アイデアは図で考えろ!No.6
―私とボス― アイデアでビジネスを動かす(後編)
2022/06/07
前回に引き続き、電通チーフ・クリエーティブ・オフィサー(CCO)の佐々木康晴氏と、電通クリエーティブ・プランナーのアーロン・ズー氏による対談をお届け。
アーロン氏の新著『アイデアは図で考えろ!』の内容を交えながら、事業開発におけるアイデアやクリエイティブの役割・価値を語り合いました。
企業同士のより良い関係を作ることも、事業開発の一つ
アーロン:従来のクリエイティブにおける分かりやすい指標は、賞を受賞することだと思うんです。一方、事業開発におけるクリエイティブは数年後に成果が出るので、クリエイターにとってモチベーションを保ちにくい側面もあるのではないでしょうか?
佐々木:なぜ賞をもらうのがうれしいのかを考えてみると、自分のクリエイティブで「人が動いた」「届いた」ということが客観的に確認できるからだと思うんです。
事業開発は確かにスパンが長いのですが、その中で確実に人が動いたり、ファンが増えたり、ブランド力が高まったりするのが目に見えて分かるので、クリエイターとしてのやりがいは大きいと思いますよ。
アーロン:確かに。事業開発で最も喜びを感じるのは、クライアントのビジネスを救ったり成長させたりすることに貢献できたと実感できる瞬間です。
佐々木:20年以上前になりますが、僕が手がけた広告に感動したお客さんがクライアントにハガキを送ってくださったことがありました。その話を聞いた時の喜びは今でも鮮明に覚えています。
アーロン:分かります。新しく作ったビジネスで誰かの心が動いたり、世の中に影響を与えたことを知った時の達成感は大きいですよね。
一方、事業開発の案件の中には、私たちはアイデア出しやブレストの段階しか参加させてもらえず、その後の実行やアウトプットはクライアント側のディレクターが担当されるケースもあります。その時のモヤモヤに対する解決策があったら教えてください(笑)。
佐々木:難しい質問ですね(笑)。アイデア自体は無形のものですから、無形に対する価値を業界として啓発していくことは大事だと思います。表現として短期間で消えていくアイデアと、ビジネスのコアな価値として残るアイデアは、同じアイデアと呼ばれていても、ずいぶん価値が違うものであるはずです。
ただ、僕らとしてもアイデアだけでなく、形にして維持していくところまで一気通貫でやるからこそ提供できる価値を、もっと提案する必要がありますよね。例えば、ある課題の解決のためにレストランを作りましょう、というアイデアを出した時には、その食材の選定から調理、お皿の盛り付け、空間やキャストの演出、予約体験からその後のフォローアップまでトータルで設計して、それを続けていける仕組みまでも形にしていける。それがクリエイティブ的なビジネス開発ですよね。
アーロン:受発注の関係だった企業の間に入ることで、Win-Winになる新しい座組を作っていく。これも電通が提供できる事業開発の一つの特徴だと思うんです。
佐々木:そうですね。電通には約6000社のクライアントがいますが、これからは企業と企業をつなげて新しい連携や価値を作っていくことも僕らの役割になると思います。
アーロン:まさに、電通が磨いてきたマジックの力が発揮できる領域ですね。
事業開発×クリエイティブの二刀流は武器になる!
アーロン:企業戦略の有名なフレームワークに「PPM分析」というものがあります。業界を市場成長率と市場占有率の二つの軸で見た時に、両方乏しいものは「負け犬」、市場成長率は高いが占有率は低いものは「問題児」と呼ばれますが、私としてはどちらもどのように成長するか分からない「クエスチョン/種」という意味合いの方が正しいと感じています。これに市場占有率は高いが成長率が低い「金のなる木」の3領域を、われわれが入ることで成長率も占有率も見込める「花形事業」に成長させていくことが大事だと思うんです。
佐々木:そこもクリエイティブが力を発揮できる領域ですよね。従来の見方では成長が見込めそうになかったものを、「その手があったか!」という組み合わせでジャンプさせる。世の中には、アイデアで解決できる課題はたくさんありますからね。それを単なる思い付きではなく、今までの経験や計算に裏打ちされたロジックで示していくことが、僕らに求められていることなのかなって思います。
アーロン:そんなことをずっとやっていると、「クリエイターじゃなくて営業の仕事じゃないか!」と突っ込まれたりするんですが(笑)。
佐々木:これからは、営業がクリエイティブの領域に進んでも良いですし、クリエイターやディレクターが営業活動を担っても良いと思うんです。クリエイティブディレクターがキーパーソンの悩みに寄り添い続けること、営業が高いクリエイティビティを発揮して提案を行うこと、いずれもクライアントにとっては価値のあることですからね。事業開発営業とクリエイティブの二刀流、良いじゃないですか(笑)。
アーロン:佐々木さんにそうおっしゃっていただけると、これからも我が道を突き進んでいけそうです(笑)。
佐々木:電通の一つのコアがクリエイティビティなのは間違いありません。マジックと言われるような、世の中を先読みして誰も思い付かないような意外な方法で課題を解く。少し効率が上がる方法ではなく、思っていたよりも50倍良い方法を生み出せるのがクリエイティブの力です。それを単なるマジックとして手渡すのではなく、アーロンさんのように、きちんとロジックに裏付けされたものとして提供していけると、クライアントや世の中の力になれることがもっと増えると思います。そのクリエイティビティはクリエイターだけのものではないですし、いろんな人から生まれる可能性があると思っています。
アーロン:ロジックを組み立て、ブラックスワンを柔軟な視点で乗り越え、最後にわれわれ独自のマジックで、クライアントの成長をブーストさせていきたいですね。本日はありがとうございました!