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広告のtasukiNo.1

広告にはドラマや映画を超える力が秘められている。斎藤工×阿部広太郎

2022/08/09


tasuki

企画、キャスティング、撮影、編集……たくさんの人の力をつないで完成を目指していく広告。

スタートからゴールに向かうまで、どんな気持ちで取り組んでいるのか?そこにはどんなドラマがあるのか?広告に託した思いをもっと知りたいという一心で、出演者の方や、つくり手の方に、コピーライターの阿部広太郎氏がお話を伺っていく、電通キャスティングアンドエンタテイメント発の連載企画「広告のtasuki」はじまります。

第1回は俳優、映画監督として活躍する斎藤工さんにご登場いただき、前後編に分けてお送りします。

斎藤工

父親が映画や広告関係の仕事をしていました

阿部:俳優の方が映画やドラマなどの作品について語る機会はわりと多いと思いますが、広告自体を語る機会はあまりないと思っていまして、今回、斎藤さんに広告についてお伺いできればと思っています。

斎藤:実は、うちの父親は広告を作っていたんです。僕が覚えている限りではハリウッド映画の日本公開時のCMを制作していたりして、父の背中越しにですが、昔から広告の仕事というのは特別な想いで見ていましたね。

阿部:きっと子どもの頃からさまざまな広告をご覧になって来たと思うのですが、とくに印象に残っているものはありますか?

斎藤:いろいろとありますが、印象深かったのは山崎努さんと豊川悦司さんが卓球をするビールのCMですね。あのハイスピード感は衝撃的でしたね。あとは浅野忠信さんのトマトジュースのCM。ぼぼ無言なのに訴えかけるものがすごくあって覚えています。

阿部:見た時のインパクトが心に残り続けているんですね。

斎藤:そうかもしれませんね。僕は自分でも映像を作っているので見え方というのは意識しているんですが、「メラビアンの法則」は大事にしています。

阿部:メラビアンの法則というのは、コミュニケーション時の影響力の法則ですよね。たしか、視覚情報55%、聴覚情報38%、言語情報7%の順に影響力があるという。

斎藤:そうですね。僕はこれまでいろんな映画を観てきましたが、ふりかえってみると文字で印象に残っているものはあまりないんですよね。もちろん、キャッチコピーとかは大事だと思います。ただ、記憶に残りやすいのはやはり視覚。広告は秒数制限がある中で作られるので、映像表現としてはかなりの極みだなと思っています。

阿部:そして今は広告に出演される側になった斎藤さんに伺いたいのですが、広告出演のオファーが来た時って俳優の方はどんな気持ちになるのですか?

斎藤:もちろん、うれしいです。広告は、僕ら俳優にとってはご褒美のようなものなので。人の印象というのは点と点を結ぶ行為だと僕は考えていますが、広告で残せるのは大きな点なんです。ポジティブ以外の感情は僕の場合は浮かばないですね。

斎藤工

広告にはドラマや映画を超える力が秘められている

阿部:斎藤さんは2021年のCM出演ランキングではトップです。デビューした頃から考えてみて、この状況は予想をしていましたか?

斎藤:いやいや、まったく。皆さんのおかげなのでありがたい限りです。この状況に慣れたら絶対にダメだと思っていて、日々ひとつひとつの出会いに感謝をしている毎日です。

阿部:出会いの積み重ねなんですね。人と仕事に、誠実に向き合う斎藤さんの姿勢を感じます。たくさんの仕事に携わる中で、広告の力や影響力というのは、どのように感じられていますか?

斎藤:広告の効果はすごく大きいです。俳優というのは、映画やドラマに出演して、そこで演じたキャラクターや作品に紐付いた評価をされる側面が多いと思います。しかし広告には、時として映画やドラマを上回る力があると思うんですよ。

阿部:おお、どんな経験がありましたか?

斎藤:僕はライフワークで移動映画館をやっているのですが、大勢の人が集まっていて、年齢層もバラバラ。どうしようかなと悩んだ結果、僕がCMをやらせていただいている『Indeed』さんの曲を冒頭で歌ってみたんです。すると、僕の出演作を知らないであろう小さな子たちまで何かピンと来たみたいで、会場がすごく湧いたんです。

阿部:子どもたちの反応は、正直ですもんね。そこで湧くというのは凄いですね。

斎藤:広告の持つ浸透力を感じた瞬間でしたね。俳優の代表作というと作品名が挙げられることが主流ですが、CMでもいいんじゃないかなとその時に思いましたね。あれは誇らしい経験でした。

阿部:斎藤さんが広告の仕事が増えるきっかけとなったのは、やはりTVドラマの『昼顔』のあたりからですか?

斎藤:そうですね。あの作品によって、僕自身は全然意識していなかった“艶”というイメージをメディアを通して頂いた気がします。最初はそのイメージの延長でお仕事をさせていただいていました。でもある時、ダウンタウンさんの番組に出演させていただいた際に、逆張りとでもいうのでしょうか、絶叫するというような“艶”とはまったく違う路線でやらせていただいたんです。そうすると、全く新しい印象が生まれました。そのおかげで「この人はいろいろやってくれる」という印象が広がって、広告との相性も良くなったのだと思いますね。

阿部:僕が受けた印象ではあるのですが、斎藤さんは自分をセルフプロデュースする際に、自分で自分を規定し過ぎないように心掛けている気がするんです。新しい仕事をまるで新しい服を着るかのように、変化を楽しんでいる印象を受けます。

斎藤:それはありますね。僕は主観と俯瞰を分けて考えますので。「私はこういうイメージだ」という主観よりも、実は俯瞰で見る「誰かがもっているイメージ」のほうがその人の本質を表現していることがあると思うんです。例えば僕が役作りをする際も実際の人物がモデルの場合は、その相手と24時間一緒にいるよりも、その人の周りの人からの印象に基づいて捉えたほうが、本質を掴めると考えています。

阿部:周囲の人の話の中から、その人の人物像が浮き彫りになる感じですよね。斎藤さんが監督した映画『blank13』も、まさに主観と俯瞰がキーワードですよね。あの作品は、13年間行方不明だった父親がいて、父のお葬式に現われた参列者たちの話によって、失われた13年間と、主人公も知らない父親像が見えてくるという。

斎藤:そうですね。あれはある放送作家さんの実話がベースなので説得力も違います。自分の主観だけでコントロールし過ぎると、時として自分の可能性を狭めてしまうのではないのでしょうか。広告のオファーを受ける時も「この広告は僕でいいのだろうか?」と思うことがたまにありますが、そういう意外性がある提案の中にこそ本当のシルエットが隠れている可能性があるんです。もちろん、先が読めないので不安ではあるのですが(笑)。

阿部:自分自身で全てを把握しようとするのではなく、他者との間に生まれる「自分の集合体」を捉えていくことが重要なんですね。

阿部広太郎

斎藤工は不安を楽しむ天才!?

阿部:斎藤さんは監督としてキャスティングをする機会もあると思います。どんなことを心掛けていますか?

斎藤:僕がキャスティングをする際も、先ほど話をした意外性みたいなものを大事にしますね。キャスティングプロデューサーから候補者を出される時も、たしかにその役者さんを使えば絶対に失敗しないのは分かるんです。でも、見えすぎちゃうので頭の中で完パケまで見えて、結果として、クリエイターとしてはそれを越えられないんですよね。その線引きが難しい分、面白みでもあるのですが……。

阿部:「この役にこの人は面白い!」というキャスティングの秘訣を伺いたいです。相手の胸の奥底に眠っているマグマのような部分を見抜く方法というものは、直感的なものでしょうか?

斎藤:直感ではありますが、僕の場合はある原体験があります。それはスタジオジブリの『となりのトトロ』。あの作品のお父さん役の声は糸井重里さんですが、子どもの頃に観た時は違和感があったんです。でも、観続けていくと声優さんとは違う部分が、逆にコクになっていくんです。言葉を生み出すことを生業にしている糸井さんが、言葉に縛られるというバイアスを抱え、おそらく不安が下敷きになることで生まれる何かがある。宮崎監督の狙いは、きっとそこにあるだろうなと思うようになりましたね。

阿部:なるほど、面白いです。不安定さが逆に人を惹きつけるということですね。昔、『不思議、大好き。』という広告コピーがありましたが、斎藤さんはきっと不安が大好きなんですね。意外性の中に身をおくことで生まれる不安を原動力にして、それを楽しんでいる気がします。

斎藤:そうかもしれないですね。自分のイメージと違うオファーが来たとしても、それはきっと自分を選んだ理由がちゃんとあって、新たな活路を見出だせるチャンスがあるかもしれません。そう考えると不安って前向きなものなんですよ。

阿部:普通、不安を見つけたら後ずさりしてしまうか、目を逸らしてしまうものだと思うんです。ただ、不安や意外性の下には、もしかしたら金塊が埋まっているのかもしれないと思えたら捉え方が変わるなと。斎藤さんは、不安と向き合う天才ですね。

斎藤工
(電通キャスティングアンドエンタテインメント連載「広告のtasuki」後編に続く)

電通キャスティングアンドエンタテインメントは、広告、映画、イベントに関するタレント、インフルエンサー、文化人、著名人などのキャスティングを行う電通グループ企業です。
 

カメラマン:藤川直⽮ ライター:佐々⽊翔

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