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お久しぶりです!CRAFTPRNo.3

5年ぶりの電通報登場!1万字インタビュー
「風とロック」 箭内道彦は、コロナ禍のいま、何を考えているのか聞いてみた。

2021/11/15

井口:どうもー、井口です。CRAFTPR Laboratoryです!ということでね、ちょっと連載サボってしまっていて……。各方面から「おいおい、これって連載詐欺じゃね?」なんて言われちゃったもんだから……。

橋本:別にサボってたわけではないんですが、、、お叱りも期待感のある証拠ということで、すべてを前向きに受け止めつつ。まあ、でもラボの管轄をしている、うちの局長、マイクロマネジメントとご自分では言いますけど、お尻のたたき方、うまかったですね(笑)。言われてすぐに、箭内さんに連絡したもんね。

井口:そうだね(笑)。ちなみに言い訳するとですね、前回ご紹介していたわれわれの戦略思考のデータベース的アーカイブでもある「LIONS GOOD NEWS  2020」サイトが、FWA、awwwards.、CSS Design Awardsを受賞した他、結構な評価をいただきまして。分かりやすいところだと国内のグッドデザイン賞 、海外では、世界3大デザイン賞の一つともいわれる「Red Dot Award」の、2万件近くあるエントリーの上位1%未満しか受賞できないといわれる「Best of the Best」もいただくなど、ちょいちょいそちらの対応でバタバタしておりました。

そうそう、コロナ禍で動ける人も少なくて、パネル展示なんかも、わざわざ井口が名古屋の現地まで行ってやってましたからね、もう自給自足っていうか。ちょっと違うけど。でも、最後まで責任を持ってやるっていうのがやはり一番大事ですね。そこに結果もついてくる。

橋本:まあ、ものは言いようですけどね。

井口:そんな言い訳を用意して、「LIONS GOOD NEWS」のロジックをベースにしながら、いろいろお手伝いさせていただいた東京藝大のお仕事「東京藝大アートフェス2021」も無事終了したんで、そのつながりで、このプロジェクトの総合プロデューサーでもある、東京藝術大学教授で、みなさまもおなじみ「風とロック」箭内道彦さんに今回はお話を聞いちゃいます。

箭内さんがこのコロナ禍で考えていること、最近手がけた仕事や仕事に対しての視点などなど、内容盛りだくさんです。

橋本:僕のドリル、電通での先輩で、この場にも同席いただいた、東京藝大講師でもある浜島デザイン・浜島達也さんも、ありがとうございました!箭内さんの話の中には、業務に生かせそうなヒントが詰まってます。だいぶボリュームあるんですけど、2~3日に分けて読むなどして、ぜひお楽しみください。ま、でも昨今一番思ったのは、もっとコンスタントに原稿は入れていけよ、という反省なんですけどね。


■About 箭内道彦

箭内道彦氏
博報堂を経て2003年に独立、自身の事務所「風とロック」を設立。広告領域にとどまらず、自らが所属するロックバンド「猪苗代湖ズ」のNHK紅白歌合戦への出場、また、映画監督への挑戦やコミュニティFM「渋谷のラジオ」設立など、多岐にわたる活躍を続ける箭内道彦氏。
 
2015年には出身地である福島県のクリエイティブディレクターに着任し、その地域活性化を主導。2009年より毎年現地で開催してきた「風とロック芋煮会」は2021年12年目を迎え、コロナ禍での開催という制約を受けながらも、YouTubeなどのオンラインメディアを駆使した72時間ストリーミング放送なども実施し、国内各地からの参加を促した。
 
また、2016年より美術学部デザイン科教授を務める東京藝術大学では本年、学長特命によりオンライン上でのアートフェス「東京藝大アートフェス 2021」を立ち上げ、コロナ禍で活躍の場を著しく狭められてしまった若手アーティストの発信の場を創出し、支援をした。わが道を行く存在に見える箭内氏だが、そのコミュニケーションの根底には、個々の相手をしっかりと見据えた上でその反応を想像しアジャストしていく丁寧な姿勢や信条があるという。
https://michihikoyanai.com/

「オンラインだからこそできること」をみんなようやく見つけ出した

──まず、コロナ禍で箭内さんご自身が感じた一番大きな変化はなんでしたか?

個人的なことじゃなく、世の中を見渡すと、目にしたり耳にしたワードは「分断」という言葉ですかね。ソーシャルディスタンスといった言葉もありますけど、そういう物理的なものだけでなく、世の中に無数の線が引かれてしまったという印象があります。それは思想であったり格差であったり……。こんな硬い話から入ってしまったことをすでに後悔しているんですけど(笑)。ここまで人と人の関係が分断されるとは思わなかったですね。

あとはやっぱり、オンライン。いまだにオンラインでの生活が中心で、「会うことの代用品」としてオンラインが緊急措置的に僕らの生活や仕事に入ってきましたけど、これだけ長く続くと、だいぶオンラインの疲れもある半面、オンラインでのコミュニケーションが意外とみんなうまくなってきたな、と感じることもあって。

第1希望が対面、第2希望がオンラインのようなことではなくて、「オンラインだからこそできること」をみんな、それぞれようやく見つけ出したな、と。それは結果オーライというところもありますけど。今日これから話す事例「藝大アートフェス2021」や「風とロック芋煮会」みたいなイベントもそうですけど、去年だったらこうはできていなかったなということがちょっとずつやれるようになってきていて。それは「新しいことをやってやるぞ!」という気概ではなくて、むしろ「やむを得ず、そこに追い詰められた」環境下で、自然に人間の生命力によって、新しいコミュニケーションが生まれてきた、というのを感じてはいます。だから、緊急事態宣言が解除されて良かったと思うのが大部分ですが、「うわー、これリアルにいろいろ出席しなきゃな~、往復の時間が……」と思う自分がいるのを不思議に感じていたりします(笑)。

──そういった物理的な距離なども含めて、箭内さんが感じるオンラインの楽しさとは?

僕は東京コピーライターズクラブの副会長を、なぜかやらせていただいていて、毎年新たに受賞した新人たちが入ってくるんですけど、その歓迎会をオンラインでやっていて感じたことは、これだけ人と人が顔を向き合う、見つめ合って一人一人と話すというのは、まずないですよね。みんなの顔が一斉に見える、発言者は瞬時にしてその場の主役になっていく、これはすごいと思いました。

一方で、オンラインの会議は1時間やるとぐったりだと、あるカメラマンの方とは話していました。相手の表情からさまざまなことを読み取るので、処理しなきゃいけない情報が表情の中にたくさんあって。それが1人ではなくて、今も4人の方と同時に向き合っていて。

カメラマンの方はぐったりだと言ってましたが、オンラインでは接する情報量が格段に多いので、僕は逆に、そこが面白いと思っています。例えばお手伝いいただいた、東京藝大アートフェスは、美術と音楽が共存する展覧会なんですけど、こういう新しい体験、見え方は、リアルでは絶対実現できないことでした。これがどういう進化をしていくかは予想がつかないんですけど、今までなかったものが生まれたり、新しい出会いが化学反応として起こると思います。ある審査員の方が、非常に藝大アートフェスを評価してくれてまして。お忙しい方だから少しずつ日を分けて自分のペースで見ることができた、と。それはオンラインがなかったらできなかったな、と勝手に想像しています。

──確かにオンラインって、会議でも、仕事でも、きちんとやるとホント疲れますよね。井口は、PCの画面が悪いからだと思ってました(笑)。読み取る情報量が多くて脳が疲れるんですね。

そんな気がしますよ。今も「橋本くん、ペットボトルで水飲んでるな」「銘柄なにかな?」と同時に、「浜島先生は穏やかに見てくれてるな」と、たくさんの処理をするわけです。やはりみんなだいぶ慣れてきて、始まる前にようやく雑談ができるようになりましたね。必要なことしかしゃべらない1時間だから、それはそれで濃密なんですけど。雑談からしか生まれないものを、この1年間たくさんみんな逃してきたので、それができるようになってきたのは良かったですね。

浜島先生とも一緒に藝大の授業をやっているんですけど、そこでも、学生全員バーッと顔が並んで一人一人名前を呼んで出欠をとったり、背景の画像に突っ込みを入れたりなど、いままでの対面ではなかったコミュニケーションの距離感も新鮮に感じますね。またこういう状況ならではの、システムをうまく利用している作品が生まれているのも面白いなとは思いつつ、リアルな場所での設置の力が伸びてないというのは少し気になっています。

ただ、最近は、ハイブリッドつまりオンラインとリアルの両方で、という概念が入ってきてるので、これは倍疲れますけど(笑)、これでうまくできれば面白いことになっていくと思います。リアルにいく人、いかない人で溝をつくっていかないようにしないといけないですね。お互いの選択を尊重する、ということですね。

事例紹介①:東京藝大アートフェス2021
事例紹介①:東京藝大アートフェス2021 
コロナ禍で発表の機会などが失われ困窮する若手芸術家たちのために、SNSを駆使したデジタル上の展示会を開催。この展示会をきっかけにギャラリーと専属契約し個展が開けたなど、箭内さんがいうような新しい出会いも生まれている。より詳しい解説は、カンヌ公式サイトコラム「LIONS GOOD NEWS 2021」にて。

オンラインはオフラインの代用品ではない

──ハイブリッドという言葉が出ましたが、「風とロック芋煮会」に関しても少し聞かせてください。

「風とロック芋煮会」を電通のみなさんに取材してもらえるのは、これが最初で最後でしょうから、とても光栄ですし(笑)、うれしいです。風とロック芋煮会は、世界で一番、観客と出演者の距離が近いというのが大きな特徴なので、そういう意味では、物理的に距離を取らないといけないコロナには、最も弱いイベントなんです。

距離を空けたままで開催するのは不可能だろうと思って、3カ月前には中止を決定していました。もう一つの理由は、福島と全国の方々の触れ合いの場でもあるので、全国からウイルスを運んでいくのは誰も望んでいない、少しでも不安があるならできないだろうな、と。とはいえ、お客さんはフェスが終わると「芋ロス」になるといわれているんですね。1年に1回、何もないのは耐えきれないという声をたくさんいただき、2020年は福島中央テレビさんにイベントをやらない代わりに6時間何かやらせてほしいとお願いして、LINE LIVE-VIEWINGと福島中央テレビの生放送の特番で配信しました。

そもそもこのフェスティバルは、福島民報という新聞社とやっているんですが、福島民報の系列は福島テレビなんですよね。なのに、ライバルのテレビ局である福島中央テレビが12年前から、志に賛同してくれて系列の壁を越えて特番を作ってくれているんですよね。そんな中で、今年は去年よりすごいことをしないと気がすまない、というのを僕自身思っていて。地元のテレビだけではなく、ラジオ、新聞、YouTube Live、LINE LIVE-VIEWING、Rakuten TVを横断して、もともとのスケジュールの4日間分、72時間やってみました。

年齢的にもみんなかなりダメージあったんですけど……メディアの人たちがすごくキラキラしていたんですよね。いつもと違うことをいつもと違う仲間とやってるんだ、と。メディアってインターネットに押されたり、批判の的になったりしているんですけど、ホントに生き生きとやってくれて。

オンラインがオフラインの代用品ではなくて。僕も最初は代用品だと思ってたんですけど、参加してくれた人が福島に足を運んでないのに「芋ロス」になりましたと教えてくれたり。オンラインでも人と人の温かさやつながりをつくることができるんだ、と初めて感じた体験でした。

ただ、これは全部インターネットで、ということではなくて、新聞、テレビ、ラジオという生まれてからずっとなじみのあるメディアと組み合わせることで、みんなが体に入れやすかったのではないかな、と思います。例えばYouTubeで流す映像も、見慣れたテレビ番組の立て付け、テロップの入れ方、カメラワークやライティングなどが取り入れられていると、それらのメディアに慣れ親しんだ人が、その世界にとても入りやすくなるわけです。

あとは、今回の72時間、出演者の方も含めてみんなちょっといい人になってましたね。メディアって喜怒哀楽、怒りも含めて、いろいろ受け止める場所ではあるけど、テレビを見て、ラジオを聴いて、みんな優しくなるんだな、と。そして、これがメディアの役割なんだと思いましたね。

事例紹介②:風とロック芋煮会
事例紹介②:風とロック芋煮会 
箭内さんがもう10年以上続けているロックフェスティバル。コロナ禍を機に、アップデートされた村祭り。デジタルを駆使しているが、デジデジ、していない。実に箭内さんらしいイベントです。こちらもより詳しい解説は、カンヌ公式サイトコラム「LIONS GOOD NEWS 2021」にて。

箭内流のコミュニティビルディング

──最近、「地方への移住者、3世代たってもまだよそ者扱い」というような、ニュース記事を見まして。芋煮会が福島というコミュニティでうまくいっているのは、地元メディアとのリレーション、そこからのお墨付き・継続性といったところが大きい気がします。

そうですね。例えば、最近増えてきた地方の芸術祭を例にとると、髪の毛がながーいお兄さんが海岸でずっとオブジェ作っていたり、汚いツナギを着た金髪のお姉さんが古い一軒家を真っ赤に塗りつぶしていたり。地元の人たちのストレンジャーに対するアレルギーではないんですけど、良くも悪くも驚きがあって。地方の人たちはなかなか異質なものを受け入れる免疫がないので、よそでどれだけ成功事例があってもなかなか入っていきにくいコミュニティはたくさんあります。時間をかけて、地元の人たちと新たにそこで何かをしようとする人の共創、そこでできたものを第三者が楽しみにやってくる、という構図をつくらないといけないと思います。

その過程でボタンの掛け違いや誤解なども生まれるでしょうけど、地元の人もそれを乗り越えていく、体験して面白さを知っていく、というのがコミュニティで何かやる意義だと思います。そんな時にオンラインが入り口になっていると、刺激も適度に緩和される気もしますね。

風とロック芋煮会も震災を経て、少しずつ少しずつ、信頼されていったというのはありますね。継続していく中で。いいことあったよね!というのが何年か続いてから、面白くなりました。あとは、東京のものを持っていくのではなく、地元の人と一緒に創るという視点。そのうち地元の人が創ってくれて、僕がお客さんとして行くのが理想ですね。

人間、与えられることの苦しさ、居心地の悪さってあると思うんですね。田舎にいくと、めちゃくちゃお土産もらって帰ってくることってあるじゃないですか。人にあげることで自分が満たされていくというのは、とても大事なことだろうなと思います。地方の人も深い関係になるとめちゃくちゃ深いんですけどね、その関係になるまでの一線をどうやって越えていくか、という。僕が心がけていることは、なるべくお客さんの顔と名前を覚えようとしているんですよ。もう何百人は覚えています。具体的な顔が浮かぶ人が、どうしたら喜んでくれるだろう、何をしたら悲しんでしまうだろう。想像しながらいろんな企画を選んだり、捨てたり、思いついたりできるというのはすごくありますね。この創り方が自分の東京の仕事にフィードバックされてる気がしますね。

──こういう、周りの人のことを考える優しいところなんですね、箭内さんも浜島さんも、一緒にやっていていいところは。

僕、実家が菓子店なんですよ。対面接客業の息子なんですよ。広告業界の人にもいろいろいるじゃないですか。先生の子供とか建築家の子供とか装丁家の子供とか。装丁は多田琢さんで、建築は佐藤可士和さんを想像したんですけど。その親の職業っぽい広告作るんですよ、みんな。これは僕の持論なんですけど。だから1対1の対面は大事にしているとも言えるけど、そこが抜けないので……突破力がないんですよね(笑)。

──確かに顔が見えるリアリティは大事ですよね。ペルソナと言われても、おいおいってのも多いですからね。

浜島先生もおっしゃっていますが、どれだけ商品のことを考え尽くしても、グループインタビューなどで実際のユーザーに会うと、想像と違った、裏切られたということも多いので、生身であることの大切さを常に矯正していかないと、ちょっとした言葉のさじ加減みたなところまで調整していくときに困っちゃうというのも、もちろんです。

ただ、グループインタビューなどはバイアスがかかっていることもあるので。僕が一時期やってたのは、5~6人のサンプルのTwitterをフォローせずに観察し続けるんですよ。その人が世の中をどう見てるか。たまに自分が作ったものに面白いとかつまんないとか言ってたりとか。その5~6人を満足させるものをどうやったら作れるか、ということをやってましたね。
顔も知らないんだけど、この人がいいって言ったら300人くらいはいいっていってくれるんですよ。

データとの付き合い方、チームの在り方

──作り方で言うと、最近の広告はデータ含めて科学的になってきてますからね。箭内さんは、データや科学と友達になっています?それとも距離を置いています?

博報堂にまだいたときに、マーケティングの新人の前で話をしなきゃいけなくて、そこで最初に質問してきた新人が「箭内さんの中にはマーケティングがありませんよね」という非常に失礼なことを言ってきまして(笑)、「うるさい」と言いながらちょっとうれしかったんですけどね。科学を否定していた時代もあるんですよ。データに振り回されたり、言い訳にしてるだけじゃないのかと散々思って、そこに目をつむっていた時もありましたよ。

今は、科学の奥に何があるのかを何とか見極めたいと思いながら、数字の裏にある真実を見つけたいな、と。なるべく無視はしないようにはしていますね。だから、クリエイティブディレクター的な神通力でやっているわけでもないんです。

──クリエイティブディレクター的な神通力というと?

だいたい1時間じゃないですか、会議って。僕、ときどきテレビとか出ますけど、クリエイティブディレクターは僕の中ではそういう仕事でもあるんですが。この1時間の中で見せ場がちゃんとつくれたかどうか、神通力を感じてもらえるような。クライアントと打ち合わせしてたり、プレゼンをしてたり、スタッフと話しているときに「うわ、すごいこと言ったな」という場面を1回はつくらないと、その1時間は何だったのかと。そういう感覚ですね。だからオンライン会議が増えて、この1時間番組の中で自分は何ができたんだろう、と。だから、すごく苦しいですね、今。目の前の人たちが視聴者だと思って、打ち合わせはやってますね。

──チームでやる時に何か意識していることはありますか?

チームもどんどん若い人間になっていって、会話の流れをずっと聞いていると、どんどん科学的な正解にいきたがるんですよね。科学的な正解って少し麻薬チックなところがあって、ロジカルで、企画書も理路整然としてすごくキレイで。これはこれでいい話なんですけど。でもずっと見ていると、大事なところに空欄が大きく広がってどんどん話が進んでるぞ、と。その空欄を埋めるのはエージェンシー、電通の役割である、という浜島先生の話はすごく分かります。パズルを解いていくゲームみたいになると、人間じゃなくてもできますから。それこそAIとか。その階段を素直に上ってしまうと、例えばアレもコレも15秒にうまく入れることできますよ、オレ。腕があるから、ってなっちゃうんですよ。

ある人が、最近の広告を作ってる人は売り込みがどんどんうまくなっていて果てしないねー、と言っていて。やはり、売り込みじゃない部分の文化であったり、思いであったりというのは科学で数値化されないので、空欄という話もそうなんですけど、心や血の通ったものにしていくには、そうじゃない方向にいっているなら、誰かがそこを止めなきゃいけないな、といつも思います。

風とロック芋煮会や藝大の若い学生と接するのもそうなんですけど、自分が浄化されて、このドロドロしている世界に帰ってきて、ギャップを目の当たりにしながらも、切り離さずに開通させていくのが自分の使命だと思っています。僕らがやらなきゃいけないことって絶対あると思うんですよね、広告を作る者の矜持(きょうじ)というか。

広告の世界にいる人たちへ

──最後に、エージェンシーの役割という話も出たので、広告の世界にいる人にひとことお願いします。

これまでずっといろんなタイミングで「今が過渡期だ」「時代は変わるよ」と散々言われてきたけど、本当に変わる時がそろそろやってきてるなと思います。このあと、世の中が、自分がどうなっていくんだろう、古いとか新しいとか、どう向き合っていくのかが非常に重要なタイミングなのではないかと感じますね。

今までにないくらい、壊れなかったものが壊れて、新しいという言葉を使うのも陳腐なくらい想像できないようなことが起きて。その時に人が冷静でいたり、優しかったりするために何ができるのか、みんな、そこと今向き合ってる最中だと思います。電通さんも含めて。新しいメディアが生まれた、新しいクリエイションがトレンドだとか、そういうことでは全然なくて。これからどうしようか、というところにいるんだなと思います。

──まさに、変化が大きいというのは恐怖ですものね。そこでパニックになって変なことをするのではなく、いかに冷静でいられるか、優しくできるかというのは非常に大事ですね。

広告の世界の人って、みんなポリシーないねってよく言われるんですけど(笑)、自分の主義・主張ではなくて、与えられた仕事でどう成果を出すかに長けた人たちなんです。それゆえに、いろんなことを言われたり、広告の世界は声をあげないと散々言われてきたけど、逆に言うと、広告の世界の人が持っているバランス感覚や人のことをおもんぱかる技術と努力は途轍(とてつ)もないものがあると思うんですよ。

広告業界の人は、ある種の絶滅危惧種ではないですけど、この不思議なバランス感覚を恥じずにやっていったらいいんじゃないか、と思いますね。何にも言わないもんね、広告業界の人。内閣退陣、原発反対と言ってる人をみたことないですからね。それは考えがないんじゃなくて、賛成と反対の両者をどういうふうに結び付けて前に進めていこう、ということをじっと観察しながらコミュニケーションの役立て方、自分のスキルの役立て方を切磋琢磨している人たちだから。だからこそ、すごく良い中立にもなれるし、ケンカの仲裁もできるんです。自分たちにしかできないことに誇りをもっていてほしいな、と思います。

「風とロック芋煮会」に参加してくれた徳島出身のバンドがいまして。わざわざ徳島からね、福島まで来て参加してくれたんです。彼らが歌う前に、今回のイベントを「コロナ禍でのイベント中止の代わりではなくて、来年の開催のための前夜祭なんです!」と言ってくれて。これは、広告の人間が得意な価値の変換というか、新たな意味づけをしてくれたんです。これを聞いて、みんなうれしくなったんですね。同じことをやっていてもそれは何なのか、意味をのせて人の気持ちを変えていくということもできます。藝大アートフェス2021も浜島先生はじめ、みなさん、広告の専門家の方々にお願いしたので、あのベストなものにすることができたと思います。

──お褒めいただきありがとうございます!

ホントに良くやっていただいたので、、、僕が電通の宣伝したいくらい(笑)。


橋本:いやー、盛り上がりましたねー。箭内さん、絶好調でしたね。ありがとうございます。また、われわれ広告人に対してもとても励みになる言葉を最後にいただき、感謝感謝でございます。ちなみに僕は3回、おっ、となりました、視座が高いな、と。さすが箭内先生です。

井口:お手伝いした東京藝大アートフェス2021は、プロジェクトとしての成功だけでなく、対外的な評価も良いのはうれしい限りですね。箭内さん、浜島さん、ありがとうございました。引き続きよろしくお願いします。というわけで、われわれにご相談いただければ、もろもろの学びをお仕事・雑談の中でご紹介していく所存です。特に雑談に長けているわれわれですが、お仕事もいただけますと、やる気倍増。雑談もさらに倍、ということで。ここで紹介させていただいた東京藝大アートフェス2021のような、最先端の戦略・戦術をご提供しますので、ぜひ!お気軽にお声がけくださいませー。

次回更新は、いま一緒にやっている案件の進捗状況からいって12月、1月くらいですね。またお会いしましょー!でもここまでの高いレベルの話になるかなー(汗)。あっ、あと最後に!ここでいただいた箭内さんのお言葉をベースに事例をさらに深掘りしているコンテンツも、カンヌのコラムで展開中です。ぜひ、あわせてご覧ください!もう少し実務ベースですけど。
問い合わせ先:offer@craftprlaboratory.com

Special thanks:平岡真吾(電通)、細田知美(電通PRコンサルティング)、蔵谷玲奈(風とロック)
 
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