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話そうよ、ジェンダーのことNo.3

ジェンダーと恋愛。桃山商事 清田隆之さんに相談してみた。

2022/01/19

ジェンダークリエイティブ03_01

電通クリエイターがジェンダーと向き合い、さまざまな分野の方との対話を通じて、ジェンダーとクリエイティブの新しい関係を模索する本連載。

第3回目は、恋バナ収集ユニット「桃山商事」で活動する清田隆之さんにお話を伺います。ユニットで活動を続けるかたわら、個人としても『よかれと思ってやったのに──男たちの「失敗学」入門』(晶文社)『さよなら、俺たち』(スタンド・ブックス)など、「恋愛とジェンダー」をテーマにコラムやラジオなどで発信している清田さん。電通のコミュニケーションプランナー・権すよん(以下:スー)とコピーライター・岩田泰河(以下:岩田)が、ざっくばらんにお話を伺いました。

「女性におごりたい男性」ってダメですか?

岩田:今日は桃山商事の清田さんにお話を聞きます。『よかれと思ってやったのに』『さよなら、俺たち』など清田さんの本に出会った時、「恋愛」という身近な話を交えながら、個人レベルでジェンダーに向き合っていらっしゃる様子に、とても共感したんです。

スー:『よかれと思ってやったのに』は「分かる分かる!こういう人いる!」だらけでした。

清田:ありがとうございます。こうしてジェンダーをテーマにした本を書いていますが、専門的に学んだ経験はなく、いつも悩みながら書いているので共感してもらえてうれしいです。

岩田:ジェンダーを社会のレベルで考えて「こうすべきだよね」という方向を示すのは比較的容易です。でも、一人一人のレベルでジェンダーを考えようとすると、「好き/嫌い」という感情が出てくるし、だからこそ、難しくなる。その点で、「恋愛」を切り口にされているのが面白いと思ったんです。

スー:なので、今日は、恋バナから始まるジェンダーのお話ができればと思います。

清田:よろしくお願いします。

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岩田:いきなりですが、清田さんに恋のお悩み相談が来ているようです。

僕は、女性とごはんを食べると、無理してでもおごりたくなってしまいます。僕は、無意識に異性を経済的に支配しようとしているんでしょうか……そんなつもりではないのですが、自分が怖くなります。
Iさん(30代男性)

私は男性とデートする時ついつい「さしすせそ※」してしまいます。普段はジェンダー問題に興味もありますし勉強もしています。ただ自分の恋愛になると『こういう女性がモテるだろう』というものを演じてしまうのです...…。
Sさん(30代女性)

※「さしすせそ」とは:「さすが!知らなかった!すごい!センスいい!そうなんだ!」の略。モテる合コンテクニックとしてネットで話題になる。
 

岩田:たいていの人は、「「男らしさ」「女らしさ」から解放されて、平等になった方がいい」と理解しているはずなんです。でも、恋愛する時になると、急に社会的な「男らしさ」「女らしさ」に縛られてしまったりする。

清田:桃山商事としての著書『どうして男は恋人より男友達を優先しがちなのか』(イースト・プレス)にも、思想的にはリベラルでフェミニストなのに、フェミニンでコンサバティブなファッションを好む自分に矛盾を感じている女性のエピソードが出てきます。たしかに、自己矛盾が悩みの種になっている相談も少なくありません。

スー:この矛盾は仕方がないのですかね……とてもモヤモヤします。

清田:うーん、どうなんですかね。例えば「女性らしい」ものを好む自分がいたとしても、その価値観を人に押し付けなければ特に問題ないような気もしますが……。

スー:押し付けるのはよくないですよね。でも、例えば、私が「さしすせそ」することで、男性は「女性に褒めてもらうのは当たり前だ」という思い込みを強めていたかもしれない。それは、結果的に「男らしさ」「女らしさ」の固定概念を再生産してしまっていたのかもしれないなと反省しちゃうんです……。

清田:あー、なるほど。自分としては良くても、社会的な影響を考えるとどうなんだろうって話ですよね。仮に「女性に褒めてもらうのは当たり前だ」と思い込んでしまう部分が男性にあったとして、本来ならそのことは男性自身が相対化すべき問題だとも思いますが……難しいですね。

個人的には「男らしさ」や「女らしさ」の呪縛は無自覚な部分も含めてなかなか根深いものだと感じていて、そこから自由になった方が自分も相手もより“個人”としていられるように感じているので、より良い人間関係をつくるためにもジェンダー観を見つめ直してみることは大事だなって感じています。

岩田:なるほど……恋愛も、人間関係が基本ですからね。そもそも、清田さんはどうしてそんなにジェンダーに対する意識が高いのですか?著書の中でも、いつも過去の自分を反省しておられて、同じ男として頭が上がらないなあ……と思いまして。

「自分に対する興味」から始まる

清田:いやいや……。反省や内省ばかりしているのはそれだけ失敗談が多いからであって、完璧な人間などでは全然ないです。とにかく女性たちの恋バナには「男性のダメさ」を痛感せざるを得ないエピソードが本当にたくさん出てくるんですよ。

岩田:男性のダメさ?

清田:恋愛相談という性質上、男性が悩みの発生源になっているケースがほとんどなんですね。なのでネガティブなエピソードに偏っているという部分はあるのですが、すべて異なる男性たちの話であるはずなのに、「同じ人なのかな?」って思うくらい似通ったエピソードがしょっちゅう登場する。小さな面倒を押し付けてくるとか、話を聞かないとか、謝らないとか、すぐ不機嫌になるとか……それらのエピソードは大まかに類型化できることが見えてきました。

そして「これは個々人の性格や性質というより、社会的につくられたジェンダーの問題なのでは?」と疑問を持つようになり、「男たちの失敗学」と位置づけて原因や対策を考えたのが『よかれと思ってやったのに』でした。

スー:なるほど。でも清田さんは男性ですし、今のままの世界の方が心地よいのでは……?意地悪な質問ですみません。

清田:僕は概ね“マジョリティ男性”の範ちゅうに入ると思うので、男性優位な社会構造から有形無形の恩恵や優遇を受けていることはたしかだと思います。でも、桃山商事の活動を通じて様々な恋愛相談を聞く中で「そこにあぐらをかいていると恐ろしいことになるぞ」という恐怖心が芽生えました。自分にもダメダメな部分はたくさんあるので……。

ジェンダーを考えることは自分について考えることであり、他者について考えることでもあり、その延長線上に社会の問題とつながっていくような感覚があります。根底にあるのはおそらく「自分について知りたい」という欲求ではないかと考えています。

岩田:その視点は、面白いですね。ジェンダーを学ぶことで、自分が見えてきますか?

清田:どこまでが個人の性格や性質で、どこからがジェンダーの影響なのかを分けて考えることは不可能だと思います。でも、自分という人間は自分だけで形作ってきたものではなくて、他者や社会の影響をめちゃくちゃ受けているわけですよね。つまり、過去の人生で学んできたことや、経験してきたことが、今の自分をつくっている。ジェンダーを学ぶと、自分の考え方や感じ方がどのようにしてできあがってきたのかが見えてくる瞬間があり、それがとてもおもしろいなと感じます。

また、それらが差別や偏見になっていたり、具体的に誰かを傷つけてしまったりしていることも多々ある。だから、そんな自分を見つめ直し、過去の経験をUn-learn(=身についているものを学び落とす)していくことも大事だなと思っています。

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岩田:「ジェンダーを学ぶ」というより、「過去の経験を削ぎ落とす」意識なんですね。

清田:「学び落とす」という言葉を知ったときは「なるほど!」ってなりました。新しいものを学んだり、自分を変えたいと思ったりしたときに、過去の経験や知識、身体に染みついている癖や思考回路が邪魔になることって結構あると思うので。

スー:なるほど。「Un-learn」の姿勢って、男女問わず全ての人が持っているといいなあと思います。私はこれはジェンダーだけの話でもない気がしていて、国や文化による価値観の違いにも関係するかもと。

清田:「社会のため」と考えてしまうとすごく大きな問題のように感じますが、まずは、「自分を知るため」でいいと思うんです。そういうものが積み重なって、社会的な課題の解決につながっていくといいなって思います。

「世界ミラーリング週間」を3人で妄想してみた

清田:もしも社会的な規模の話をするなら、個人的に「世界ミラーリング週間」というのをやってみたらいろいろ発見があるんじゃないかと思うんですよね。

岩田:ミラーリング週間?

清田:例えば「女性専用車両」ではなく「男性専用車両」、「母子手帳」ではなく「父子手帳」、「女優」ではなく「男優」など、世に流通している言葉や概念のジェンダーを反転させ、そこに埋め込まれた偏見や差別を浮き彫りにさせる手法を「ミラーリング」と呼んだりしますが、それをキャンペーンのように展開してみるというものです。例えばコンビニのATMに「お父さんのお財布」と書いてあったり、電車に「筋肉ムキムキエステ」という広告が貼られていたりしたら、男性たちはどう感じるんだろう……って。

スー:あー、男性に対して世の中が「男ならお金を稼げ!」「男なら筋肉ムキムキであれ!」というプレッシャーをかけるってことでしょうか?

清田:実際にこの社会にはそういったプレッシャーが存在していると思いますが、それがさらに強烈に可視化されるように思います。松田青子さんの短編『男性ならではの感性』(中公文庫『女が死ぬ』に収録)や梛月美智子さんの『ミラーワールド』(角川書店)などはまさにそういった世界を描いた小説ですが、それを目の当たりにすることによって「女性はこんな世界を生きているのか……」という感覚が男性の中にわき起こるかもしれないなと。

スー:逆に女性も、分かりにくかった男性の生きづらさに気付くかもしれないですね。

岩田:前回の記事では、CMの世界で男女を逆にして考える、というアドバイスを頂いたのですが、世界の全ての男女を逆にするのも面白いですね。例えばですが、政治や会社の役員も、男女比を逆にする期間があったら、確かに面白そうですね。

スー:確かに!

岩田:いいことが起きる可能性は高いですよね。僕の母校は、もともと男子校だったんですが、共学になって女子が増えたら、成績が大幅にアップしたそうです。

スー:その話で思い出したのは、スウェーデンでは女性議員を増やしたら政治家全体の質が上がったという研究もあるそう。逆にしてみるのって発見があるかもね。

(参考文献) Besley, T., Folke, O., Persson, T. and Rickne, J. (2017) “Gender Quotas and the Crisis of the Mediocre Man: Theory and Evidence from Sweden,” American Economic Review, 107(8): 2204-2242.
 
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ふてくされの先のコミュニケーション

岩田:清田さんは今のCMについて、ジェンダーの観点からどう思いますか?

清田:ここ数年、SNSを中心に様々な広告が炎上する光景を見ていたのもあり、制作サイドはより様々な視点を盛り込みながらCMを作っているのではないかと想像しています。ただ、それでも偏見や性別役割がナチュラルに埋め込まれているCMなどを目にする機会も少なくなくて、「うーん」って思う瞬間も正直あります。

以前『「テレビは見ない」と言うけれど エンタメコンテンツをフェミニズム・ジェンダーから読む』(青弓社)という本に執筆者の一人として参加し、人気バラエティー番組を見てジェンダーの観点から論評するという原稿を書いたのですが、性差別的な発言や容姿イジり、フェミニズムをからかうような表現や男性間セクハラなど、気になるシーンが山盛りだったという……。

スー:確かにまだそういうものは多いですよね。ただ、やっぱり気にしている企業や番組も多くなってきた気がします。理解度の濃淡はまだあるかもしれませんが。

清田:岩田さんとスーさんは広告を作る側なわけですが、そんな二人からは今の状況がどのように見えているのでしょうか。

岩田:そうですね。前回の記事で取材した瀬地山さんにはCMを作るときに気を付けるポイントをまとめていただきました。それをちゃんと守ればある程度は炎上は避けられるのかなと……。

清田:なるほど。でも分かるような気もします。僕も原稿を書いたり、こうしてしゃべったことが記事になったりする際、そこに無自覚の差別や偏見が埋め込まれていないか、常に不安や恐怖がつきまとっている部分が正直あるので。しかし、「こうすれば炎上を防げる」ということだけを考えていればいいという話でもありませんよね。

たしかに考えるべき点は多いけれど、その中で何をどう表現していけばおもしろいものになるのか。それこそがクリエイティブな仕事をしているものとしての見せ所なんじゃないかと思います。って、なんだか偉そうなこと言ってる気もしますが……。

スー:では、どうすれば、企業のコミュニケーションは良くなるんでしょうか?

清田:うーん、どうなんでしょうね。例えば僕の場合ですが、Twitterで目にする「当事者の声」に学ぶことが多いなと感じています。ジェンダーの問題に関心のあるアカウントを中心にフォローしているのですが、タイムラインには家事や育児、恋愛や人間関係、政治やメディアなど、様々な問題にまつわる当事者の声が流れてくるんですね。やっぱり生の声なのでものすごくリアルだし、「そうなんだ……」「知らなかった……」と思うようなことも多く、いろいろ突き刺さる部分が多いです。

スー:なるほど……。

清田:もちろんツイートを読んだだけで理解した気になるほうが危険だとも思いますが、わからないことは学んだり話を聞いたりするしかないわけで、こういう言い方が正しいかはわかりませんが、Twitterは「生の声」にあふれた場所だと感じています。自分も何かの当事者として声を発していいわけですし、そういうコミュニケーションを重ねていくのも大事なことではないかと感じています。

岩田:まずは目をそらさずに、事実を認めることが大事なんですね。

清田:「いろいろ息苦しい時代になった」「細かいこと気にしてたら何も言えなくなっちゃう」みたいな声も多いですが、一方で何か表現をする時に「こうすれば怒られないでしょ?」という態度も一種の「ふてくされ」だと思うので……現実にある諸問題を直視しながら考え続けていけたらなって。

岩田:「ふてくされがちな男たち」も、清田さんの著書『よかれと思ってやったのに』に出てくる、男の典型ですよね。

清田:例えば、2021年に話題になったドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』などは、ジェンダーをはじめ様々なテーマを繊細に扱いながら素敵で笑える作品になっていたと感じます。自分も文章を書く人間の端くれとして、そういう作品を目標にしたいなって思わず感動してしまいました。

岩田:主人公が女性社長だったり、従来のジェンダー観にとらわれないキャラクター設定が魅力的でしたね。

スー:あの作品は私も大好きです。周りに男女問わず好きな人も多かったですね。
「こうすればジェンダー配慮してるし、いいでしょ?」という消極的な表現ではなく、その先をいく、新しい世界を見せつつ、わくわくさせてくれる表現が理想だと、今の話を聞いてイメージができました。

清田さんとの話を終えて

スー:ふー。恋バナからだいぶ広がったね!

岩田:前回、男としてジェンダーをどう考えるかがモヤモヤしてたんだけど、すっきりしたな。「自分への興味」というのはすごく大切な視点だと感じた。「社会のために」ジェンダーを議論すると、どうしても難しくなるけど、自分の中にある偏見をなくしていけば、もっといい自分になれるかもしれない。

スー:私は、やっぱり恋愛とジェンダー周りがモヤモヤするなあ。「男らしさ」「女らしさ」と恋愛って切り離せないもののように感じる……これ私以外も悩んでる人きっといる気がするんだよね。恋愛だけじゃなくて、周りの友人と結婚の話をしている時とかにもよく出てくる。モヤモヤモヤ……

岩田次は誰と話そっかな……

スー:また全然違う角度からも話してみたい!

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この連載では、さまざまな分野の方と「ジェンダーとコミュニケーション」をテーマに対話し、これからのコミュニケーションのヒントを探っていきます。

企業のコミュニケーションを、一人一人の人生を、この社会をより良くするために。

みなさんも、ジェンダーのこと、一緒に考えてみませんか?

イラストレーション : 萬田 翠

【清田さんの新刊、発売中!】

 

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