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【ウェブ電通報10周年】あの人気記事の、その後が知りたいNo.2

写真から動画、そしてショート動画へ。若者とメディアの関係性はどう変わった?

2023/11/13

なぜ若者は写真アプリに夢中になるのか、その利用実態から見えてきたこと(2015年12月25日)

ウェブ電通報10年振り返り企画、今回はZ世代に人気のコミュニケーションアプリ潮流に見る、若者とメディアの関係編です!

ウェブ電通報がスタートしてからも、若者が利用するコミュニケーションアプリのトレンドやメディアとの関わり方は常に変化してきました。こうしたコミュニケーションツールの潮流に関しては、電通総研メディアイノベーション研究部によるウェブ電通報のコラム「ドミニク・チェンさんと考えるビジュアルコミュニケーションの未来」連載が注目を集めました。


Instagram、Twitter、Vine、Facebook、YouTube、Snapchat、MixChannel…ビジュアルコミュニケーションアプリの使い分け方を探る

(前略)

設樂:その一方で自慢的な写真が多いところで敬遠するユーザーも。Instagramは「いい感じの写真を投稿する」という、ユーザー間で自然発生的にできた暗黙のルールが存在し、負の要素やダサさがご法度なので、そのオシャレすぎる空気に「インスタ疲れ」する人もいます。

カップルが明らかに一緒にいるのに、向こうに男性の手だけ載せて、いることを「漂わせ」る「漂わせ投稿」というのもあります。

天野:高度なアピール、あるいは顕示的な空間になっているんですね。都市からSNSへ、見せびらかしの場が変わってきているというトレンドを映し出しているのかも。

設樂:Instagramの他によく使用しているアプリは、Twitter、Vine、Facebookなど。以前から使っていたTwitterやFacebookでも文字要素が減り、写真や動画のシェアの割合が高まっています。

天野:スマホの向きを縦にして見るか、横にして見るか、縦型視聴/横型視聴というメディア受容のあり方も最近注目されていますね。

Instagramだとスクエアな写真がかっこいい、Vineみたいな短く見られるものは縦型視聴がいいとか、でもYouTubeでゆっくり好きなアーティストのライブを見るときは横がいいといった声も聞かれました。

動画の見方がSNSやキュレーションサービスからの導線の中で消費されるようなものになっているので、普段通り縦のままで見ることが増えているとも考えられます。

(連載第1回「なぜ若者は写真アプリに夢中になるのか、その利用実態から見えてきたこと」より引用)


・「ドミニク・チェンさんと考えるビジュアルコミュニケーションの未来」連載はこちら

 

この記事から約8年。動画アプリは、より短くキャッチ―な動画を楽しめるTikTokやYouTube Shortsなどが隆盛を誇るように。また、Twitterが「X」と名称を変え、仕様変更が繰り返されるなど、アプリ自体にも継続的な変化が見込まれています。

今回はウェブ電通報10周年企画として、当時の座談会に参加し、その後もコミュニケーションアプリやメディアの潮流にまつわる多くの記事を執筆されている天野彬氏に、8年経った今感じている「若者とメディアの関係性の変化」をテーマに寄稿していただきました。

<目次>

8年間で大きく変化したSNSサービスの潮流

アルゴリズム×タイパ時代の情報行動

AIDMA、AISAS、 そしてALSASへの拡張

若者とメディアのこれから―新しい接点はどう生まれるか―

8年間で大きく変化したSNSサービスの潮流

今回のウェブ電通報 10年振り返り企画にあわせて2015年の記事を読み返してみたわけだが、このたった約8年で大きく状況が変わってしまっていることに改めて驚きを感じる。この領域の移り変わりがいかに速いのかが示されていると言えるだろう。

筆者は2014年から2015年にかけて若者とメディアの関係性について集中的にリサーチを行っていたが、当時Instagramのブームはどんどん熱を帯び、2017年には「インスタ映え」が新語流行語大賞を獲得した。同年10月には、それをテーマにした単著「シェアしたがる心理―SNSの情報環境を読み解く7つの視点―」を出版する流れとなった。

10周年企画#3_書影①
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トレンドやライフスタイルを発信するインスタグラマーが脚光を浴び、同時期に隆盛したユーチューバーとともに、この頃からインフルエンサーマーケティングが世の中に定着していった――。なお、同じく2017年には三省堂の「今年の新語」の2位に「インフルエンサー」が選出されている。

このインフルエンサーマーケティングをめぐっては、その強みはどこなのかを探る記事をウェブ電通報でも発信した。

・関連記事:インフルエンサーの強みは“信望性”。YouTubeクリエイターのすごさを考える

 

SNSマーケティング自体は2010年前後から注目され始めていたものの、明確にこの時期が“フェーズ2”と呼びうるタイミングだったと感じる。実際に、業務の面でも、「SNSマーケティングのトレンドが知りたい」「SNS活用のコンサルティングをお願いしたい」といったニーズが増えていった。今ではもう、企業によるSNS活用は“当たり前”のものとなっている。

そして2018年には日本で流行の兆しを見せ始め、現在に至るまでの約5年で急成長を遂げた。TikTokだけではなく、Instagram Reels、YouTube Shorts、LINE VOOMなどショート動画がマーケティング施策の中に当たり前のように組み込まれるようになっている。

・関連記事:TikTokの革新性とショート動画のこれから

 

筆者も社内でTikTok活用のプロジェクト「TikTok Solution Lab」を率いており、昨年にはその知見等もおさめた新著を上梓している。

10周年企画#3_書影②
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Blogから旧Twitterへと連なるテキストベースのサービスが受け入れられ、Instagramのようなビジュアル中心のサービスが流行し、そしてYouTubeなどの動画サービスが普及した後、よりタイパを求めて“その中間”にあたるようなショート動画サービスが盛り上がるという潮流。振り返ると、そういった大局観が浮かび上がってくるように思われる。ユーザーのまだ満たされぬニーズを埋めるように、次々と新たなサービス領域が勃興してくるのだ。

アルゴリズム×タイパ時代の情報行動

この8年ほどでサービスの移り変わりとともに変化したのが、私たちの情報収集のありかただ。日々流通する情報量がさらに格段に増えており、その取捨選択が重要になっている。昔とは逆に、情報よりもそれを受け取る人々の「余暇時間・可処分時間」の方が稀少財になっている。

10周年企画#3_図版01

図表1のように情報メディア環境は変化を遂げてきた。この10年ほどはSNSが盛り上がり、私たちは自分の友人知人や信頼するオピニオンリーダー・インフルエンサーの情報を頼りにするようになった。ハッシュタグ検索をベースに、SNSで情報探索をする生活者のアクティビティを見て、私は「ググるからタグるへ」というキーワードをかつて発表した。

・関連記事:SNSで情報を探す時代へ:「ググる」から「タグる」へのシフト

 

サーチエンジンからSNSへの時代にかけて、生活者は能動的に情報を探し、発見するというスタイルを深めていったと言える。しかしながら、今では機械がおすすめする情報を頼りにするようにどんどんシフトしていないだろうか?つまり、先の記事で触れた「SNSを通じた共感・エンゲージメント」の時代から、「AI/アルゴリズムによるアテンション」の時代へとシフトしつつあるというわけだ(もちろん、図式的な整理なので、きれいにゼロイチで移り変わるわけではなく併存することになるが)。

原理的にある程度の「タイパ(タイムパフォーマンス)」を求めざるを得ない私たちにとって、アルゴリズムによるスクリーニングとレコメンデーションは必須のものとなった。言い換えれば、現代は「コンテンツがユーザーを発見する」時代なのだ。

AIDMA、AISAS、 そしてALSASへの拡張

広告マーケティングの領域では、生活者の心理・行動プロセスについてのモデル化が盛んに議論されてきた。1920年代に提唱された「AIDMA」と、2004年に提唱された「AISAS」が最もよく知られたものだろう。

そして私が著書等で最近提唱しているのが、「ALSAS」。

「ALgorithm:アルゴリズム」→「Sympathy:共感」→「Action:行動」→「Share:共有」

の頭字語で、重要なのは冒頭の「AL」だ。これはSNSなどの場でユーザーごとに適した情報を表示させる仕組みが、多くの生活者の重要なコンタクトポイントの座を占めるようになったことを指している。

10周年企画#3_図版02

AIDMAは受動的な情報接触(生活者は受動態=情報を受け取る)、AISASは能動的な情報接触(生活者は能動態=情報を探す)であるのに対して、ALSASは“中動的”な情報接触(生活者は中動態=情報プロセスの中に組み込まれる)と描き分けることができる。

私たちの行動履歴がAIにとっての学習データとなり、それが「おすすめ」として戻ってくるという再帰的な情報との出合い方を指し示すには、中動態という語を活用するのが最も適していると考える。

本記事では詳しくは言及しないが、中動態をめぐる議論は國分功一郎氏(東京大学大学院総合文化研究科教授)の著作やインタビューなどに詳しい。広告コミュニケーションや若年層の情報行動の文脈から、この概念を活用していく余地はまだまだあるはずだと感じている。

若者とメディアのこれから―新しい接点はどう生まれるか―

2015年を振り返りつつの2023年時点での雑感を記してきたが、今後も引き続きこの領域にはさまざまな新興SNSが出てくることが予想される。

執筆時点でいうと、「BeReal」のような写真共有サービスが流行するのも興味深いトレンドだ。BeReal に投稿できるのは毎日1回のみで、ランダムな時間に投稿を促す通知が来るようになっており、準備して撮った(保存された)写真ではなく、そのときのありのままのリアルな写真を投稿する仕組みになっている。若年層を中心に支持が広がっている背景には、いわゆる「映え」のカルチャーをつくってきた既存SNSへのカウンター心理が関係していると読み取ることができる。

とはいえ、既存のSNSをリプレイスするほどの展開性を見せるかどうかは不透明。巨大なユーザー母体を抱えるプラットフォームサービスの存在感は、その時々の上がり下がりはあれども、安定した盤石性を有しており、そこには一つの「ネットワーク効果」が働くからだ。

ネットワーク効果とは、「物やサービスの価値が、それを利用するユーザーの数に依存して増えたり減ったりすること」。特にSNSは誰が使っているかが価値を持つので、その最たるものだといえる――反対の例を挙げれば、冷蔵庫ならその使い勝手や機能価値で選ぶだろう。多くのユーザーが既に使っているSNSは、ネットワーク効果が働くことによって、その価値が低減しにくくなるのだ(逆に競合が入ってきにくくなるともいえる)。

・関連記事:三大SNSの特性と支持を得た理由

 

とはいえ、既存の巨大なSNSがカバーしきれないニーズは何かしら存在する。そのニーズを満たすニッチ(隙間)に入り込むように、新興のSNSが出現する。既存の巨大SNSと新興SNSが併存しつつ、部分的に新陳代謝していくというサイクルが今後も繰り返されていくだろう。

もう一つ、私が今最も注目するトピックスは、生成AIがどのように使われるか、それがソーシャルメディアの生態系の中でどんな役割を果たすのかということ。SNS(ないし広義の意味でのソーシャルメディア)の価値とは、つまるところ、そこで流通するUGC(ユーザー生成コンテンツ)の量と質によって左右されるものであるからだ。

ユーザーが生成AIを使ってリッチなコンテンツを簡単につくれるようになれば、UGCの存在感はさらに増していくはず。例えば、アメリカではトップティア(一流)のミュージシャンの声を合成して、曲を歌わせる「架空カラオケ」の音源がショート動画サービス上でバイラル(※)した。

そうした動きを禁止するよう求めるミュージシャンもいれば、「自分の声を使ってもいいけどロイヤリティの半分はもらう」と利活用を認める立場も存在する。こうした作り手の多くはそのミュージシャンのファンであり、いわば「推し活」の実践としての生成AIを活用したUGC創出・拡散だと考えられるのだ。

※バイラル = 口コミによって情報が少しずつ拡散していくこと。

 

広告コミュニケーション領域でも事例化が見られ始めている。例えば、直近のカンヌライオンズを受賞していたハインツの「A.I. Ketchup」は、生成AIを活用してブランドにまつわるケチャップについての絵(UGC)を募集し、プロモーションにうまく活用。従来のSNS施策よりも高い話題化とブランドへの愛着度の上昇をもたらしたことが評価された。

このようにして、新しいテクノロジーは、ブランドやメディアと生活者とをこれまでにないかたちで結びつける。特に若年層のメディア利用・情報行動に注目しなければならないのは、新しいものへいち早く順応し、そういった「既存のルール」を鮮やかに更新していってくれるからに他ならない。

このテーマが奥深いのは、それが広く社会全体の変化と地続きになっているためだと改めて感じている。多くの人々にとって意義ある知見開発・発信ができるように、今後もそのシフトのあり方を探究していきたいと考えている。

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