loading...

採用課題は、経営課題。採用にもクリエイティビティを。No.8

いま採用活動にクリエイティブが求められる理由

2021/06/30

通年化・早期化が進み、激変する採用市場。コロナ禍で説明会や面接がオンラインになるなど、環境の変化は目まぐるしく、企業は採用活動の在り方を模索しています。

学生の就活・採用のリデザインを行っている電通若者研究部(電通ワカモン)(※1)の採用クリエイティブチームは、キャリア支援NPO法人エンカレッジ(※2)など、就活支援を行っている企業や団体と協業し、「失敗人財プロジェクト」や「47INTERNSHIP」をはじめ、学生と企業の新しい関係構築のためのソリューションを開発・提供しています。

今回は、電通ワカモンの西井美保子氏と、エンカレッジの南原健人氏が対談。就職・採用活動の現状を踏まえ、採用活動におけるクリエイティビティやソリューションの重要性について語り合いました。

※1電通若者研究部(電通ワカモン):若者と社会の関係性をデザインすることをミッションとして掲げているプランニング&クリエイティブユニット。就職活動のリデザインを通して、若者と企業の新しい出会い方のプロデュースを行っている。

※2 エンカレッジ: 47都道府県の100を超える大学支部で活動するキャリア支援NPO法人。学生が運営の中心メンバーとなり、1対1で行うキャリア面談などを各大学支部が開催している。
 


電通ワカモン

スタートは早まりエントリー数は増加。就職・採用活動の現状は?

西井:エンカレッジと電通ワカモンは、3年ほど前から学生の就活・採用のリデザインに一緒に取り組んでいます。コロナ禍により、学生と企業がリアルに接触する機会が減るなど、就活環境は大きく変化していますが、就活生の動きをどのように捉えていますか?

南原:例年なら3年次の6月ごろから就活を始める学生が多いのですが、昨年は1カ月ほど前倒しする傾向が見られました。1人当たりのエントリー数が増えたことも特徴です。 

西井:7年ほど前までは80〜90社近くエントリーする学生も多かったのですが、ここ数年は売り手市場で、エントリー数が減る傾向にありました。それが増えているのは、コロナ禍による学生の不安の表れでしょうね。

南原:他にも、オンライン化が進んで、就活における都市部と地方の格差が少なくなったと見る向きもありますが、実は、就活における地域格差はあまり解消されていません。私たちは47都道府県に支部があり、全国各地の学生の就活支援を行っています。例えば首都圏の学生の場合、インターンに参加するのはもちろん、就活塾に通っていたり、なかには学生時代から起業している人もいます。一方で地方の学生は、就活が始まるまで、就職について考えている人は少ない感じがします。でもそれは学生のせいだけでなく、情報がちゃんと行き渡っていないことも大きな原因です。

西井:情報化社会のいま、情報の地域格差なんてあるの?と思われるかもしれませんが、就活においては、いろいろな会社を調べて、その中から興味のある会社を見つけて、自ら積極的に採用情報などを取りにいかないと手に入りません。首都圏の学生は割とそういった情報に対する感度が高いのですが、地方大学の学生では、情報を知らないが故にインターンシップを逃していたり、採用情報を得られないまま会社の募集が終わっていた、ということもあります。

南原:まさにそうですね。情報を取りやすい環境になってはいますが、基本的には受け身なんです。これだけ情報を取れる時代においても、身近な人から得た受け身の情報だけで決めてしまう。それが課題だということにも気付いていないのが現状ですね。

西井:電通ワカモンの調査でも、就活をする上で情報源になるのは「同級生」や「サークルや部活の先輩」「親族や家族」で、トップ3を占めているという結果が出ています。身近な人の意見が大きく影響している中、地方では先輩が就職している会社も限られているぶん、選択肢が首都圏とは大きく異なります。それも地域格差を生んでいる要因だと思います。

南原:企業側の変化についてはどう感じていますか?

西井:大きく3つの変化を感じます。1点目は、自社が採用するべき学生に対する母集団形成が難しくなっていることです。採用活動においては、自社のアピールを行う前に、まず業界に興味を持ってもらうべく、さまざまな学生と出会っていくステップがあります。具体的には、大学などに赴いたり、合同説明会などに登壇したり。リアルの場でのこういった活動は特にコロナ禍で難しくなっています。

2点目は、内定者離脱が大きな課題になっているとよく聞きます。コロナ禍前は、内定後に社員と実際に会ったり会社に来てもらったりする「リテンション」という活動を行って自社の雰囲気を伝え、愛着を持ってもらえるよう努めていました。しかし、今はその活動をリアルの場で行うことが難しくなり、大きく影響しているようです。

最後に、以前から企業は、SNSを採用活動にうまく生かせないという悩みを抱えていました。この課題がコロナ禍で浮き彫りになっています。SNSが学生の可処分時間の多くを占めているにもかかわらず、そこに採用活動をうまく絡められない。というのも、SNS活用の経験値がないので、まずはトライするところから始めなければなりません。SNSの予算がついている大手企業なら知見をためていけるのですが、中小企業ではまだ予算がつかず、後手に回っています。

南原:学生側も、実際に社員に会って分かることが多いのですが、オンラインが主流になって、採用担当者の考えていることや企業の雰囲気がつかみにくいようです。そのため、志望している企業が本当はどんな企業で、自分に合っているのかが分からない、という話をよく聞きます。

たくさんエントリーして選考が進む一方で、いざ自分が就職する企業を決めようと思ったときに、意外とその会社について知らなかった、という学生も多い。早くから就活しても、どの企業にするか悩み続けていて、実は就活の終わりはそれほど早くなっていません。

西井:今までは自己分析と企業分析、そして実際に社員と会って雰囲気などを理解した上で、それら全てを総合して判断していたところ、判断軸の一つであるリアルの部分がすっぽりと抜けてしまっているので決めきれない。それが、内定者離脱にもつながっているのかもしれません。

「誰に」「何を」「なぜ」伝えたいのかを明確にすることが、企業と学生の距離を縮める

西井:コロナの影響で企業の採用活動に新たな課題が生まれていますが、そもそも採用活動の在り方も、見直していくべきタイミングなのではないかと考えています。そこでいま電通ワカモンが取り組んでいるのが、「採用クリエイティブ」の強化です。

クリエイティビティを発揮すべき領域の一つは、ご想像の通り、企業の採用サイトやパンフレット、会社説明会で使用するスライドのような、学生が実際に会社を知るために接するメディア全てです。「未来」「世界」「挑戦」「夢」「理想」などの凡庸な言葉が入ったメッセージとイメージ写真を使った採用サイトなどを制作するケースが少なくありません。どの企業も似たようなメッセージになりがちで、「自社ならではの」魅力を伝えきれていないものが多いと感じます。

マーケティングにおいては基礎的な部分ではありますが、採用の領域においても、企業が「誰に」「何を」「なぜ」伝えたいのかということが明確になっていないと、学生には何も伝わらないはずですよね。その部分を突き詰めて、その企業にしか言えないメッセージを開発した上で、それを企業としての意思として伝えるツールを創造する。それが、私たちが行っている「採用クリエイティブ」です。

南原:私たちも就活のサポートをする中で、「企業は学生のことをあまり知らないのでは?」と感じることがよくあります。例えば、大企業には毎年何千人というエントリーがあり、たくさんの学生と会ってはいるのですが、学生側は選考の場ではなかなか本音が言いづらい。企業側は、学生の生の声を聞く機会が意外と少ないんです。

でも、採用活動に課題を抱えているなら、学生が企業について実際はどう感じているのかをもっと積極的に探りにいかないといけない。毎年同じように説明会やインターンシップを開催しているだけでは、本質的には改善されないのではないかと思っています。

西井:そうですね。企業のマーケティング部門では当たり前に行われている3C分析が、採用では行われていないと感じます。自社が大事にしていること(Company)と、競合他社(Competitor)が学生にどんなアプローチをしているのか、自社が狙っているターゲット(Customer)はどんな学生で、どんな価値観を持っているのか、ということをしっかり把握することが必要です。

その3Cを見極めた上で、企業が伝えるべきメッセージを開発して、それをどうやって伝えていくのが効果的なのか継続して考えていくことが、今、企業側に求められているのではないでしょうか。

採用活動の中身が重視される時代。学生が本気で取り組みたくなるインターンシップを

南原:採用活動の在り方を変えるという意味では、学生とのコンタクトポイントにおいても、クリエイティビティをもっと発揮していく必要があると考えています。

西井:おっしゃる通り、会社説明会や面接が、学生と企業が初めて出会う場である必要はないですよね。企業と学生、社会と学生の出会い方はいろいろなバリエーションがあっていい。そのために、企業が学生とどうコンタクトをとっていくか、採用活動を俯瞰したリクルートジャーニーをつくり、それぞれのコンタクトポイントにあった、ウェブ・SNSでの発信、イベントなどを精査していかなければなりません。インターンシップ一つとっても、その在り方を見直す必要があると感じます。

南原:インターンシップも、5年ほど前までは学生にとって貴重な機会だったかもしれませんが、今は行くのが当たり前になっている風潮もあり、学生もそんなに熱意がないんですよね。周りのみんなが申し込んでいるから、自分も申し込んでみる。そして、受かったから取りあえず行ってみよう、という感じです。

西井:インターンシップと一口に言っても、長期・短期、1DAYのものもありますし、企業を知るきっかけとしてのもの、実際に職業体験ができるもの、選考の場となっているものなど、さまざまです。インターンシップで扱う課題もいろいろですが、架空の課題に対してアイデアを出して終わり、というケースも少なくありません。でもそれでは、学生にとっては、参加した手応えのようなものがあまり感じられません。

南原:でも、企業が自社のアセットをフルに活用して、本気で社会課題を解決するためのインターンシップなら、ただなんとなく参加するよりも、得られる情報が大きく違ってくると思います。社会や企業のことを深く知ることができて、社会課題に対しても本気で挑んでみようと思う。そして、企業との一体感や仲間意識も生まれ、働く人が遠い存在ではなくなるはずなんです。

西井:インターンシップという言葉だけで学生が参加したいと思う時代は終わり、これからは、中身がより重要視されるようになってきていますね。では、インターンシップにどのようなクリエイティブやソリューションが必要なのか。その一例として、次回は、電通ワカモンとエンカレッジが共同で開発・実施した「47 INTERNSHIP」を紹介します。