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広告のtasukiNo.2

広告はゴールに向かって、たすきをつないでいく仕事。斎藤工×阿部広太郎

2022/08/24

tasuki

企画、キャスティング、撮影、編集……たくさんの人の力をつないで完成を目指していく広告。

スタートからゴールに向かうまで、どんな気持ちで取り組んでいるのか?そこにはどんなドラマがあるのか?

広告に託した思いをもっと知りたいという一心で、出演者の方や、つくり手の方に、コピーライターの阿部広太郎氏がお話を伺っていく、電通キャスティングアンドエンタテインメントの連載企画「広告のtasuki」。

前回に引き続き、俳優、映画監督として活躍する斎藤工さんとの対談をお送りします。

斎藤工さん
 

主観と客観を反復することで、誰かの抱くイメージから自由でいられる

斎藤工さん

阿部:私が斎藤さんに抱いている印象は、みんながその顔を知っている圧倒的にマジョリティ(多数派)な印象なんですが、どこかマイノリティ(少数派)な佇まいも感じていて。どこか“得体の知れなさ”を感じるんですよね。

斎藤:それは僕が10代の時に『深夜特急』に憧れてバックパッカーとして世界中を旅していたからなんでしょうか。海外の世界地図ってイギリスが真ん中なんですよね。日本は極東の小さな島国。それを見た時に、マジョリティだと思っていたものが、マイノリティだったんだと逆転したんです。「はみ出していても問題ないんだろうな」という不思議な納得感を得たというか。

阿部:なるほど。そのお話を伺ってすごく納得しました。斎藤さんは主観と俯瞰を反復することで、いくつものイメージ像を獲得されているんですね。結果的に、誰かの抱くイメージから自由なんだなと。

斎藤:そうかもしれないです。視点が変わった経験を忘れないために、僕の家にはイギリス中心の世界地図を今でも飾ってありますから。

阿部:他にもマイノリティとマジョリティが切り替わる体験は何かありましたか?

斎藤:例えば、オーディション。僕がオーディションに手ごたえを感じ始めたのは、審査を受ける人は皆、背伸びをしていることに気が付いたからですね。「良い所を見せたい」って願望は、実はマジョリティなんですよね。もちろん僕も最初はそうでした(笑)。

阿部:みんながみんな張り切ってオーディションに挑むということですよね。

斎藤:そうですね。でも、審査員の立場だと、それをずっと見させられるのは苦行なのかなって。審査員は一緒に作品を作る仲間を求めています。それなら背伸びではなく、等身大でオーディションを受け始めたら不思議と受かり始めました。

阿部:受けに来る人がどんなスタンスでいるかはきっと審査員も分かるんでしょうね。落ち着いて、全体を見る余裕を持つことで、自分はどうすべきなのか?周囲の逆を意識することで、結果的に適切な立ちふるまいになる、と。

斎藤:自分の見え方を「これならだいたい嫌われないだろう」と考えているうちは、周りと同じマジョリティなんですよ。そうではなく、自分の中にあるマニアックな部分も恐れずに出すことができれば、逆にマイノリティになれる。これが星の数ほど落ちてきたオーディションから得た教訓ですね。

得体の知れない感が作品作りのインスピレーションに?

阿部広太郎さん

阿部:今年話題の映画『シン・ウルトラマン』についても少しお話を伺いたいです。

斎藤:誰もが知っているウルトラマンをああいうかたちにアップデートしたことに、さすがは樋口さんと庵野さんだなと思いましたね。そもそもの『ウルトラマン』という概念には、地球の外から見た時に地球人って本当に必要なんだろうかって視点も入っていると思うんです。人間と地球外生物の狭間に立つ存在、そういう要素が映画にもしっかりと描かれていると思いますね。

阿部:そして、斎藤さんは主演を務められています。

斎藤:これは樋口監督から聞いた話で、僕は『シン・ゴジラ』に参加させてもらったんですが、その時に庵野さんが僕のことを見て、一気に作品作りが進んだらしいんです。さきほど言われた“得体の知れなさ”ではないですが、もしかしたらその時に何か作品作りにつながるインスピレーションが生まれていたとしたら、とても光栄なことですね。

阿部:お伺いしたかったのが、作品に呼ばれ続けるために、何か心掛けていることはありますか?

斎藤:さきほどのオーディションの話もそうですが、俳優を続けるのが意外と大事なことではないのでしょうか。20代の頃は石を投げれば同世代にあたっていました。でも、徐々に役者以外の道を選ぶ人が増えていって同世代は減っていきます。そうすると、自分の価値が上がっていくので。

広告にもいつか終わりがくる。だから、今の時間を強烈なものにしたい

阿部:Netflixでドラマ『ヒヤマケンタロウの妊娠』を見させて頂きました。続きが気になりすぎて一気見してしまいましたが、斎藤さんが演じた主人公は広告会社勤務です。実際に演じてみてどうでしたか?

斎藤:男性が妊娠するというコメディー作品なので、いかにさらっとか描くかが大事になりますが、それでもかなりリアルな作りだったと思っています。とくに広告会社という社会的にはマイノリティな立場の存在が、マジョリティにひっくりかえっていく感じは見応えがあると思います。

阿部:僕は広告の仕事というのは、板挟みになる仕事だとも思っています。でも、物語の中で主人公のヒヤマが、この場の命運を握っているのは自分だと理解して、主体的に動き始めた瞬間に仕事のダイナミズムを感じました。

斎藤:広告の仕事って大変ですよね。本当に板挟みだと思います。でも、ちょっと俯瞰で考えたら、契約関係というのは未来永劫続くわけではないですからね。ドラマと同じようにクールがあって、いずれは終わりが来て、たすきをつなぎ、バトンタッチする。自分が担当した商品が次の人に移っていく経験を何度もしていますので。それは仕方がないことですよね。

阿部:広告は、背負って走って次につないでいくんですよね。

斎藤:僕が新しい広告の仕事を頂いたときに最初に思うのは、いつかは終わりが来るということ。「メメント・モリ(死を意識せよ)」という言葉じゃないですけど、終わりを意識して向き合った方が、今の時間が強烈なものになると思いますね。

阿部:斎藤さんに最後に伺いたいのは、キャスティングをされる立場として、どんな向き合い方をされるのがうれしいでしょうか? 広告に携わる人間としてすごく知りたいことなんです。

斎藤:一番うれしいのは、ご紹介して頂いたオーディションに落ちたとしても、同じ担当者の方から別のオーディションに声をかけてもらった時です。やっぱり落ちたら役者は傷つきます。でも、「この人はまだ僕に可能性を感じてくれているんだ」って思えると元気が湧いてきます。親や事務所や熱烈なファンの人たちとはまた違った、対等な立場の広告に携わる方たちが、自分の価値を見続けてくれているのはとても心強いんですよ。

阿部:その人や商品の魅力を代弁する存在は、すごく大事ですよね。それがまさに広告の役割だと感じています。

斎藤:結果につながらなかったとしても、1歩でも2歩でも一緒に走ってくれた仲間がいたことがうれしいんです。僕自身もそうですが、上手くいかない時期が続くと苦しくなりますが、声をかけてくれる存在がいればもう少しだけ頑張れる。僕ら俳優というのは、見てくれる人がいないと成り立ちません。そこに光を与えてくれて、価値を生み出してくれるのが広告のお仕事。僕らにとって広告業界の人というのは、魔法使いみたいな存在なんです。

斎藤工さん
電通キャスティングアンドエンタテインメントは、広告、映画、イベントに関するタレント、インフルエンサー、文化人、著名人などのキャスティングを行う電通グループ企業です。
 
カメラマン:藤川直⽮ ライター:佐々⽊翔

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