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OODA式すごい組織づくりNo.5

世界で活躍する“花人”のクリエイティブを支える「観察力」。

2023/12/25

OODA

変化の激しい現代のビジネス課題を解決に導く意思決定モデルとして、注目を集めている「OODA」(ウーダ)。

本連載では、さまざまな業界の“OODA実践者”との対話を通して、OODAの魅力とこれからの時代に必要なリーダーシップを身に付けるためのヒントを発信します。

前回に引き続き、花を飾る「装花」という仕事で世界で活躍する花人(かじん)の赤井勝氏、「OODA式リーダーシップ 世界が認めた最強ドクトリン」(秀和システム)を執筆したアーロン・ズー氏の対談をお届け。

今回は赤井氏のクリエイティブやチームビルディングの秘訣に迫ります。

【OODAとは】

OODAループ

 
元アメリカ空軍大佐で戦闘機のパイロットだったジョン・ボイド氏が提唱した、意思決定や行動を起こすためのプロセス。観察(Observe)、判断(Orient)、決定(Decide)、行動(Act)の頭文字を取った言葉で、変化し続ける予測不能な状況に対して、常に最善手を打っていくことを目的とする。欧米の経営やマーケティングでは従来のPDCAだけでなく、OODAが必要不可欠な意思決定プロセスとして認知されている。(詳しくはこちら)。
 


同じ場所を、違う角度から観察してみる

アーロン:前回は「装花」というお仕事について、そして「花人」というネーミングに込められた思いを教えていただきました。今回は赤井先生の仕事の流儀やクリエイティビティをさらに掘り下げてお聞きしたいと思います。まず、赤井先生は仕事の依頼を受けてからどのようなプロセスで作品を作っていくのでしょうか?

赤井:たとえばイベント用の装花であれば、まずは主催者やプロデューサーに、イベントの目的やそこに込められた思いなどを詳しくお聞きします。やっぱり会話をしていく中で、いろんなワードを投げかけてもらえるんですよね。「今回はここにこだわっているんだよね」とか、「こういう人たちが来るんだよね」とか。ちょっとしたひと言にヒントが隠れていたりするので、クライアントに直接会って話すことが大切です。

赤井勝

アーロン:確かに、会話の内容はもちろん、相手の雰囲気や空気感から着想を得ることもありますよね。

赤井:そうです。だから必ず現場に足を運ぶんですよ。全体の空気感も含めて、いろんなところを観察する。そして、同じ場所でも見る角度を変えてみると、新しい発見があったりするんです

アーロン:角度を変える、とはどういうことでしょうか?

赤井:たとえばエントランスに花を装う場合、お客さんがタクシーに乗ってきて目の前で降りてくるのか、自家用車を駐車場に停めて歩いてくるのかで見える景色は違いますよね。来場する時間も同じです。何時ごろにやってきて、その時の日の入り方はどうなっているのか。いろんな角度からの見え方を一つ一つ確かめるんです。

アーロン:なるほど、まずは情報を収集するんですね。OODAを構成する要素の一つ「観察(Observe)」においても、あくまでも客観的に物事を観察することを重視しています。

赤井:あらゆる情報を集めた上で、お客さんにどんな気持ちになってもらいたいのか、何をどのように装うのかを考えるんです。たとえば、アーロンさんとゲストの対談であれば、お二人のサイドや後方にそれぞれ花を飾るのがセオリーです。でも、壁一面を花でジャックしたり、じゅうたんのように床一面に花を敷き詰めたりすると、もっと派手で華やかな印象になりますよね。あるいは、あえてアーロンさんの後ろにだけ花を飾る。そして、トークの最後に「本来はゲストの方に花を飾りますよね。でも、僕と話すときにずっとお花を見てもらいたかったので、こっちに飾ってもらったんです」と言って締めてもらう。そんな演出もできるんです。

アーロン:面白いですね。私はOODAをビジネスに実装する上で、「その手があったか!」という驚きやワクワク感をもたらす「奇策」が重要だと考えているのですが、赤井先生の装花はまさに「奇策」と言えるようなクリエイティビティが発揮されているのだと思いました。

Akai Masaru
©️Akai Masaru

日常の「発見」が、クリエイティブの源泉に

アーロン:そのようなクリエイティブを生み出し続けるために、日常的に心がけていることはありますか?

アーロン・ズー

赤井:発見を大切にしています。僕はデパ地下によく行くんですけど、大体同じルートを回っているのに、いつもと違うところで立ち止まるときがあるんです。それは、お店が入れ替わって新しいお店が入ってきたときや、リニューアルして雰囲気が変わったとき、あるいは店員さんが変わったときや、商品が変わったときなど、いろんな要因があります。

そのときに「なんで今、止まったんやろ」と考えるんです。すると、「あ、リニューアルしてライティングが変わったんや」とか「この新商品が目に入って気になったんや」「このポップと商品の色の組み合わせが自分にとって斬新なんや」「いつもと違うエスカレーターで降りてきたから見え方が変わったんや」など、いろんなことに気づくんです。そういう発見が大事なのかなと。

アーロン:分かります。毎日通っている道だからこそ、違和感に気が付くこともありますよね。

話は変わりますが、OODAではチームを正しい方向に導くリーダーシップが、意思決定の精度とスピードを高める上で重要です。赤井先生もチームで仕事をすることが多いと思いますが、チームビルディングで重視していることはありますか?

赤井:アイデアを考えるときは、なるべく膝を突き合わせた打ち合わせをしないことですね。かしこまった打ち合わせだと、みんな良いことしか言わないんですよ(笑)。それよりも、移動中に花とは関係ない話題で盛り上がっているときや、片付けをしながらポツリと発してくれた言葉にヒントをもらえることのほうが多いんです。

アーロン:チームのメンバーや若手の意見を聞くタイプですか?

赤井:昔はああしろ、こうしろと自分で決めることが多かったのですが、年を重ねていくうちにみんなを頼るようになりました。やっぱり、近くにいる人間が一番客観的に僕のことを見てくれているんですよ。自分が考えている以上に攻めたアイデアを出してくれて、それを取り入れることもありますね。それこそ、いろんな角度から自分や花のことを気づかせてくれる。こういう言い方はおこがましいですけど、ほんまに財産やなって思いますね。

花のSDGsと向き合う

アーロン:赤井先生は装花でさまざまな人の気持ちや思いをカタチにしてきたと思いますが、これから携わっていきたいテーマはありますか?

赤井:僕は花が大好きなんですけど、ちょっと不安に思っていることもあるんです。それは、花のサステナビリティです。たとえば、野菜や果物は無農薬、あるいはできるだけ農薬を使わずに育てたものが市場に受け入れられていますが、花にはそのカテゴリーがありません。

いま、アフリカで花がたくさん育てられていて、技術力や運搬力が高まった結果、日本の輸入量も増えています。しかし、虫食いのない花を良い状態で届けるためには、農薬を使わないといけません。その花を買う人の健康だけでなく、アフリカの人たちの健康リスクも考えると、このままでいいのかという思いがあります。

アーロン:確かに、食品や自然環境に対するSDGsは広まりつつありますが、花は盲点だったかもしれません。

赤井:花で仕事をさせてもらっている僕が言える立場なのか分かりませんが、花を生業にする人間だからこそ、向き合わないといけないと思っています。

それから、これは仕事ではなくライフワークとしてですが、幼稚園や保育園の子どもたちに花を教える活動をしています。いま、花も画面で見ることが多いじゃないですか。でも、同じ畑で育った同種類のピンクの花でも、よく見ると1本1本少しずつ色が違うんです。ほかにもバラにはトゲがあることや、雑に触ると花がちぎれることなど、実際に目で見て触ってみることで、初めて分かることがたくさんあります。そういった機会を子どもたちに経験させてあげたい。時間が許す限りの小さな活動ではありますが、それが自分なりのSDGsであり、花への恩返しだと思っています。

赤井勝

アーロン:とてもすてきな活動ですね。

赤井:もう一つ夢があって、僕は月に花を装いたいと思っているんです。

アーロン:月に行くっていうことですか?

赤井:そうです。月に花を持って行き、世界で初めて月に花を飾った人になりたい。満月で餅つきをしているうさぎにちなんで、ススキを飾るのもいいなって考えています。

アーロン:それは壮大な夢ですね!

赤井:月で個展をひらくことになったら招待状を送ります(笑)。そんな大きな夢も抱きつつ、やっぱりまずはこの地球で花と向き合い、人と向き合いながら、装花させてもらうということを続けていきたい。そのためにも、花の持続可能性から目を背けてはいけないと思っています。

僕は虫食いの花だってすてきなんだと言いたい。だって、虫が植物を食べるのは自然なことじゃないですか。紅葉や落ち葉に季節の移り変わりを感じるように、虫に食われた花にも命の尊さや自然の美しさを感じ取ることができる。花に関わる人間として、今後はそういったことも伝えていきたいなって思います。

アーロン:赤井先生の大きな夢、そしてサステナビリティへの取り組みも含めて、今後のご活躍を応援しています。本日はありがとうございました。

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