「People Driven Marketing® 実践ウェビナー2021」レポートNo.2
経済圏データ×データクリーンルームの真価は?国内実践事例を紹介
2022/02/16
電通による“人”基点のマーケティング「People Driven Marketing(※)」(ピープル・ドリブン・マーケティング)。
毎年アップデートを重ね、現在は「PDM5.0」に進化しています。
本連載では、電通人と企業のゲストたちが、マーケティングとデータの未来を語った「People Driven Marketing® 実践ウェビナー2021」3日間の模様を、ダイジェストでレポートします。
1日目のテーマは「CXデータ利活用実践」(キーノートセッションはこちら)。今回は「データクリーンルーム」と「経済圏データ」を活用した、次世代デジタルマーケティングの事例を中心に3セッションを紹介します。
※所属や役職はウェビナー当時の情報です。
<目次>
▼Cookieフリー対応の新計測基盤「X-Stack Connect」とはなにか?
▼自社データとプラットフォーマーのデータをクラウド上で結合させる!データクリーンルームの活用法
▼5000万ユーザーのデータと連携!ヤフーと取り組む「HAKONIWA」の強みとメリット
※People Driven Marketing
https://www.dentsudigital.co.jp/service/pdm/summary/
電通が提唱する、データ&デジタル時代に対応した“人”基点の統合マーケティング・フレームワーク。課題を人(People)基点で捉え直し、電通グループが持つ最先端のマーケティング手法を統合して、顧客の持続的な成長を支援していく。
Cookieフリー対応の新計測基盤「X-Stack Connect」とはなにか?
従来の3rdパーティCookieを用いたデジタルマーケティングの強みの一つは、マーケティングデータの「効果測定」と、それらデータに基づいたPDCAサイクルを回せることでした。しかしユーザーのプライバシー保護を第一に考えると、今まで同様にCookieに頼り切ることが難しくなる今後は、どのようにしてマーケティングデータを測定し、評価すればいいのでしょうか?
本セッションでは、電通デジタルの小山千春氏が、“Cookieフリー時代”におけるマーケティングデータの新計測基盤「X-Stack Connect」(クロススタックコネクト)を紹介しました。
Cookieは「サイト来訪者のブラウザ側に保存する」という、いわばブラウザ依存型の仕組みです。サイトをまたいだ人の動きをトラッキングできるため、このCookieデータをもとに広告に接触したユーザーのCV(コンバージョン)計測や、広告の自動入札が行われてきました。しかし、ユーザーのプライバシー保護を考えた際、今後はユーザー許諾を適切に得ていないCookieに依存したサイト横断の計測は難しくなるといえるでしょう。
「そこで必要とされているのが、“サーバーサイド計測”という考え方です。アクセスログやフォーム情報といった、自社が保有するデータを最大限に活用して、それらを各広告媒体側の持つデータと突き合わせ、マーケティングに生かす仕組みが、今後主流になってくるでしょう」(小山氏)
また、小山氏は、現在多く使われている「リンク末尾にパラメータを付けて遷移させる対策手法(1stパーティCookie)」も、結局ブラウザ依存の手法に変わりはなく、いずれ規制の対象となる可能性を指摘。ユーザーの許諾を得ないブラウザ依存の対策だけを続け、規制の影響を正面から受けてしまうと、
・ユーザー単位の追跡がほぼ不可能になる
・最適化学習が阻害されるため高精度な自動入札ができなくなる
・リターゲティングができなくなる
といった問題も生じることを解説しました。
そして、こうした課題を解決するソリューションとして、電通デジタルが提供するサーバーサイドレイヤーの新データ計測基盤「X-Stack Connect」を紹介(詳しくは、こちら)。
サーバーサイドでの計測は、CVユーザーを識別するためのデータ収集やデータ整形を実装者が行わなければならず、非常に難易度が高いところがネックです。また、広告媒体ごとに個別に対応しようとすると、莫大なコストや工数がかかる問題もあるといいます。
「ただ、アクセスログにおけるユーザーIDなど、フォーム入力情報におけるメールアドレス、氏名、住所などを指す『マッチキー』は媒体によって大きくは変わらないため、一度土台を作ってしまえば、あらゆる広告媒体に転用が容易かつ強固な基盤となります。その点で、『X-Stack Connect』は、まさに、土台をしっかりと作り込めて、かつ転用可能で、強固な計測基盤です。1回実装すれば汎用的に活用でき、また、コストを抑えて持続可能性の高い計測が行えるのです」(小山氏)
「X-Stack Connect」は、例えばGoogleのEnhanced Conversion APIやFacebookのConversion APIなど、広告プラットフォームが提供するAPIへの対応実績があります。
実際にX-Stack ConnectをFacebookに実装した際、アクセスログを活用したことで「追えるCV数が約18%伸びた」「アクセスログ、フォームデータを関連付けることで、追えるCV数が約30%伸びた」と報告されています。
また、「X-Stack Connectは守りの側面だけでなく攻めの側面も持っている」と続ける小山氏。X-Stack Connectとデータクリーンルームを連携させれば、「会員登録」などのウェブ上のCVだけでなく、例えばその先の「店舗での購入や契約につながったか」といったところまでを対象に分析できる可能性を秘めているといいます。
つまり、「広告接触」から、「サイトの来訪」「来店/購買行動」までをカバーできることで、より本質的な“事業成長に役立つデータ”を一気通貫で分析できるようになるのです。このことからX-Stack Connectを、「単なるCookieフリー対応のためのツール」ではなく、「ビジネスの成長に寄り添うソリューション」として長く活用できるものだという小山氏。
「他のソリューションやアイデアと組み合わせることでカバー範囲を広げられる、可能性のあるソリューション」だとし、「未来のために、活用をご検討ください」と締めくくりました。
自社データとプラットフォーマーのデータをクラウド上で結合させる!データクリーンルームの活用法
「明日から使える!Data Clean Roomを用いた統合マーケティングの実践事例のご紹介」と題したセッションでは、電通 データ・テクノロジーセンターの井上碧海氏、古池茜氏が登壇しました。
最初に語られたのが、これからのマーケティングにおいて重要な「データ」や、「生活者のファン化」という概念について。
まず古池氏から、「国内の人口が減少し、ミレニアル世代を中心にコンタクトポイントが変化する昨今。企業が従来と同様の売り上げを作るには、生活者一人一人に、企業のファンになってもらうことが重要です」とその背景が語られました。
一方で、Cookieフリー化や個人情報保護などの潮流が強まる中で、これからのデータマーケティングにおいては「生活者からデータをお預かりする」という意識が必要であると、言及。
古池氏は「このような状況において、価値あるデータを企業が活用するためには、『ポイント事業』や『使い勝手がよく便利な決済手段』など、生活者にとってのメリットのあるサービスを提供し、生活者に企業とつながり続けたい、と思っていただくことが重要である」と語ります。
そして、この状況に対応できるソリューションとして、大手プラットフォーマーが提供する「データクリーンルーム」に注目が集まっていると述べました。
データクリーンルームとは、クライアントが所有する1stパーティデータとプラットフォーマーの所有データを、クラウド上でセキュアに連携させる環境のことです。「プライバシー保護」と「企業のマーケティングニーズ」を両立させ、マーケティングの継続的なPDCAを実現させることができるデータ基盤になります。
「お客さまが『つながり続けたい』『価値がある』と思えるようなサービスを提供しているプラットフォーマーは、既に数千万規模のデータを保有しています。こうしたプラットフォーマーが提供するデータクリーンルームを使いこなせば、より早く、効率的にデータを生かしたマーケティングができます」(古池氏)
「データクリーンルーム」関連記事はこちら
・データクリーンルームは「Cookieフリー時代」のマーケティングを変える
ここで改めて古池氏が、データクリーンルーム活用のメリットについて、3つの事例とともに解説しました。
①“人”を基軸にさまざまなデータを連携することができる
これまで、自社が持つ「購買データ」と、プラットフォーマーが持つ各種データ、広告会社が持つ各種データが、それぞれ別々に管理されていました。ポリシー的にも技術的にもこれらを結びつけるのは難しく、データの連携・活用に限界があったのです。しかし、データクリーンルームを使うことでこれらを統合して、より解像度の高い分析や効果計測が可能になります。
②購買基点の「バックキャスト型」の分析ができ、売上貢献度が分かりやすい
従来は主にテレビなどのマスメディアを中心に、認知→検討→関心→購買という「トップダウン型」の分析や効果計測を行ってきました。データクリーンルームを活用することで、「どのような生活者が広告によって動いたのか」「検討まではしたけれど、購買に至らなかった生活者はどのような特徴があるのか」といった分析が可能になります。生活者にモノを買っていただくためには、究極のマーケティングゴールである「購買」を起点にしたバックキャスト型のマーケティングに変革していく必要があると考えています。
③新規顧客の獲得~顧客の育成まで、ストックしたデータでPDCAを回すことができる
CDP(カスタマーデータプラットフォーム)を保有している企業であれば、自社の環境内であれば施策のPDCAを回すことは可能だと思います。ただ、外部のプラットフォームで広告配信をした場合、データ連携ができないため効果検証ができず、単発の施策になってしまうという悩みを抱えていました。データクリーンルームを活用し、データを連携、蓄積することで、キャンペーン単発の掛け捨て型の広告コミュニケーションではなく、ストック型のデータマーケティングが可能になり、新規顧客の獲得~顧客育成までの継続的なPDCAを行うことができます。
続いて井上氏から、具体的なプラットフォーマーデータの活用事例が詳しく紹介されました。ある日用品メーカーは、データクリーンルームを使うことで、実購買データで計測ができるようになり、広告想起が本当に購買につながっているか確かめられたといいます。また、ある飲料メーカーの販促の事例として、販促キャンペーンに参加した人がそのあとも継続して購買しているかどうか可視化できるようになったことを述べました。別の飲料メーカーの事例では、データクリーンルームを活用して、プラットフォーマーのデモグラデータなどを使って顧客理解を深め、さらに打ち手にもつなげていった事例を紹介。
まとめとして、「データクリーンルームを活用すれば、これまで“勘と真心”だった販促も、購買データをプラスして科学できますし、深い顧客理解を通じてスケールとパーソナライズを両立できます。Cookieフリーをピンチではなくチャンスに変える、それがデータクリーンルームなのです」と述べました。
5000万ユーザーのデータと連携!ヤフーと取り組む「HAKONIWA」の強みとメリット
最後は、「ヤフーと取り組むHAKONIWAで、ビジネス成長につながるマーケティングの仕組みを実装する」と銘打たれたセッション。
ヤフーの重山直志氏、電通デジタルの荒川拓氏、電通の江頭瑠威氏が登壇し、ヤフーと電通が提供する「HAKONIWA」について、サービスの特徴や魅力などを語り合いました。
冒頭、電通の江頭氏はHAKONIWAの特徴について、以下のように述べました。
「HAKONIWAは、単に1stパーティデータをインプットしてプラットフォーマーのIDと突き合わせ集計値をアウトプットするというものではありません。IDと突き合わせた上で、電通が持つマス広告のデータも加味し、幅広く計測、蓄積、分析を行い、データモデリングや、セグメント作成、プロファイル作成まで行えます。より深く本質的なデータのマーケティング活用ができるところがポイントです」(江頭氏)
これを受けてヤフーの重山氏が、“HAKONIWAの強みについて紹介しました。「HAKONIWAの強みは、Yahoo!ショッピング、PayPayモール、Tポイントをはじめとする100以上のサービスにひもづいたデータ環境であること。かつ、幅広い消費行動を行うフルファネルのオーディエンスのデータが蓄積されていることです」と重山氏は言います。
ヤフーは月間5000万人超のユーザーの、「検索」から「オンライン・オフラインの購買データ」までをストックしており、さらにLINEとの経営統合で、さらなる規模に拡大していくと予測されます。
ほかにも、「ほとんどのデータがトランザクションデータであり時系列でユーザーを解釈できる」「CookieではなくYahoo! JAPAN ID(人)に集約された多様なデータで、プランニング(戦略)から、エグゼキューション(施策)、メジャーメント(分析)まで一気通貫で行える」などの強みもあると重山氏。
また、「Yahoo! HAKONIWA経済圏でのデータは、Yahoo! JAPAN IDに名寄せされた形でストックされ続けます。“Cookieロスト”に影響されないIDベースの基盤で、次の施策の精度を高め続けることができるのです」と、Cookieのように消失しないIDを使う利点を説明しました。
続いて、電通デジタルの荒川氏がHAKONIWAの具体的な活用事例を紹介しました。「自社の商品を買いそうな人」を予測してプランニングに生かすだけでなく実際に広告のモーメント配信を行った事例や、ヤフーのデータだけでなく、電通保有のテレビ視聴データを掛け合わせ、両者の重複による効果を検証した事例なども紹介。「プランニング」「エグゼキューション」「メジャーメント」、それぞれのフェーズで実際にHAKONIWAが活用されていることを示しました。
最後に江頭氏が、「HAKONIWAは、自社だけでなく外部での顧客の動きを把握したいときに役立つソリューションです。購買やメディア接触、興味関心に関するデータを補いたい。そんなときに最高のパートナーとなる仕組みだと思っています」と力強く発言。セッションを終えました。