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十人十色の思考のお伴No.6

──有元沙矢香さん、チャーミングってなんですか?

2024/06/12

十人十色の思考のお伴 連載タイトル

2023年10月。ウェブ電通報は、開始から10年の節目を迎えた。ここはぜひとも、10周年にちなんだ「連載モノ」を編んでみたい。たどり着いたのが、「10」人「10」色というテーマのもとで、すてきなコンテンツを提供できないだろうか、というものだった。大きく出るなら、ダイバーシティ(多様性)といえるだろうか。

思考に耽(ふけ)りたいとき、アイデアをひねり出そうとするとき、ひとには、そのひとならではの「お伴」(=なくてはならないアイテム)が必要だ。名探偵シャーロック・ホームズの場合でいうなら、愛用の「パイプ」と「バイオリン」ということになるだろう。

この連載は、そうした「私だけの、思考のお伴」をさまざまな方にご紹介いただくものだ。あのひとの“意外な素顔”を楽しみつつ、「思考することへの思考」を巡らせていただけたら、と願っている。

(ウェブ電通報 編集部)

第6回のゲストは、有元沙矢香氏(電通zero コピーライター/プランナー)

──有元沙矢香さん。電通のクリエイティブ部門でコピーライター、CMプランナーの枠にとどまらず、戦略プランナーなど、さまざまな活躍をされている方です。本日は、よろしくお願いいたします。

有元:よろしくお願いいたします。

──いきなりなのですが、有元さんにとってクリエイティブとはどういうものですか?お仕事ぶりを拝見するに、単純に15秒のテレビCMをつくるだけの仕事、ではないような気がするのですが……

有元:いきなり、難しい質問ですね。私自身が心掛けているのは、「効率よくアイデアを出そうとしない」ことなんです。限られた時間で仕事をするには、効率が求められることも多いです。でも、効率よく、効率よく、と考えたアイデアはたいてい面白くないし、人の心にも響かないと思うんです。

──なるほど。

有元:クライアントからのオリエン通りではなくて、アイデアをジャンプさせたい。でも、無理やりジャンプしたところで、クライアントや世の中の方の共感は得られないと思うんです。そうではなくて、視野を広くして、これとこれを引っ付けたらどうなるだろう?みたいな遊び心のある検証を頭の中で何度も重ねることで、商品とも接着できる面白いアイデアは生まれるんじゃないかな、と。

有元沙矢香氏(電通/コピーライター、CMプランナー) 兵庫県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。電通に入社後、営業を経てクリエイティブ局へ。テレビ朝日・東宝 映画「君の名は。」地上波放送プロジェクト、藤子プロ「ドラえもんSTAY HOME PROJECT」、朝日放送「M-1グランプリ」「熱闘甲子園」プロモーション、ソニーミュージックJUJU「ユーミンをめぐる物語」「東京」「奏」などコンテンツやメディアを絡めたキャンペーンを多く手掛ける。受賞歴は、TCC賞、ACC賞BC部門グランプリ、ADC賞、カンヌゴールド、クリエイターオブザイヤー2023メダリストなど。
有元沙矢香氏(電通/クリエーティブディレクター、コピーライター)
兵庫県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。電通に入社後、営業を経てクリエイティブ局へ。テレビ朝日・東宝 映画「君の名は。」地上波放送プロジェクト、藤子プロ「ドラえもんSTAY HOME PROJECT」、朝日放送「M-1グランプリ」「熱闘甲子園」プロモーション、ソニーミュージックJUJU「ユーミンをめぐる物語」「東京」「奏」などコンテンツやメディアを絡めたキャンペーンを多く手掛ける。受賞歴は、TCC賞、ACC賞BC部門グランプリ、ADC賞、カンヌゴールド、クリエイターオブザイヤー2023メダリストなど。

──答えは、PCや企画書に向き合っていても出てこない。ということでしょうか?

有元:そうですね。効率を求めて順当な道をたどっていても、アイデアの化学反応は起きないのかな、と思います。

──過去のウェブ電通報での有元さんの記事を拝見して、有元さんが大事にされていることは「パーソナルとパブリックの両方を考える」ことなのかな?と思いました。

有元:パーソナルは大事にしています。私が思うパーソナルとは「相手を知る」ということなんです。たった一人をとことん知って、その人に届けるところから始める。それが、周囲や社会の共感へと広がっていければいいな、という。

──ああ、パーソナルとは、「有元沙矢香」の好みや世界ということではないのですね?

有元:そうですね。私は自分の中にこれを伝えたい!というものが強くあるタイプではないので、仕事をする上で大事にしているのは「自分の中で答えを出さない」ということ。答えを出せるほどの能力もないんですけど……。でも、自分の外にあるものを探しにいくから、アイデアが広がるのかなと。

なので、届けたい人のリアリティをなるべく具体的に想像することを心掛けています。その人がどういう生活をしていて、どう商品が見えていて、何に喜びを感じて、何に怒りを覚えるんだろう……そういったことを雑誌やSNSをみたり、現場に行って疑似体験をする。そのパーソナルなリアリティから、パブリックなアイデアが湧いてくる、みたいな。人をとことん追究していくことは好きですし、わりと得意なのかな、と思います。

──マーケティング用語でいう「n1」というヤツですね。最大公約数の答えではなく、たった一人の思いから、社会に響くヒントを見つける、というような。

有元:それには、「ゆとり」とか「余白」といったものが大事なんじゃないかなー、と思っています。真剣になりすぎず、心を柔らかに保って、ふわっとしている、みたいな。

──なるほど、有元さんが手掛けられた作品の、柔らかさやチャーミングさの理由が分かってきました。

「思考のお伴」に大切なのは、幸福感。(有元沙矢香)

──具体的な「思考のお伴」の話の前に、有元さんにとって「思考のお伴」というものがあるとするなら、それは、どのようなものですか?

有元:これをしたら必ずいいアイデアが湧いてくる、みたいなものは正直、ないんです。でも、自分の気持ちに余裕がある時、もっというと、幸せな気持ちがいいアイデアを連れてきてくれることが多い気がします。それでいうと、私にとって、思考のお伴に求めるものは「幸福感」でしょうか。例えば、後輩の社員と接するときも、共通の好きなものの話で盛り上がると、先輩後輩関係なく、一気に距離感が縮まりますよね。好きなものを語るとき、みんな饒舌になるし、好きな理由に個人の価値観が出るので面白い。

──分かるなあ。そこに、性別とか世代とかは、関係ありませんものね。

四つ葉のクローバー

有元:そんな、好きなことやそこで感じる「幸福感」を共有できると、会話が弾んで、いいアイデアが生まれる気がします。当たり前すぎる話かもですが。

──いえいえ。大共感です。大納得です。ネガティブな感情よりも、「好き」「幸せ」という気持ちの方が、深くつながることができますよね。

有元:コンテンツのお仕事をさせていただいていると、いかに好きが大きなエネルギーであるかを実感します。価値観の多様化もあって、いわゆる「マス」というものはなくなりつつある。全国民が熱狂するコンテンツを作るというのは、この時代、とても難しいものだと思います。でも、そこに熱狂するファンは必ずいる。圧倒的な「熱量」が必ずある。その「熱量」を可視化して、じわじわと広げていく。そうすることで、いつの間にか大きな爆発力を持つコンテンツが生まれるんじゃないかなと思っています。

──熱量、かあ。

ただ、大きなエネルギーだからこそ刺激の仕方を間違えると、火種になってしまうので、それを合気道のように広告に使わせてもらう時には、とても慎重になります。M-1グランプリのお仕事では、私自身も大ファンではありますが、かなり客観的に、どこに光を当てるとファンの心を気持ちよくくすぐれるか、そして、ファンじゃない人にも興味を持ってもらえるか、を検討しています。

M-1グランプリ2020 ×Creepy Nuts「板の上の魔物」スペシャルムービーより
M-1グランプリ2020 ×Creepy Nuts「板の上の魔物」スペシャルムービーより

有元沙矢香氏の「思考のお伴」とは?

──いよいよ本題となりますが、そんな有元さんの具体的な「思考のお伴」について教えてください。

有元:スイーツ、ですね。ベタですけど。

──スイーツ……?

有元:生菓子が大好きなんです。ケーキとかパフェとか大福とかあんみつとか。素材の良さが生きるタイプのスイーツが特に好きです。

──なるほど。確かに甘いものは、テンションがあがりますし、脳にも刺激がありそうです。

季節のフルーツをそのまま楽しめるパフェは、特に頑張った日のご褒美として。
季節のフルーツをそのまま楽しめるパフェは、特に頑張った日のご褒美として。
会社の近くにあるケーキ屋さんの夏限定の桃パイ。週一で食べるほどの大好物。
会社の近くにあるケーキ屋さんの夏限定の桃パイ。週一で食べるほどの大好物。

有元:新入社員の頃からデスクにケーキを持ち込むくらい好きで、もうルーティン化しています。「脳に糖分が足りてないから。」と食べる言い訳がそこにあるのがいいんでしょうね。

──言い訳、かあ。それは、しょうもないように見えて、深い話だ。すべての仕事は、あるいは人生とは、言い訳と幸福感の上に成り立っている、と言えますものね?

有元:そこまで深読みされると、コメントしづらいのですが……。いつも何かしらの企画や作業に追われているのですが、スイーツを食べて、ああ、幸せだな~と感じると、ふわっと余裕が生まれる。そうすると、頭が柔らかくなって思考のスイッチが入るような気がします。こうしたらもっと楽しくなるのではないか?ポジティブな落としどころはこのあたりにあるのでは?といったことを考える際に、自身がカリカリしていては先に進めませんから。

──社内のスタッフとの関係性とかも?

有元:そうですね!社内にあんみつ好きやドーナツ仲間がいて、みんなで幸福感を共有しています。スイーツ好きな方とは、ぜひ情報交換できるとうれしいです。

次回予告(vol.7)
「ウェブ電通報10周年企画」の連載、続々、配信中。ぜひご覧ください。
ウェブ電通報10th連載告知(その1)
ウェブ電通府10th連載告知(その2)
ウェブ電通報10th連載告知(その3)