。このアイデアも、先ほど話したファンの方が独自に雪見だいふくの食べ方を開発・発信していることが原点。実はこの「雪見だいくふう」の肝は、ファンマーケティングの発想を企業まで広げ、さまざまな会社と一緒のキャンペーンをつくり上げて、運動にしていくことだと考えていました。
キャンペーンの動画でも言っていますが、今は「競争」ではなく「共創」の時代です。ファンの皆さまの中で雪見だいふくのさまざまな食べ方が話題になったのも、世の中がコラボを求めていたからだと思ったんですね。
石橋:コラボでは、実際に4社(永谷園、ポッカサッポロフード&ビバレッジ、味の素冷凍食品、雪印メグミルク)が参加したのですが、すべて安藤さんが企業に直談判していただいて……
安藤:どのコラボも、企業を代表する看板商品でした。それぞれ歴史も長いですし、提案するときは緊張しましたよ。きっと10年前なら門前払いされていたと思います(笑)。でも今はそういう時代ではなくて、企業コラボは今までの延長線上にない新しいブランドを見せられますし、話題にもなりやすい。私自身はコラボに抵抗はなかったですね。
吉川:どんなコラボがいいか考えるために、雪見だいふくと合う商品を探そうと会議室でひたすら試食しましたよね。100個くらい雪見だいふくを用意して、端からいろんな商品と合わせて。印象的だったのは、永谷園さんの「お茶づけ海苔」と相性が良かったことです。
安藤:あれは新しい発見でした。意外とおいしいじゃん!と。そのタイミングで偶然、永谷園さんとお話しする機会があって。これは行くしかないと思いました(笑)。さすがにドキドキしましたよ。担当の方も驚いていたのですが、了承いただきました。
石橋:相手企業にも雪見だいふくの大ファンの方がいらっしゃって、喜んでいただきましたよね。ファンの皆さまの熱量が高いという特徴が、企業コラボにもつながった気がします。
このキャンペーンが、のちの商品リニューアルにも影響を与えた
吉川:雪見だいくふうは2019年11月に終了しましたが、この企画が継続性を持っているのもポイントです。例えば、企業コラボはその後も行われていますよね。2020年10月にはPascoさんの「超熟」とコラボした「禁断の雪見トースト」を、井村屋さんの「あずきバー」とコラボした「雪見あずきぜんざい」は、2年連続でお正月に2社共同の広告を出しています。
安藤:井村屋さんは同業なのでコラボを受け入れていただけるか不安でしたが、お話しすると思っていたよりもスムーズにOKを頂いて。今はむしろ同じ業界だからこそ横のつながりを持ってもいいのかなと思いましたね。
それと、2020年に雪見だいふくをリニューアルしたのですが、ここでも「雪見だいくふう」のアイデアが生きているんです。あのとき、雪見だいふくに塩味の食材を加えるとおいしいという意見を多数頂きました。それをヒントに、バニラアイスに少しだけ塩味を加えています。
吉川:ファンの方のアイデアが、味のリニューアルにつながった例ですよね。ファンが作る流れは世界的に起きていて、ゲーム機のXboxも、ユーザーがコントローラーをカスタマイズして販売できるサービスが人気を集めました。ファンがブランドや商品づくりに加わる動きが増えています。
安藤:キャンペーンの最後には、優秀なレシピを三つ選んで、1日限定で、カフェで提供したのですが、優秀作品をつくられたご本人たちが来店しました。話を聞くと、この企画がきっかけでその方たちは知り合えたようです。ファンの皆さまが輪をつくり次のファンを呼ぶ流れは、マーケティングの理想。それが現実になった事例かもしれません。
石橋:ファンの方の熱量もすごいですし、そもそも雪見だいふくをここまで自由に食べていいとロッテが公式に発信したのもすごいなと思います。
安藤:ブランドは、変化を受け入れていかないとダメだと思います。守らなければいけないところ、大切にするところは残しつつ、常に変えていく。そうしないとお客さまも飽きますし、取り残されますよね。雪見だいふくも、あの形状からくる優しいイメージやイメージカラーの赤といった部分は大切にしつつ、他はいろいろチャレンジする。それがこれからのブランドやマーケティングで大切になるのではないでしょうか。