【ウェブ電通報10周年】あの人気記事の、その後が知りたいNo.3
あれから10年。近頃の若者は?
2023/11/20
古市憲寿×西井美保子:前編「不安はデフォルト? つながり時代の若者考」(2014年1月8日)
ウェブ電通報10周年振り返り企画、今回は、若者の変化編です!
ウェブ電通報では、電通若者研究部のリサーチャー・西井美保子氏が、社会学者・古市憲寿氏と、建前なし(?)のリアルな若者論を交わし、大きな注目を集めました。
不安であることがデフォルトとして生きていく
(前略)
西井:とはいえ、制度とかも含めてだと思うんですけど、そのマインドを変えることってそんなにたやすくないと感じます。じゃあ若者の生き方として、不安を乗り越えるために何ができるのかなって。
古市:不安を解消させてくれるものは、今はやっぱり仲間しかないんでしょうね。昔だったら家庭とか地域とか会社とかいろいろあったと思うんですけど、もはやそれらが自分の一生を預けられる存在には思えない。でも仲間って実はもろいものだったりもするじゃないですか? だから結局不安が消えることはないんですよ。本当は逆に、不安であることはデフォルトで不安とともに生きていける人が増えていくともっといい。
西井:なるほど。不安との新しい付き合い方みたいな?
古市:社会が安定するなんてことはこれから先あり得ない。だとしたらもう、不安は当たり前で生きていくしかないと思うんですよ。
(「古市憲寿×西井美保子:前編「不安はデフォルト? つながり時代の若者考」」より引用)
この対談が行われた2014年は、まだ「Z世代」という言葉は世間に広まっておらず、「コロナ」もなかった時代。あれから10年がたち、若者を取り巻く環境は大きく変化しました。
若者を「最初に新しくなる人」と捉えてさまざまな角度から見つめ、企業や日本社会の未来のヒントを探ってきた、電通のラボ「電通若者研究部(以下、電通ワカモン)」。
2023年の若者はどのような姿をしているのか。彼らのマインド、キャリアデザインなど、「近頃の若者は?」という問いかけに西井氏が答えます。
〈目次〉
▼若者の価値観が、のちに社会一般の価値観になる
▼多くの選択肢の中から、自分の判断軸を持って最適解を選べるか?
▼幸せや成功の形が変わる時代
若者の価値観が、のちに社会一般の価値観になる
2012年に電通ワカモンを正式に立ち上げて以来、若者のいろいろなインサイトを探ってきました。ウェブ電通報では、2013年から16年にかけて「ワカモンのすべて」という全56回の連載で多角的に若者を考察しています。古市さんとの対談記事は連載開始直後の2014年1月に公開されました。対談内容を振り返ると、いまの時代に通ずる価値観やマインドがあると感じます。
若者の価値観が、のちに他の世代に広がり、社会で一般的になることは珍しくありません。その象徴の一つが、2022年に「タイパ」が流行語大賞を受賞したことです。当時から若者の間では「お金より時間重視」という考え方が広まりつつありました。
電通ワカモンはいろいろな企業と仕事をしています。企業からの相談は、いわゆる「若者にモノを買ってもらうにはどうしたらいいのか?」といった内容が多いのですが、2014年当時もいまも、若者は「マーケット」として捉えるとその規模は小さなものです。少子化が加速していますから、規模は今後さらに縮小していくでしょう。
しかし「マーケット」としてでなく、若者を「新しい価値観を持ち、未来を創造していく存在」と捉え、「若者に向き合うこと=未来に向き合うこと」と考えると、「企業や社会のこれから」のヒントがたくさん見えてきます。実際、この10年間で「若者の新しい価値観を理解して、会社や事業を変革していきたい」と考える企業が増えてきました。
多くの選択肢の中から、自分の判断軸を持って最適解を選べるか?
2014年当時の若者のマインドとして特徴的だったのは、「不安であることがデフォルトとして生きていく」です。安定社会が崩壊して格差が拡大する中で多くの若者が「不満はないけど不安」を感じていました。そして自分の不安を解消させられるものは仲間であり、幸せを左右するのは仲間との「つながり」でした。
ちょうどTwitter(現X)やInstagramが急速に普及し、人とのつながりが急に透明性を帯びて、自分が所属するグループが可視化されるようになったころです。そこでは「自分がどう思うかよりも、みんながどう思っているかの方が大事」という価値観が広まりました。そのようなマインドの変化を私たちは「IからWeへ」と表現しました。
消費においても、みんなと違うものを買う場合、なぜ違うものを買うのか、その理由をつける必要がありました。「あえて何々する」という言葉がはやったのも、「みんなとつながっていないと不安」というマインドの表れだったのでしょう。
あれから10年がたちました。電通ワカモンの調査では、自分の将来に不安を感じている若者の割合は、2012年は63.9%、2021年は64.1%でほとんど変わっていません。ただし、不安の中身は変わってきています。
いまの若者はSNSなどで人との関係性が見える化されていることが当たり前の環境で育ってきました。すると「IからWe」の「We」が溶け始めて、「I」への揺り戻しが起こる。理由づけ消費の根幹にもあった「みんなと違うことが不安」といったマインドは少なくなっています。逆にみんなと自分との違いが大事になり、自分の感性を優先するようになってきました。
「I」への揺り戻しには、コロナも大きく影響しました。リアルがないので勉強でもなんでも受動的に待っていては情報が入ってこない。そうなると、「みんなで一斉にやることが大事」という価値観が薄れて、自分で能動的に働きかける姿勢が求められます。
加えて10年前とは家庭環境が違うことも見逃せません。2014年ごろの若者の親はバブル世代が多く、親子コーデがはやるなど、友達感覚で一緒に物事を楽しむような「楽観性」がありました。
それに対して、いまの若者の親は、就職氷河期を経験した世代も増えています。不況で就職に苦しみ、非正規雇用も多く、「明日はどうなるかわからない」という思いで生きてきた世代です。子どもには自分の頭で考えてサバイブできる能力を身につけさせたいと真剣に考えている方が多く、ここ5年ぐらい教育投資が過熱しているのもその表れだと思います。
さて、このような「I」への揺り戻しが起きる中でいまの若者は選択肢が増えたことによる不安を抱えています。進学は一流大学に行かなくてもいい。就職は大企業に入らなくてもいい。「一番星」に昔ほど価値が置かれていない時代。もちろん、学校も会社も行くならいいところがいいけど、その「いいところ」は偏差値や規模が指標ではなく、自分の価値観に照らし合わせていいと思うところです。
他にも、就職せずに起業するという選択肢もあれば、在学中から起業してもいい。就活も、いまは大学1年時に企業から内定をもらうこともあるし、長期インターンに参加することもできる。以前は、学生から社会人へはっきりとスイッチングしていたのが、いまは学ぶことから働くことへの変化がグラデーションのようになりつつあります。
「みんながいいと思うものがいい」という価値観が本当の意味でなくなったいまの時代。いろいろな選択肢がある中で、自分にとって最適な答えは自分で選ぶ必要があり、そのための判断軸を自分で持たなければいけない。そんな圧力がいまの若者にはかかっていて、その圧力は今後さらに強くなっていく気がします。
「いまの若者は効率重視」とよく言われますが、それを単に「遠回りすることが嫌い」と解釈するのは少し飛躍があります。無数に正解があるので選べない。でも自分で意思決定して生きていく必要がある。そのような状況下では、迷いながら未来に進むというよりも、先に未来を描き、目標に対して効率よく必要なことを行う「バックキャスト」の考え方になってきていると感じます。
幸せや成功の形が変わる時代
自分軸で自分にとっての最適解を選ばないといけない、という圧力を感じつつも、いまの若者はそんな状況自体を楽しんでいる部分も見受けられます。一言で言うと「Win-Winバランス型」で、社会を俯瞰(ふかん)的に見る目線を持ちつつ、自分の人生がどうあれば楽しいか、「ちょうどいいバランス」を取ろうと模索しているように見えます。
そういう意味では、かつて日本にあった「個の時代」とは性質が違います。かつての個の時代は、他人のことは考えずに自分の考えを優先する「個人最適」という価値観が重視されていました。それまではみんな一斉横並びを強制されていた時代でしたが、学習指導要領の変更などで、やっと自分で考えることが許される時代になりました。
しかしいまは自分を優先しつつ、コミュニティもみんなの気持ちの良いものであってほしいという考えが主流です。ゆとり教育から続く、競い合いたくないマインドのようなものが残っているのでしょう。若者は「全体最適の中での自分」を探しているように見えます。
最後に、これからは幸せや成功の定義が変わってくると考えています。いわゆる「一流大学に入って一流企業にいって、都市部に住む」といったような、資本主義的な価値観のもとで幸せとされてきたことが減っていく。例えば、地方で豊かな自然に囲まれて心豊かに暮らすことも幸せだし、ゲームをやり続けてメタバースの世界で成功することも成功と言える時代になっていく気がします。
そこでは他者から見て幸せか成功かは関係なく、「自分で選んだか、選んでないかの二分化」が起こるのではないでしょうか。自分の判断軸を持っているかどうかで幸せが変わってくるので、いままでの幸せという価値観の中では幸せではなかった人たちが幸せに転じるといったことが若者の中で起こってくるかもしれません。
2014年ごろは、「ワーク・ライフ・バランス」という言葉がはやり、仕事も大事だけど、自分の時間も大事という価値観が定着し始めました。それがいまは「ワーク・イン・ライフ」という価値観に変わってきています。仕事とプライベートは分断されたものではなく、「そもそも全部ライフだよね」という価値観。自分の時間の中で働くことがどう心地よくあるべきか、自分が成長するためにはどうすればいいかと皆が考え始めている。これも、幸せや成功の定義が変わる前兆のように感じます。