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人の心は、遠回りしないとつかめない!?〜急がば回れの不便益マーケティング〜No.1

2021/02/24

便利がいい?いや、不便があるともっといい!!

突然ですが、2020年、コロナウイルスに起因する暮らしの変化はあなたの意識をどう変えたでしょうか?

「会えない」
「行けない」
「話せない」

これまで当たり前だったはずのことが、突然できなくなりました。

中でも、誰もが制限されたであろう「移動の自由」。

あなたも不便をこうむったでしょうか。当たり前ながら、便利か不便かでいえば「不便」には違いありません。一方でリモート会議や音声SNSが当たり前になったことでもたらされた「便利な体験」の数々は、あなたにどんな益(Benefit)をもたらしているでしょうか?

「すぐに連絡できるけれど、距離感がつかめずストレスを感じる」
「会って話せば伝わるはずなのに、変な誤解が増えた」

そう感じている人もいるのではないでしょうか。しかもこれ、実際に経験してみるまでピンとこないことも多かったと思いませんか。

便利なのか?不便なのか?その境界線が溶けていく中で筆者が注目したいのは、

「人は本当は何を欲しがっているのか?」「心に残る体験はどうすればつくることができるか?」という問いでした。

この答えに迫る上で今回ご紹介したいのが、

便利が無条件に好ましいわけではなく、意図する/せざるに関わらず不便な状況がある、あるいは好んで不便を取り入れることによって、かえって喜びが生まれたり、共感できるタネが生まれる」という真理。

そして、この真理を「体験のデザイン」に生かす具体的な方法についてです。

連載全3回のうち初回のテーマは、

「便利がいい?いや、不便があるともっといい!!」

です。

不便益01

皆さんは「不便益」という考え方をご存じでしょうか?

 

不便益(ふべんえき)」という言葉。もしかすると、書籍やテレビ番組他で耳にしたことがあるかもしれません。

【不便益とは?】
京都大学の川上浩司特定教授を中心に2000年代から考えられてきた概念で、不便であるからこそ得られる効用のこと。現在、大学の垣根を越えた研究会やバーチャルな研究組織「不便益システム研究所」が運営され、自動車運転支援や観光支援など、さまざまな分野で実践されている。

 

具体的にいうと、以下のようなことを指します。

  • 造花は水をやる必要がなくて楽ちんだが、世話をしないと枯れてしまう生花に愛を注ぐ方が好きだ
  • 遠足のおやつは「300円まで」(なぜかいつの時代も)と制限されるからこそ、お菓子コーナーでは気合が入るのであり、その楽しさは今も覚えている
  • YouTubeでもアーティストのライブは見られるのに、わざわざ雨ガッパで山奥の夏フェス会場へ足を運び、どろんこずぶ濡れになって見たあの日のステージが忘れられない

いかがでしょうか(ご自身の体験を、ぜひ思い起こしてみてください)。

不便益02

これらの例に共通していえることは、

手間ひま(面倒)や遠回り、苦労、負荷がそこに存在することで、(存在しない場合に比べて)体験そのものが味わい深くなり、印象に残りやすい」ということ。

「あぁ〜そういうのあるよね、前から」と誰もが、なんとなく共感できるのではないでしょうか。

一方で、「これって昭和の時代を生きてきたおっちゃん、おばちゃんのノスタルジックな“愛で<メデ>”に過ぎないのでは?」(“映え<バエ>”に対して言ってみました)

そう感じた方もいるでしょう。

ところが、これは全然ノスタルジックな現象ではないという数字が出てきました。

川上先生とわれわれのチームでこの2年にわたり重ねてきた共同研究結果から見えたのは、「むしろ10代、20代、それも男性よりも女性の方がこの考え方への共感度や関心度が高い」という驚くべき事実です。

そうです。スマホ世代、デジタルネイティブ世代、Z世代(好きに呼んでもらって問題ないです。とにかく“便利”が当たり前の世代)にこそ刺さりまくっているという事実には何かヒントめいたものを感じる……そんなあなたは、もしかしてマーケティング界の住人の方でしょうか?

不便益調査01
DMI調査結果から抜粋

【便利への抵抗感(便利疲れ)】

  • 全体の4割弱(36.1%)が便利になりすぎることへの「抵抗感あり」。
  • 女性にその傾向が強い(10代と50代が突出)。
  • 女性はSNS疲れとも関係あり?もしくはAIや先進テクノロジーへの忌避感?
不便益調査02
 
不便益調査03
DMI調査結果から抜粋

ググれば一見正しいとおぼしき解が見つかり、料理をつくりたければどこにいても即座にレシピを引き出すことができる今、「それでは本当の自分のスキルとはいえないのではないか」などという、まるで人生100年時代の後半戦を生きてるんじゃないかと思えるような熱いコメントが、まさかの10〜20代の男女から出てきているのです。

AIやロボットが人間の行動を代替すればするほど、取り上げられてしまう「何か」

過剰な便利さに対して、人々が心地よくないと感じたり、どことない不安を抱くという事実は、いわゆる「スマホ疲れ」「SNS疲れ」「デジタルデトックス」といった、2000年代初頭から流行してきた言葉を振り返っても分かることです。

このことについて、川上先生の書籍では、「人間は目の前でそのしくみが理解できる道理=“物理”に根ざした安心を感じるようにできている(目をみて話を聞き、うなずきながらエンピツでメモをとるビジネスマンの方が目も合わせずにスマホとタブレットをスワイプしまくる“デキる風ビジネスマン”よりも信頼される)」といったメカニズムが紹介されています。なるほど“物理”かと、いたく腹に落ちました。

これ、カセットテープやレコードが若者の間で流行っているという現象にも当てはまります(レコード針が塩化ビニール盤の溝を這うことで音が出たり、鉛色のテープをヘッドが物理的にこすってるさまがクール!という視点)。

不便益04

あえて人間にしかできない「不便な活動を選んでする」行為は、共感のタネになったり、あるいは自身が喜びを感じて生きるための強い動機となる可能性に満ちていることがお分かりいただけたでしょうか。

ここで本連載のポイントを、ここでもう一度言わせてください。

不便益は工学の話にとどまらず、広告コミュニケーションとエクスペリエンスデザインの領域にも応用できる

そう気付いたのは、実は今から約2年前のことでした。

単純に従来のマーケティングや広告・宣伝においても、不便益の思考法は十分に機能するように思えます。しかし、そこから大きな変貌を遂げていった時代の意味に改めて思いをはせる今、当時の気付きはまだ入り口にすぎなかったのだと感じます。

企業のマーケティング手法は、消費行動の変容はもちろんのこと、その根底にある時代感覚の変化の影響を免れません。「モノ消費からコト消費へ」「パーパスブランディング」「インフルエンサーマーケティング」うんぬん……それぞれの時代をラベルしてきたマーケティングキーワードの根本にある、恒久普遍的な何かを解き明かす必要がある。その先で、「最適な不便」をデザインすることが可能になるはずだと考えました。

すべてが判明しきっていないことが価値。手探りの段階を共創に生かすコミュニティの誕生

「好んで取り入れる不便(たとえばあえて遠くまで行ってみること)は、それが難しくなってしまった今だからこそ、相対的な価値が高まっている。そればかりか、これからの時代は、不便益が心の豊かさそのものを生み出す力になるのではないか」。

そんな確信に近いものを抱きながら、25年ぶりに再会したある人物のことが頭に浮かびました。N=1をテーマにした顧客心理に関わる書籍を書かれたスマイルズ取締役・CCOの野崎亙さんです。私は早速、野崎さんにこの話をしてみました。

すると、野崎さんからは「スマイルズの顧客サービス設計や体験デザインの考え方は、松井さんが抱いた確信に非常に近い。文化人類学や行動心理学の観点からも類型化されるべき動機付けのきっかけが他にもあるはず。不便益を含め、これらを探求することに興味がある」と、構想が一気に広がっていきました。

ここから生まれたのが、『Undiscovered Benefit(不便益を含む未知なる益)』共同研究コミュニティです。

不便益を含む、便利の影に見落とされがちな価値観を総称して“Undiscovered Benefit 〜未知なる益〜”と名付け、企業活動にこれを生かすことで社会実装することを試みます。

不便益05

企業のマーケティング担当者はもちろん、クリエイター、プランナー、事業創造に携わる方々まで幅広く迎え入れる研究組織を2021年4月、スタートします。

私自身も約20年勤めた電通を退社し、生活者と企業・ブランドのなめらかなつながりを音楽やアート体験を通じて生み出す小さな法人を設立。元電通社員のライフシフトプラットフォーム「ニューホライズンコレクティブ」にも参画し、本コミュニティのオーガナイズと企画プロデュースに携わります。

現在、スマイルズ生活価値拡充研究所のサイトでは、研究生の募集を開始しています。「読む応募要項」と「聴く応募要項」がありますのでチェックしてみてください。


「Undiscovered Benefit(不便益を含む未知なる益)」の共同研究会研究生募集

株式会社スマイルズ(本社所在地:東京都目黒区、代表取締役社長:遠山正道、以下スマイルズ)の研究機関・スマイルズ生活価値拡充研究所(以下、スマ研)は、不便益研究の第一人者である、京都大学大学院情報学研究科の川上浩司特定教授、東京大学生産技術研究所の平岡敏洋特任教授、株式会社電通(本社:東京都港区、代表取締役社長執行役員:五十嵐 博、以下「電通」 )とともに、不便益を含めた「未知なる益=Undiscovered Benefit 」の共同研究コミュニティを発足、2021年2月24日(水)より研究生募集を開始します。(締め切り:2021年3月21日(日)24:00)

<活動概要>

LECTURE
毎月開講。川上教授、平岡教授を招いての「未知なる益」共同研究ゼミ。

不便益研究の第一人者・川上浩司特定教授(京都大学)、平岡敏洋特任教授(東京大学)、スマイルズCCO野崎亙氏を主な講師として2021年4月より9月までの半年間、毎月1〜2回のゼミを実施。シラバスの詳細はスマ研公式WEBサイトにて公開中。
https://smkn.smiles.co.jp/

UDB TALK
12カ月連続オンライントークイベント「UDB TALK」がこの4月よりスタート。豪華ゲストが登壇予定。

毎月「UDB TALK」を開催。さまざまな分野のエキスパートをお招きして、川上特定教授らとのセッションを通してこれからの「価値」を探究します。研究生は本イベントに無料で参加することができ、研究のヒントにできます。
 

COMMUNITY
研究会メンバー限定の読書会/勉強会/アルムナイネットワーク。

研究ライフをより楽しむための、独自のサポート体制も。

詳細は、上記のサイトをご確認ください。
ではまた次回、お会いしましょう!
 

 

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