【グローバル】加速するサステナビリティ&サーキュラーエコノミーNo.7
自然と組織に変革を起こす多様性の力【CSVフォーラムレポート3】
2021/06/25
この記事では、2021年4月17日に日本・中国合同で開催されたCSVフォーラム特別編イベントをレポートします。第3回は中国の若手起業家 姚 松喬(ヤオ ソンチャオ)氏の活動内容と、Wellbeing経営をテーマに行われたパネルディスカッションの様子を紹介します。
第1回:資生堂に学ぶグローバル経営【CSVフォーラムレポート1】
第2回:パナソニックに学ぶ中国で歓迎される事業展開とは【CSVフォーラムレポート2】
複数の視点で共有価値を創造する
若年の環境活動家で構成されるWildBound創立者の姚松喬氏。中国政府や環境省だけでなく、ノルウェー大使館、世界経済フォーラム、生物多様性に関する国連条約などさまざまなステークホルダーとともに、自然のための変革プロジェクトを推進している。ディスカッション冒頭で自身の活動内容を紹介し、「真の経験と権限付与、みんなが変革者になる潜在能力、その組み合わせが、実際にパラダイム全体を変え、よりよい世界に向かって進む方法です」と話した。
姚松喬氏は昨年「#Changemakers for nature」というプロジェクトを立ち上げた。脳科学者・政策担当者・ビジネスリーダー・若者が一緒に持続可能性について語り合う円卓会議を運営するなど、変革者を力づけ、変革に向かうコミュニティーを教育・支援している。
「若者は未来の消費者・未来の変革者であり、私たちがSDGsターゲットを達成するためには、直面する課題に集団で取り組み、彼らの可能性を最大限に活用することが重要です。自然が多様性によってより強くなるように、企業でも社会でも多様な人が働くことによって、私たちはより強くなり、つながり支え合うことで、まいた種が木となり葉を茂らせ、やがて持続可能な森が生まれるのです。複数のステークホルダーの視点から共有の価値を創造していくことは意義深いことです」と語った。若者だけでなく、ビジネスリーダーも参加するイニシアティブがエコシステム全体の変革につながることを実感しているという。
姚松喬氏は起業の背景をこう語った。「私はアジア人女性で、強くは見えないでしょう。しかし性質や技能の違いが、それなりに役立つのです。もし私たちが野生の中にいたら、いつも強さを競うことはできない。思考に柔軟性があり、持続可能な開発という分野で重要な仕事をしている人の多くは女性たちです。私はこれまで、変革者の支援として、南極観測に若い人を連れていくような直接的な体験に重きをおいてきましたが、実は自然から得た多くの知恵が、アート展示や地域教育、そして企業にも役に立つ。1人の変革者を刺激するだけでなく、世代や役割を超えて、みんなに広げることができると気づいたのです」
ORではなくANDでつながる
※ここからは、会話形式でディスカッションの模様をお伝えします。
(敬称略)
名和:Wellbeingはとらえどころのない言葉ではありますが、私は静的な幸せではなく、行動変容につながるものではないかと考えています。Well-Becoming<よりよい姿を目指し続ける>という動詞的なものがいいのではないでしょうか?
魚谷:美と健康といいますが、2つはつながっていて、トータルでの美と健康、生き方が注目されています。
名和:心と体がつながっているということはキーワードの1つですね。
本間:健康な老後と新鮮で安全な食べ物を供給することは中国でも共感を得られています。
名和:つながるということでは、インクルージョンがない限りは、ダイバーシティーが成立しない。インクルージョンファーストといわれる中で、現地の良さを生かしながら1つにまとめていく、このバランスについてはどう考えられていますか。
魚谷:日本は終身雇用で「一丸となる」という言葉が好き。これはすばらしいが、一方で変化が速い時代に自分たちのやり方にこだわって動きが遅くなる。一丸となれる良さを生かしながら、忖度せず意見を言い合い、多様なアイデアが出ることを両立できる組織風土を作ることが大事です。
名和:「OR」ではなく、「AND」の姿勢ですね。中国らしさとパナソニックらしさはどう両立していますか。
本間:デザインは難しい。パナソニックらしく、かつ、中国で受け入れられるデザインが分かる人材を育成するのにすごく時間をかけてきて、そういう人たちが今活躍できるようになってきています。日本企業の課題はバリューチェーンを中国でつくることですが、この2年で自分たちが成し遂げたのではなく、25年かけて8000人のエンジニアを育成した先人の成果であると考えています。
ポストコロナで求められる海外事業転換
鄭:中国では年代で価値観はかなり違いますが、違いを重んじながらも共通点を探す姿勢で、ダイバーシティーを超えて、サステナブルな生活ができる場づくりをしていこうという機運が高まっています。中国では女性管理職比率という言葉自体がダイバーシティー違反ではないかとする向きもあります。
魚谷:何%という目標は本来いいとは思いませんが、日本企業はそうしないと何も変わらないので30%、50%の目標を掲げました。女性だけでなく、海外から来た人に英語サポートをしなければというような、支援・サポートという言葉を使わないのが理想です。5年以内に性別・地域・採用形態・ハンディキャップを意識せず、自然に一緒にいられる環境をつくっていきたい。日本でも偏見に気づいて、社会的な議論がどんどん起こったほうがいいと思います。そしてそこから新しい発想が出てくることが大事です。
中国はグローバルの価値創造拠点に
名和:スピード、スタイル、コストという中国の姿勢を日本企業が学ぶことはどうお考えですか。
本間:今はインドやアジアから中国に人が来て学ぶという形です。白物家電は中国が世界の生産の半分を担っていますから、中国市場で戦える体力をつけることがグローバルで生き残る最低条件だと思っています。
名和:中国から学ぶというより、中国のイノベーションの影響はグローバルで受けていくのですね。
本間:中国は40年ずっと変化し続けていて、変化するのが当たり前です。また消費の牽引者が若く、ターゲットを20~30代にしないと売れないのも日本との違いです。日本での事業を具体的にどうすべきというアイデアはないのですが、できるだけ中国のダイナミズムを早く経営層に伝えることが大事ではないでしょうか。ポストコロナで日本企業の海外事業は転換期にきています。コミュニケーションしないとどんどん認識がずれるので、日本に現地の動きを理解してもらいながらも、現地の判断が大事です。
魚谷:先日、中国は第二の本社だと発表しましたが、市場としての中国だけでなくグローバルの価値創造の拠点としての中国に注目しています。今後は企画やアイデアは中国で出し、日本ブランドは日本の工場でつくるという、今までとは逆のクロスボーダーもありえるでしょう。
世界の分断を止める、IからWEの志
名和: I(個人)からWE(コミュニティー・共生)へというムーブメントは、コロナ禍で個人主義と分断に向かっていく社会で、どうすれば広まるでしょうか。若年の世代がそれを牽引するのでしょうか。
姚:学校・企業・イニシアティブなどさまざまな立場で、異なる考え方や進め方をする人同士が協業すると、やがてお互いを許容します。異質なものとつながるという感覚を育てることはとても重要で、人間同士だけでなく、自然環境の中で、多様な生物とのつながりを感じることに通じていきます。
名和:もしかして、世界をよくしたいという志が、少し日本の若者は弱くなっているのでしょうか。
魚谷:日本の若い人も、失敗してもいいからやっていいといえばやる気になります。まじめで会社や社会をよくしたいと思いながら、それができないもどかしさを感じている人を解放する組織風土が大事です。何かしたいという志を持つ人が、社員だけでなく外部も含めて手を挙げたらすぐ動けるプログラムをつくると、達成感や仲間意識ができ、組織を超えて横につながる。そこで生まれる感動が、事業的にも必ずプラスになっていきます。また、株価は期待なので、海外投資家への積極発信も重要です。長期投資家は人生哲学を聞いてくることもあります。ここでも名和先生のいう志が肝要なのです。
名和:最近はCSV経営をパーパス経営と言いかえて伝えることが増えました。
鄭:中国のC-CSV(Co-creating Shared Value)においても、思いやりある愛と、設計だけでなく事業活動を支える仕組みにしていくこと、その2つが不可欠です。
今回で、3回にわたるCSVフォーラム特別編のレポートは最後になる。振り返ると
- 資生堂グローバル:人を中心にしたダイバーシティー経営が、中長期で事業成長を築くダイナミズム
- パナソニック中国:CSVの見本のような社会貢献価値と事業成長の両方を叶えるビジネス展開
- 起業家WildBound:自然環境にプラスの変革を起こすための協働イニシアティブの推進
エリア・商材・立場も異なる中で、彼らがそれぞれの会社をわずか数年で大きく成長させた共通点が見えてきた。
- 創業の志を引き継ぎ、長期的な視野で人と社会のWellbeingに貢献する
- 各地域・各人の強みを生かしつながることで、多様性を力にする
- 中央コントロールではなく、失敗を許容し、現場が迷わず実行に移せるよう権限移譲をする
サステナビリティー&グローバル経営の必須要件が示唆された、密度の濃い3時間のフォーラムとなった。