月刊CXNo.4
Ponta(ポンタ)生みの親が語る!“キャラクター”は、CXクリエイティブでも大きな武器となり得るか?
2022/04/20
日々進化し続けるCX(カスタマーエクスペリエンス=顧客体験)。
今やあらゆるシーンで求められるCX領域に対し、電通のクリエイティブはどのように貢献できるのか?
その可能性を解き明かすべく、電通のCX専門部署「CXCC」(カスタマーエクスペリエンス・クリエーティブ・センター)メンバーがCXとクリエイティブについて情報発信する連載。それが「月刊CX」です(月刊CXに関してはコチラ)。
第4回は、アートディレクター糸乘健太郎氏を招き、CXクリエイティブ(※)の神髄に迫ります。キャラクターを武器にクリエイティブの領域をマスからデュアルファネルのCXへと拡張し続けるアートディレクター糸乘氏が得た気づきとは?
※CXクリエイティブとは……クリエイティブの力を使って、価値ある新しい顧客体験を生み出すこと。また、その取り組み。
【糸乘健太郎氏プロフィール】
電通
カスタマーエクスペリエンス・クリエーティブ・センター
アートディレクター
愛らしい目元が印象的な「Ponta(ポンタ)」や、テレビ東京の人気キャラクター「ナナナ」などの生みの親。中でもPonta(ポンタ)は、Twitterを駆使してユーザーと365日24時間交流を続け、多くのファンを獲得することに成功。CXクリエイティブにもキャラクターが有効だとの確信を深め、2021年10月から新たな取り組み「キャラクターCXソリューション」をスタートさせた。https://www.dentsu.co.jp/news/release/2021/1028-010454.html
“キャラ大国”の日本だからできるAlways Onな顧客体験
月刊CX:なぜキャラクターをCXクリエイティブにも活用しようと思われたのですか?
糸乘:日本人には海外から不思議がられるほど、キャラクター好きな国民性があります。そのため、CXクリエイティブとキャラクターの相性はいいだろうと考えました。
最近ではテレビCMだけでなくSNSでもキャラクターを活用する企業が増えています。その理由は、キャラクターにはユーザーに親近感を与えるとともに、情報を端的に伝える効果があるからだと考えています。
広告塔としてタレントを起用する場合、スキャンダルのリスクなどが懸念されますが、キャラクターであればそういった心配も不要です。加えてタレントの場合は、テレビCMに出演してくれたからといって、動画やバナーなどの制作にも必ず出演してくれるかどうかわかりません。別途契約や許諾が必要ですし、追加の出演料も発生します。キャラクターには、そういった心配がないのもポイントです。
月刊CX:クライアントが、安心して使い続けられるということですね。
糸乘:はい。また広告の手法が時代とともに変化していることも、キャラクターがCXクリエイティブに有効な理由の一つです。
一昔前は、テレビを通して全員が同じ広告を見ていました。しかし現在はスマートフォンの普及により、それぞれの趣味嗜好に合わせた広告が見られるようになりました。メタバースなどの技術が発展すれば、仮想空間を通して、誰もが世界中を自由に動き回れるようになるかもしれない。従来の広告手法では、企業のマーケティングは成り立たなくなっていくでしょう。
そういった流れを受けて、マーケティングの世界ではデュアルファネルが盛り上がってきています。
デュアルファネルは「新規顧客の獲得」と「既存顧客の育成」という二つのファネルを掛け合わせたもので、製品やサービスの購買がゴールになっていません。
新規顧客を得るだけではなくて従来の顧客とも接点を持ち続けて、長いスパンで顧客と繋がり続けていくという考え方です。一人ひとりのユーザーと長期的に向き合っていくことが求められます。
月刊CX:ただ広告を制作するだけではなく、デジタル施策やSNSの投稿など、各プラットフォームに合わせた継続的な対応が必要になってきているということですね。
糸乘:おっしゃる通りです。スマートフォンで常にユーザーとつながれるようになったため、SNSやウェブ上でユーザーとのコミュニケーションを取り続ける「Always On」も、マーケティングにおいて重要だといわれています。そういった点において、人力ではリアルタイムで365日24時間対応することは難しい。しかし、キャラクターであれば、チャットボットなどのテクノロジーと組み合わせることで、時間や場所の制限なく対応可能になります。キャラクターは、CXクリエイティブにおける新たな武器だと思うんです。
Ponta(ポンタ)とPontaファンの関係が示す、“ブランドの究極形”
月刊CX:キャラクターを活用したCXクリエイティブの事例で、何かご紹介いただけますか。
糸乘:私が関わらせてもらっているキャラクターの中で一番認知度が高いものでいうと、Ponta(ポンタ)でしょうか。PontaはもともとテレビCMや店頭のみの対応だったのですが、いつからかTwitterも主戦場になっています。
Twitterが大事になった理由としては、キャラクターとの相性がいいSNSだからですね。PontaはTwitterを通してユーザーとつながり続けていて、まさに先ほどお話しした「Always On」が実現できている状態です。
月刊CX:かわいいですね。実際にPontaはどのような投稿をしているのですか?
糸乘:印象に残っているものでいうと、昨年の3月1日、Pontaの誕生日にクライアント主導で行われた投稿です。この日「#ポンタ誕生祭」をつけてツイートしてくださったユーザーに、Pontaが必ずリプライをするといった企画が行われました。すると、約2万人のユーザーがツイートしてくれて、結果的にトレンド1位を獲得できたんです。ファンの方も一緒に喜んでくださいました。
月刊CX:みんなで獲得したトレンド1位だったんですね。
糸乘:はい。また、Twitterでは、エイプリルフールに各企業があえてうその投稿をするのが恒例行事になっていますよね。Pontaも慣例に倣って「実はアイマスクなんです」とうその投稿をしたところ、いつもは「いいね」が1000~2000あたりなんですが、1.7万まで伸びました。
ツイートの反応がいいとファンの方も喜んでくださいますし、モーメントにそった投稿は今後も大事にしていきたいと思っています。
それ以外では、ファンの目印になるものを作れたらいいなと思い、2021年8月にアイコンメーカーをリリースしました。髪型や装飾を自由に組み合わせてオリジナルのPontaを作る仕様です。Pontaのフォロワーには、実際にこのアイコンメーカーで作成したアイコンに設定している方が多く見られます。
月刊CX:面白い施策ですね。フォロワーの方々のPontaへの愛情や感情移入も感じます。キャラクターを考える際に、何か意識していることはありますか?
糸乘:愛されるキャラクターを生み出すためには、リアリティがあることも重要です。例えば、どこか“抜けている部分”を作ることが大事ですね。デザインとしてはシンプルなものが多いです。シンプルにした方が、いろんな場面ごとのキャラクターの展開や派生も作りやすいですし、ファンが乗っかれる余白ができると思います。
月刊CX:なるほど。シンプルにすることがコツなんですね。
糸乘:そうですね。実はPontaには、派生した兄弟キャラクターとして「バファローズポンタ(略称バファポン)」がいます。バファポンはオリックス・バファローズ(以下:バファローズ)のファンを代表しているキャラクターで、実はPontaよりもエンゲージメントが高いんです。昨年はバファローズがAクラス入りしたり、首位になったりした時に、「いいね」が4.8万、優勝した時には10万まで伸びたこともあります。キャラクターは作って終わりではなく、派生させたり展開したりすることで、さらに伸びるものだと考えています。
月刊CX:野球が好きな人たちの集団の中に、タレントがいきなり入っていくことは難しいと思います。キャラクターであれば気軽にできるということでしょうか。
糸乘:はい。キャラクターだからこそ違和感なく自然に入っていけたのだと思います。バファポンの設定も関係していますが、キャラクターはTwitterとの相性がいいんでしょうね。Twitterは拡散性に優れたSNSですし、テレビで試合を見ながらリアルタイムで一緒に盛り上がれるのも魅力です。
バファポンの場合は、すべての試合でバファローズが勝ったら喜ぶ投稿、負けたら悲しむ投稿をクライアントが続けてくださっています。そうすることで、ファンの人と一体化することができている。ファンとの関係づくりには、“ライブ感”があるかどうかも重要なポイントだと思います。
またキャラクターを派生することで得られた最大のメリットは、バファポンが盛り上がれば盛り上がるほど、Pontaの認知度も自然と向上していくということ。これはキャラクターCXならではのメリットですね。
月刊CX:たしかに。そういった盛り上がり方は、キャラクターだからこそ実現できるものですね。
糸乘:はい。最近では2022年1月からTwitterでPontaの4コマ漫画も始まりました。ツイートのリプライには、ファンから愛のあるコメントを多くいただいています。
Pontaが人間界を観察するという設定で、ファミレスでのバイト中、お客さまに文句を言われるシーンがあった際に「Pontaくん大丈夫?」とか「天然だね」など、心配したり慰めたりしてくださって。架空のキャラクターであるにもかかわらず、実在しているかのようなコメントが届くのは、とてもすごいことだと思うんです。
コメントしている半数以上のユーザーが、Pontaのアイコンメーカーを使ってくれていて、思い入れを持ってくださっているんだなと感じました。Pontaの投稿にコメントしているツイートにも「いいね」がついているケースも珍しくなく、ファン同士の交流も生まれています。
月刊CX:ファン同士の交流が生まれるというのは、とてもいい流れですね。まさにブランドが目指す形の究極という感じがします。
糸乘:Pontaに深く関わってくれているユーザーほど、ポイントサービスPonta経済圏で濃く活動してくださっているというデータもあります。Pontaのエンゲージメントを高めるほど、Pontaを利用してもらえる。Pontaの活動が、広報活動にも寄与できているんですよ。
AIチャットボットなど、最新テクノロジー×キャラクターでCXクリエイティブを拡張する
月刊CX:Pontaは見事な成功事例ですよね。Pontaのようなポイントプログラムやスポーツ領域以外で、キャラクターが有効なのはどのような分野ですか?
糸乘:保険商品など、業態が複雑なものや説明が難しいものには、キャラクターが最適だと思います。冒頭でも話した通り、キャラクターには情報を端的に伝えられる効果があるため、難しい商品説明をわかりやすく伝えたいときに有効ですね。キャラクターは、商品とユーザーをつなぐ、橋渡しのような役割だとイメージしていただくといいかもしれません。
反対に、商品が“モノ”としてはっきり存在しているものは、キャラクターが不要になってしまうこともあるかもしれませんね。
月刊CX:なるほど。これまでのお話を聞いていて、キャラクターをCXクリエイティブに活用すると、大きな効果があると同時に、制作するクリエイターの負担は増えているのではないかとも思いました。
糸乘:「キャラクターを活用するからクリエイターの負担が増えている」というよりも、「デュアルファネル戦略をする上で、クリエイターの負担が増えている」といった表現の方が適切ですね。クリエイターの負担が増えていることは事実ですし、継続するためには「手間を削減しながら愛されるキャラクターを作っていく」ことが重要だと考えています。そういったことを踏まえて、昨年から私が着手しているのが、「キャラクターCXソリューション」です。
端的にいうと、キャラクターを使ったCXクリエイティブと、国内電通グループのテクノロジーを組み合わせたものです。2021年10月に新宿と池袋で行った「Pontaが街にやってきた」などは、まさに「キャラクターCXソリューション」を活用した事例ですね。
月刊CX:これはリアルタイムでPontaが話しているのでしょうか?
糸乘:はい。電通とエジェが共同開発したキャラクターアバターサービスの「Chara Talker(キャラトーカー)」を利用したライブコミュニケーション施策です。
VTuberをイメージしていただくとわかりやすいと思うのですが、“中の人”に合わせてキャラクターを動かせるという技術で、別室にいる担当者が画面を見ながら話したり動いたりしていることが、Pontaと連動しています。
月刊CX:面白い。新たなファン獲得にもつながりそうですね。
糸乘:そうなんです!キャラクターの新たな魅力を伝えられますよね。
またこういったテクノロジーとキャラクターCXを組み合わせていくことで、制作にかかる手間を大きくカットすることができると考えています。
制作する時間が減った分、クライアントとの調整にかける時間も増やせるので、より完成度の高い施策の実現にもつながります。
月刊CX:キャラクターとテクノロジーを組み合わせることで、多くのメリットが生まれているんですね。
キャラクターを武器にしたCXクリエイティブがもたらす未来
月刊CX:現在は新しいメディアが多数登場しており、マーケティングにおけるファネルの考え方も以前より長いスパンで捉えるようになってきています。こうした変化にも、キャラクターを武器にしたCXクリエイティブは、柔軟に対応していけるんですね。
糸乘:はい。もともと“商売”は、お客さまとお店側が一対一の関係だったと思うんです。しかし、テレビが登場し、一対多数の関係に変わっていった。その後、スマートフォンの登場があり、メタバースのようなものも出てきています。いわばテクノロジーの発展で、再び一対一のコミュニケーションが重要視されてきているのではないかと考えています。
月刊CX:みんなが同じものを見るのではなく、一人一人に合わせた対応が必要とされてきているのですね。
糸乘:店頭のデジタルサイネージやチャットツールを使った顧客対応は、その筆頭かもしれません。人間であれば、365日24時間すべての人に対応するのは難しい。けれど、CXを向上させるためには、顧客が求めていることにすぐに対応できる体制が必要です。
“人”が登場するとなるとできることに限界がありますが、キャラクターであれば各メディアやツールに対応できます。キャラクターCXソリューションを活用すれば、「Pontaが街にやってきた」のような新たな施策もできます。企業代表なのか、ファンとしての役割なのか、キャラクターの設定によって、できる施策が異なるのも面白い点ですね。
月刊CX:今後のさらなる広がりが楽しみですね。
糸乘:ありがとうございます。キャラクターはファンを作るのが得意ですし、キャラクターコミュニケーションがどんどん新しくなっていって、キャラクターがファンにFUN(楽しみや驚き)を与え続け、それが企業や商品のエンゲージメントにつながっていく。そんなことを考えて作り続けていけたらと思います。キャラクターをCXクリエイティブの大きな武器にしていきたいですね。
(編集後記)
月刊CX 第4回では、キャラクターを武器にしたCXの成功事例やキャラクター活用の視点からCXクリエイティブの神髄についてお伺いしました。キャラクターといえば昔からある武器ですが、決して使い古された武器ではなく、CXクリエイティブに有効な武器として、むしろこれからさらに進化しつづけるものだと知ることもできました。
また今回のインタビューは、「CX Creative Studio note」(CX Creative Studio noteに関してはコチラ)とも協力しながら取材を行っています。電通CXCCチームだけでなく電通デジタルのCXクリエイティブチームとも連携した「CX Creative Studio note」上では、より幅広い事例の収集や紹介等も行っていますので、ご興味あればそちらも併せてご覧ください。
また今後こういう事例やテーマを取り上げてほしいなどのご要望がありましたら、下記お問い合わせページから月刊CX編集部にメッセージをお送りください。いつもご愛読ありがとうございます。