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電通×クリエイティブ×テクノロジー。dentsu prototyping hubの挑戦!No.1

僕たちが電通で「クリエイティブ×テクノロジー」を広める理由

2021/07/30

電通の若い“デジタルクリエーティブ人材”たちは今、何を考えているのか。そしてこれから先の未来、電通クリエイティブはどうなっていくのか。

本連載では、“デジタルクリエーティブ人材”たちによる「dentsu prototyping hub」の試みを紹介することで、電通クリエイティブの未来を浮き彫りにしていきます。

2020年、コロナ禍の中で、電通グループのクリエイターを対象にしたオンラインワークショップ「TouchDesigner School」全8回が開催されました。

TouchDesigner School
電通グループ企業の社員ら100人以上が受講した「TouchDesigner School」。テクノロジー領域のスキルを獲得することへの彼らの興味や意欲は、主催者の想定を上回るものだった。

TouchDesignerとは、コードを書けない人でも視覚化されたオブジェクトを組み合わせることでプログラミングができる「ビジュアルプログラミング言語」。

TouchDesignerの日本における第一人者で、クリエイティブディレクター/メディアアーティストとしても活動する川村健一(電通デジタル)を講師に招いたこのワークショップは、電通クリエイターがテクノロジー領域のスキルを学ぶことで、アウトプットの幅を拡張することを目的としたものです。

超テクノ法要
川村の代表作の一つ、ニコニコネット超会議などで大きな話題になった「超テクノ法要」。本物の僧たちが電子音楽に合わせて般若心経を唱え、それに合わせてリアルタイムで映像を生成する。この制御にTouchDesignerを利用している。

100人を超える電通グループ社員が受講し、ほとんどの受講者が「満足した」「今後も継続して学びたい」と回答するなど、大きな反響がありました。

このワークショップを企画したのは、電通の“デジタルクリエーティブ人材”(※)1期生である斧涼之介、藤大夢、そして講師を担当した川村の3人。斧と藤は企画発足当時、まだようやく入社2年目に差し掛かっていた若手人材です。

彼らはTouchDesignerだけでなく、継続的にさまざまなツールを用いた「クリエイティブ×テクノロジー」のワークショップを行うことを計画し、その取り組みを「dentsu prototypinbg hub」と名付けました。

今回は、dentsu prototyping hubの発起人であるカスタマーエクスペリエンス・クリエーティブ・センターの斧が、この試みにかけた思いを語ります。

※デジタルクリエーティブ人材=2019年度新卒採用から新設された電通の新たな採用枠。広告という枠組みにとらわれることなく、テクノロジーとアイデアを掛け合わせて人々の心を動かし、行動の変化をつくり出す人材。

 



体験可能なプロトタイプ。電通初のデジタルクリエーティブ採用人材が抱いた課題意識

初めまして、カスタマーエクスペリエンス・クリエーティブ・センターの斧です。

2019年、電通初の「デジタルクリエーティブ採用」で入社した僕は、トレーナーや先輩の下で勉強をしていく中で、

テクノロジーを活用した企画は、
内容が面白くても実現にまで至りづらい

ということに気が付きました。いったい、なぜでしょうか?

例えばテレビCMなら絵コンテやビデオコンテがあります。グラフィックデザインならカンプを作ることができます。そうした具体的なアウトプットを見せることができるからこそ、チームメンバーやクライアントと企画の完成イメージを共有し、より良い方向にブラッシュアップしていくことができます。

しかし、僕らが期待されている企画は少し事情が異なります。インタラクティブコンテンツやデータビジュアライゼーション、XR領域やスマートフォンアプリを使った体験など、テクノロジー系の企画は、チームメンバーやクライアントに「完成形」をイメージさせることが難しいのです。

クライアントからすれば、アウトプットがよく分からないものにお金を出すわけにいかないのは、よく理解できます。企画書を見せただけでは「どのようなビジュアル・体験になるのか」のイメージをつかんでもらえません。

「このままだと、世の中に提供できたはずの面白い体験が、日本からどんどんなくなってしまうかも」

長い時間をかけて作り上げた企画が白紙に戻ってしまう経験を何度か繰り返すうちに、こんな危機感を抱くようになりました。

その突破口として頭に浮かんだのが、「体験型プロトタイピング」です。

従来の広告クリエイティブの世界で、CMプランナーやアートディレクターがコンテやカンプといったプロトタイプを作ってきたのと同じように、テクノロジー系の企画でも体験可能なプロトタイプを提案できれば、企画書では伝えきれない面白さが伝わり、素晴らしいクリエイティブがもっと世の中に増えるはず。

そのためにも、最小限の体験可能なプロトタイプをつくるためのデジタルツールを、企画者自身が使えるようになってほしい。これが、電通グループのクリエイターに、デジタルツールでのプロトタイピングをシェアするワークショップ、dentsu prototyping hubを立ち上げた理由です。

もちろん、すべてのクリエイターがテクノロジーの専門家になる必要はありません。しかし、クライアントへの企画提案時や制作パートナーにイメージを伝える際に、「こんな感じです」とプロトタイプを共有できるレベルのテクノロジーの習得は、これからは不可欠になると考えています。

そしてこのdentsu prototyping hubの第1弾が、今回お話しする2020年の「TouchDesigner School」でした。

3人を結びつけた、アイデアを具体化するツール「TouchDesigner」

ここで少し僕自身のことを話します。

大学・大学院では機械工学を専門領域として、人と人とのコミュニケーションを生み出すデバイスをたくさん作ってきました。

そんな僕の大きな転機となったのが、電通デジタル所属のメディアアーティスト、川村さんとの出会いです。

学生だった僕は、川村さんの作品を通じてTouchDesignerの存在を知り、川村さんが主宰する勉強会に参加するようになりました。この勉強会には、のちにdentsu prototyping hubを一緒に立ち上げることになる藤も参加していました。

TouchDesignerの素晴らしさについては次回、川村さんに詳しく書いていただきますが、

  • 「コードを書かず、直感的に扱えるビジュアルプログラミング言語」
  • 「さまざまなデバイスを連動させて制御することが得意」
  • 「プロトタイプができあがるのが、とにかく早い」

といった特徴を持っています。例えばプロジェクションマッピングなど、映像と音楽を連動させた表現などに向いているツールです。

斧が電通入社以前に参加した若手クリエーターの共創プログラム「nihonbashiβ」にて、エンジニアとして携わったインスタレーション「マンダリン オリエンタル 東京の風」。「森と水」をデザインテーマにするマンダリン オリエンタル 東京の空間にゲストを誘う未来ののれん。センサーによって人間を感知し、ファンがのれんをなびかせる。この仕組みの制御にTouchDesignerを使用した。 

 

TOUCH DESIGNERバイブル
川村がメインオーサーを務めた書籍「ビジュアルクリエイターのためのTOUCHDESIGNERバイブル」(誠文堂新光社、著者: 川村健一/松岡湧紀/森岡東洋志)


その後、2019年4月、藤と僕は、電通が初めて募集を開始したデジタルクリエーティブ人材として入社することになります。

そんな新人の僕らが、電通グループの方々に「デジタルツールのワークショップ」を提案することについては、葛藤もありました。が、それでも「やってみよう」という気持ちが上回りました。

「デジタルクリエーティブ人材」という括りの中にいる僕らだけでなく、電通グループの誰もがテクノロジーを標準実装し、テクノロジーを用いたプロトタイピングで企画提案できるようになる。

それが実現すれば、世の中がもっと面白い体験であふれるのではないか、という思いがあったからです。

そんな未来を思い描きつつ、僕は、藤と川村さんと相談し、「川村さんを講師に、TouchDesignerの勉強会を実施したい」と、デジタル・クリエーティブ・センター長の佐々木康晴役員に直訴しました。

佐々木役員から「実施しましょう」と返事を頂いたときは、「思いが通じた!」と本当にうれしくなりました。

しかし、折あしく、新型コロナウイルスが蔓延。僕らは入社2年目を目前に完全リモートワークになってしまい、せっかく企画したTouchDesignerの勉強会も棚上げとなってしまいました。

その後もリモートワークは続き、「これからどうなってしまうのだろう」と不安な日々を過ごしていましたが、2020年の8月ごろに佐々木役員から「あの勉強会だけど、リモートでやりませんか?」という連絡を頂き、2020年10月から全8回、TouchDesigner Schoolを実施することになりました。

電通の良さである「ちょっと、やってみました」がテクノロジーで拡張する

もともとリアルでの開催が前提で、当初は「20人ぐらい参加してもらえたら」と思っていたのですが、リモート開催になったことがむしろ功を奏したのか、電通グループから102人もの方々に参加していただきました。

ワークショップの詳細は次回の川村さんに譲りますが、特別なツールを使わず、ノートPC付属のウェブカメラやスマートフォンのセンサーを用いて、TouchDesignerによるさまざまなインタラクティブ表現を実際に制作していきました。

電通グループ横断のワークショップができたことだけでも達成感がありましたが、さらに実施後のアンケートでの「参加してとてもよかった」92%、「継続して参加したい」96.2%という数字には驚かされました。

また、「インタラクティブな体験やデジタル表現の裏側を知ることで、アイデアや表現の可能性が広がるのを実感できた」というコメントも頂きました。

勉強会の実施を直訴してよかったという安堵感とともに、これらの反響は今後の企画を考える上でも大きな励みになっています。

実際にデジタルツールを経験すると、「何が実現できるのか」「どこが難しいのか」という“肌感覚”がつかめるようになります。これはテクノロジーを使った企画のスコープをつくるうえで、とても大事なポイントと考えています。

このプロジェクトの当初の目的は名前の通り「テクノロジーを使って企画のプロトタイピングができるようになる」でしたが、それ以上の体験になったとしたら、とてもうれしく思います。

実は僕自身が気づいたのは、このプロトタイピングこそ、電通に脈々と伝わる良い意味での「ちょっと、やってみました」というセンスをさらに拡張させるのではないか、ということです。

プレゼンでは「ちょっと、やってみました」と前置きして、オリエンを超えるプラスアルファの提案をすることがあります。テクノロジーを学び、例えばデータビジュアライゼーションや体験型プロトタイピングなどクライアントの想像を超える提案が増えていくことは、新しい電通の強みになっていくのではないでしょうか。

まさにdentsu prototyping hubは、クリエイティブ×テクノロジーにおける「ちょっと、やってみました」を生みだす場になるのではないか、と思い直しています。

僕たちが立ち上げたdentsu prototyping hubは、小さな一歩にすぎません。しかし、この小さな一歩はきっと、これから世の中にあふれる「面白いクリエイティブ」「面白い体験」につながっていく、そう信じています。

次回は、TouchDesigner Schoolの講師の川村さんに、講義の具体的な内容と、TouchDesignerの魅力を語ってもらいます。お楽しみに!

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