loading...

ホリエモンの「世界最低性能ロケット」

日本発、宇宙ベンチャーの挑戦 №5

  • 堀江 貴文
  • 稲川 貴大
  • 笹川 真

2017/06/15

ホリエモンの「世界最低性能ロケット」

宇宙観測ロケット「モモ」2017年5月23日エンジン燃焼試験


日本発の宇宙ベンチャーを訪ね、宇宙をどのように活用できるかを探る本連載。今回は、日本初の民間観測ロケットの打ち上げを年内に控えるインターステラテクノロジズ(IST)のファウンダー堀江貴文氏、社長の稲川貴大氏に、電通の笹川真氏が聞きました。

彼らが目指すロケットは、なんと「世界最低性能」の小型ロケット。打ち上げ費用はクラウドファンディングで調達、出資額1000万円のコースにはロケットの発射ボタンを押せる権利が盛り込まれるなど、斬新な手法やアイデアも注目を集めています。

堀江貴文氏(中央)、稲川貴大氏(右)、笹川真氏(左)
ISTファウンダー堀江貴文氏(中央)、代表の稲川貴大氏(右)、電通の笹川真氏(左)

「量産」「使い捨て」で世界最低性能のロケットを目指す

笹川:宇宙の仕事って、夢とかロマンで語られることが多いのですが、お二人は徹底してリアリストですよね。

堀江:人類が初めて宇宙に行ったのは50年以上も前ですよ。なのに、いまだに普通の人は宇宙に行けていない。理由は単にコスト。宇宙開発の主導権は国にあって、産業として競争原理が働いていない。競争がないから安くする必要もない。安くなるはずもない。当たり前のことができていないんです。

稲川:ロケットの性能は、理論的には1960年代にほぼ完璧なものが完成していました。それでも世界中の宇宙研究は100%を目指し、改善を究めることに終始している。残り数%の改善がロケットにどれほどのインパクトを与えられるかといったら、ほぼないと思います。

堀江:だから僕らは、必要以上の性能を求めず、代わりにコストを大幅に抑える。移動手段としてのフェラーリとスーパーカブ。どちらがいいかといえば、もちろん買えるならフェラーリはいいけど、目的地にたどり着くための手段ならスーパーカブで十分なわけです。むしろ目的地によっては、小回りの効くスーパーカブの方が便利だったりすることもある。

笹川:ISTの「ロケット界のスーパーカブになる」というビジョン、いいですよね。

堀江:スポンサーに付いていただけるなら、スーパーカブが軽自動車になっても全然構いませんよ(笑)。

稲川:かつての人工衛星はマイクロバスくらいの重量で、そんな巨大で重いものを地上からロケットで運んでいたんです。それが半導体の進化により、小さくて高性能な人工衛星が作れるようになった。ケータイの進化と一緒です。

そういった超小型衛星を大量に飛ばして軌道に乗せて、地球を観測する。その観測データをビジネスにする会社が生まれている。日本ではアクセルスペース、アメリカには2016年末にソフトバンクが出資して注目されたOneWebなど、すでに多くのプレーヤーが存在しています。

堀江:僕らがやりたいのは、そういう超小型衛星を飛ばしたい人向けのバイク便。そのロケット版です。最高級のものを磨き上げて、国や大企業に納品させていただく「下町ロケット」のノリだと、宇宙産業の構造はずっと変わらない。コスト抑制のため、部品は可能な限り民生品。ロケットは再利用せずに使い捨て。これが僕らのロケットの特徴です。

堀江氏、稲川氏とインターステラテクノロジズの仲間たち
堀江氏、稲川氏とインターステラテクノロジズの仲間たち。手に抱えているのはグリコとのイベント用のポッキーロケットで、全長3.3メートル、重量22キロ

笹川:それを「世界最低性能のロケット」と表現されているんですね。ところで、再利用より使い捨ての方が安くなるんですか。スペースシャトルは再利用できましたし、スペースXのファルコン9でも実験を続けています。

堀江:それロケットあるあるです。再利用したくなるあるある。100回繰り返し使えば、費用も100分の1になるっていうけど、回収費とか膨大なメンテナンス費とかいろいろあって、コスト削減にそこまで寄与しない。歴史上、まだロケットの大量生産の事例はないけれど、量産効果によるコストダウンが有効ともくろんでいます。

稲川:量産化とコストダウンの相関関係は自動車で実証されています。自動車の開発は数億円かかりますが、数千台、数万台の生産数になると販売額は数百万円になり、2桁変わります。

笹川:衛星打ち上げロケットを量産化する場合、1機当たりの価格はどれくらいを想定していますか?

稲川:これまで億単位だったものを数千万円台と考えています。前述の通り、需要は生まれてきているので、量産さえ始まればどんどん安くできると考えます。

なつのロケット団からISTまで

ISTの前身は、1997年から活動しているアマチュアのロケット開発集団「なつのロケット団」。推力100~ 500キロ級のロケットエンジンをはじめロケットシステムなどを開発し、1号機「はるいちばん」から、江崎グリコの「みんなで飛ばそう!Pocky Rocketキャンペーン」の一環である「ポッキーロケット」まで打ち上げている

 

IST代表の稲川氏
代表の稲川氏は東工大に在学中、鳥人間コンテストや学生ロケット開発に熱中。2013年、大学院を卒業し某大手メーカーに入社する直前、5号機「ひなまつり」打ち上げ時にインターンで参加。最終日、堀江氏に口説かれ、即座に入社を決意した

クラウドファンディングで打ち上げ費用2270万円を調達

笹川:ISTの拠点は、ここ、東京のオフィスの他に、北海道の大樹町にありますが、大樹町を拠点に選ばれた理由は?

堀江:大樹町はもともとJAXAなどの実験施設もあり、宇宙産業に対する理解が深い町です。広大な土地を持ち、南側と東側が海に面していて、晴天率も高く気象条件が安定していてロケットの打ち上げに最適な環境です。

笹川:以前、僕が実験にお邪魔した時、大樹町に数千人規模の工場をつくりたい。5年後には、大樹町から1日10機のロケットを打ち上げることを目標に掲げていました。

堀江:スペースXは2002年に設立され、2004年にロケットエンジンの燃焼実験を、2007年に打ち上げを成功させて、今、社員は4000~5000人ともいわれている。このタイムラインを参考にすると、大樹町にISTの工場ができたのが2013年なので、5年後くらいに5000人が働く工場ができていてもおかしくないなって。

笹川:6000人弱の大樹町に5000人の雇用を生み出す。壮大な構想ですね。

堀江:ロケットビジネスのターゲットは日本国内だけではありません。アジアやアフリカには人工衛星さえ打ち上げたことのない国がある。「おらが国」の衛星をつくろうというビジネスもある。

大樹町の多目的航空公園には滑走路がありますが、少し延長させれば、ジェット旅客機も離着陸できるようになるから、海外から飛行機で衛星を運んで、大樹町から僕らのロケットで打ち上げることも可能になります。

笹川:その布石となる、観測ロケットの打ち上げ実験が2017年に予定されていますね。

稲川:エンジンの異常燃焼などのトラブルもあり、当初のスケジュールより後ろ倒しになっていますが、目の前の課題をクリアしながら着実にプロジェクトは進んでいます。打ち上げ予定の宇宙観測ロケット「モモ」は全長9.9メートル、重量990キロの、高度100キロに到達する性能を持つ観測ロケットです。

「モモ」
「モモ」のペイロード
「モモ」のペイロード(観測機器などの最大積載量)は20キロ。打ち上げ後100秒で燃焼を終え、そこから約4分間、微小重力状態となる

笹川:打ち上げ費用はクラウドファンディングで調達されましたね。目標額2700万円のうち、2270万円も集まったことに驚きました。この結果は想定内でしたか?

稲川:僕は不安でした…(笑)。

堀江:そうなの? 僕は集まると思っていました。笹川さんも協力してるHAKUTOがあれだけ注目を浴びているわけですから、宇宙への関心は確実に高まっている。以前に比べればお金が集まりやすいムードはあると思います。

笹川:このクラウドファウンディングもそうですが、堀江さんは広報の面で大きく貢献されていますよね。2016年6月に行われたDMM.make AKIBAでのISTの講演会にはサンジャポの記者も来ていましたし、囲み取材の後、聞きに来た若い人たちと1時間以上も順番にお話しされていたのが印象に残っています。

堀江:いやぁまだまだですね。もっと盛り上げていきたいですね。それに世間の目はシビアですから、結果を出さなければ認めてもらえないムードも同時に感じています。開発をスムーズに進めるためにも、今は人材が欲しいですね。

ISTの東京事務所
取材をした東京の事務所は工作機械だらけ。ここでは、ロケットの頭脳である電子基板や、液体燃料のタンクの下に取り付ける部品など、市販のものを組み合わせたり加工したりしながら自作している

目指すのは、月や火星ではなく小惑星

笹川:少し気が早いのですが、観測ロケット打ち上げ実験後のISTの展望を伺えますか。

稲川:観測ロケットをファーストステップとすると、それに成功した後、超小型衛星を軌道に投入するための、衛星打ち上げロケット開発とその量産化に向かう予定です。これがわれわれのセカンドステージとなります。観測ロケットと軌道投入ロケット。

一般の方には違いが分かりにくいのですが、技術レベルが大きく異なります。観測ロケットはあくまでもマイルストーン。地球の周りをぐるぐる回る軌道投入ロケットへの第一歩にすぎません。

堀江:衛星打ち上げロケットは2020年までに実用化させたいですね。それに成功したら、サードステージは地球近傍の小惑星探査ですね。

笹川:アメリカやUAEが目指す火星や、HAKUTOが目指す月ではなく、小惑星ですか!?

堀江:太陽系の外に出ようとすると、小惑星は補給基地としての中継地点にいい。資材や燃料を地球上から持ち出すことは非現実的だし、コストも重量も膨大になる。

月や火星にも金属資源はあるだろうけど、表層近くにはほぼないと想定されています。その点、小惑星は惑星のかけらなので鉄やニッケル、レアメタルがあるといわれています。

まれに鉄とニッケルが主成分の隕鉄が地球に落下しますよね。それらの資源が宇宙のどこかにあるという証左です。レアメタルやウランでできた小惑星もあるかもしれません。

稲川:月がゴールの人、火星がゴールの人。それぞれに目指すものがあると思うんですが、ISTはその先の足掛かりとしての小惑星なんです。ともあれ、サードステージ、セカンドステージの前に、ファーストステージである観測ロケットの成功が大前提です。

2016年7月にJAXAとわれわれはコンサルティング契約を結びました。セカンドステージの、軌道投入できるロケットを開発するために必要な設備、開発や試験内容などについてJAXAにコンサルティングしてもらう契約です。今後、共同研究を進めていくためにも、前段階の観測ロケットを成功させて、次につなげていきたいですね。

堀江貴文氏、稲川貴大氏

打ち上げボタンを押す権利は1000万円。得難い経験に消費の未来はある

笹川:クラウドファンディングの最高出資額1000万円のリターンとして「打ち上げボタンを押すことができる権利」を出されていましたね。

堀江:当初は冗談半分だったんですが、売れちゃいましたね。お金を稼ぐことよりも、特別な体験をすることが難しい。それに気付いてきた富裕層が増えてきている実感があります。

ひと昔前なら「お金持ちになったら、外国車や別荘、クルーザーを買って…」みたいな、ステレオタイプが存在していたけれど、それって結局、お金の使い方を他に知らなかったから。今は面白いことができるところにお金が集まる実感がある。

例えば、海外のビッグネームのミュージシャンがライブ終了後に、高額なプレミアムチケットを持っている人だけを集めてパーティーを開催するとかね。それを「モノ消費」から「コト消費」と言っちゃうと、ちょっぴり陳腐な表現にはなりますが。

堀江貴文氏、稲川貴大氏、笹川真氏

笹川:そういった消費の傾向は、個人だけでなく、企業にも当てはまる気がしますよね。広告費を活用して宇宙ベンチャーの活動を支えるとか、そうですよね。

堀江:もちろん当てはまります。そうした事例がどんどん増えて「惑星探査。宇宙ロケット。宇宙じゃなくても誰もやったことがない何か特別な体験をするのがカッコいい」というムードが生まれてほしい。電通には、そういった企業の食指がつい伸びてしまうシーズを見つけ出し、マッチングして、巻き込んで、露出を増やして、ムーブメントをつくっていくことに期待します。

笹川:期待に添えるよう、頑張ります。稲川さん、最後に一言。開発の近況なども教えていただいてもよろしいでしょうか。
稲川:現在は北海道で日々ロケットエンジンの研究開発をしているところで、成功もしますし、うまくいかなこともあります。そのうまくいかないことを乗り越えることで確実に技術が蓄積できているのを感じます。

ロケット開発は華やかなようで実は地道な検討や試験の連続なんですよね。ロケットビジネスを大きくしていけるよう一歩一歩開発を進めていきます。

堀江:僕は過去にベンチャー企業を成功させたわけですが、そのときの流れと重ね合せると、今のISTは、一番もどかしい時期ですね。でも、何年も日々努力をしていると、その積み重ねが一気に花開く時が来るんですよね。ISTがその時を迎えるその日のために、これからも一生懸命にやっていくつもりです。

笹川:観測ロケット打ち上げ、楽しみにしています。今日は、長い時間、ありがとうございました。