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月刊CXNo.7

ブルーボトルコーヒーの音楽ライブからひもとく、能動的な行動を促すCXクリエイティブ

2022/08/09

ブルーボトルコーヒーが主催となって2021年9月に配信された「コーヒーと音楽のペアリング」をテーマにしたオンラインライブ。
ブルーボトルコーヒーが主催となって2021年9月に配信された「コーヒーと音楽のペアリング」をテーマにしたオンラインライブ。

日々進化し続けるCX(カスタマーエクスペリエンス=顧客体験)。

今やあらゆるシーンで求められるCX領域に対し、電通のクリエイティブはどのように貢献できるのか?

その可能性を解き明かすべく、電通のCX専門部署「CXCC」(カスタマーエクスペリエンス・クリエーティブ・センター)メンバーがCXとクリエイティブについて情報発信する連載。それが「月刊CX」です(月刊CXに関してはコチラ)。

今回は、2021年9月に配信された「コーヒーと音楽のペアリング」をテーマにしたオンラインライブ「MUSIC PAIRING FESTIVAL」を企画したCXCC クリエーティブディレクター/コミュニケーションプランナーの藤田卓也氏に、新しい顧客体験のつくり方について話を聞きました。

ブルーボトルコーヒーと3人のミュージシャンによるオンラインライブという意外な取り合わせがSNS上でも注目を集め、視聴者も参加者も大いに楽しめたライブとなりました。今回のキーとなった、商品と別のものを掛け合わせるペアリングの醍醐味(だいごみ)とは?

※CXクリエイティブとは……クリエイティブの力を使って、価値ある新しい顧客体験を生み出すこと。また、その取り組み。
 
藤田氏
【藤田卓也氏プロフィール】
電通
カスタマーエクスペリエンス・クリエーティブ・センター
クリエーティブディレクター/コミュニケーションプランナー
入社以来、およそ13年にわたりイベント・スペース関連部署に所属。2016年12月よりCDC、2021年1月よりCXCC所属。「クリエイティブの力で、生活・体験をアップデートする」をモットーに、領域にとらわれないコミュニケーションデザインを実践。
主な受賞歴に、Cannes Lions、 D&AD、 N.Y.ADC、 CLIO、 AD STARS、 ACC、 WOMMY、 Red Dot Design Award、SABRE AWARDS、PR Awards Asia、グッドデザイン賞など。
 

音楽とコーヒーをペアリングして生まれる新しい顧客体験

月刊CX:ブルーボトルコーヒーとの取り組みの概要についてお話しください。

藤田:ブルーボトルコーヒーからは今回、コロナ禍でカフェにてコーヒーをお飲みいただくことが難しい中、時間も場所も選ばずにブルーボトルコーヒーのコーヒーをお楽しみいただけるインスタントコーヒーのプロモーションをしたい、と相談をいただきました。店頭飲用とは異なる形でブルーボトルコーヒーを楽しむというお題に対して、コーヒーと何かを掛け合わせて新しい体験をつくるペアリングを思いつきました。

コーヒーとの親和性の高さから音楽が浮かび、場所・時間を越えて楽しめる、それが「MUSIC PAIRING FESTIVAL」という音楽ライブ配信という形になりました。

月刊CX:ペアリングという様式を使うことで、顧客体験の新しい打ち手が生まれたのですね。ペアリングとして音楽に行き着いたところを、もう少し詳しく教えてください。

藤田:私は食べることが好きなので、いろいろな飲食店に行きますが、その空間でかかっている音楽が記憶に残ることがあります。カレーのお店でハードロックが流れていたり、喫茶店なのにヒップホップが流れていたり、意外な組み合わせに驚くこともあります。そのような、かかっている音楽や内装などのお店の雰囲気に、飲食したものの味や満足度も影響を受けて、そのお店の体験の記憶として蓄積されているなぁと思ったんです。

そこで、ブルーボトルコーヒーの味と香りを良い記憶として残すサポートを考えたときに浮かんだのが音楽でした。コロナ禍でもあったので、カフェという空間を介さずに提供するためにライブ配信を行うことにしました。

ライブ会場は焙煎場。華やかなステージにする工夫とは?

藤田:ライブ配信の会場は、新店舗などいくつか候補がありましたが、最終的に(東京都)江東区にある焙煎(ばいせん)場「北砂ファクトリー」にしました。ここから、全国のブルーボトルコーヒーのカフェにコーヒーが届けられています。しかし、焙煎場なのでライブ会場としては殺風景でした。そこで配信前日の会場設営でさまざまな装飾・工夫を施しました。

月刊CX:具体的にどのような形で工夫したのでしょうか?

ライブ会場

藤田:この写真はコーヒーの麻袋ですが、ブルーボトルコーヒーのロゴと今回のイベントのロゴをプリントしたものを美術チームに作製してもらい設置したり、照明を工夫することで雰囲気を出しました。

ライブの模様

月刊CX:味わいあるデザインでコーヒーともマッチしていますね。参加するミュージシャンはどのように選びましたか?音楽とペアリングすることまで決めても、組み合わせられるアーティストは無数にいる中で、どういう人選をしたのでしょうか?

藤田:ミュージシャンは、SIRUP(シラップ)さん、Kan Sanoさん、TENDREさんに参加していただきました。

音楽に興味の薄い人も振り向かせることができ、音楽通の人たちも認める実力派で、コーヒーを飲むシーンに心地良くハマる音楽を奏でられるミュージシャンということで、今回の3人にお声がけさせていただきました。

月刊CX:そこから、それぞれのミュージシャンの魅力をどう引き出すかが重要ですね。

藤田:コーヒーを飲む時にかかっていてほしい音楽、ということでミュージシャンの皆さんにオーダーし、アコースティック調、弾き語りなど、普段とは異なるアレンジで演奏してもらいましたので、それぞれのミュージシャンのファンにも、普段とは異なる音楽体験を提供できたと思います。

出演アーティスト

加えて、元TBSアナウンサーの笹川友里さんにも参加してもらい、ミュージシャンの方々と一緒にコーヒー体験を語るトークショーや、コーヒーの淹れ方をバリスタに習って(実際に)やってみるコーナーも実施しました。普段、テレビでトークなどしないミュージシャンの方々なので、その点でも、ファンが見たことのないシーンを見せながら、ライブ配信を展開できました。

ライブ配信慣れした観客が満足できるクオリティに

月刊CX:ライブを視聴するお客さま像を考えた上で、ブルーボトルコーヒーのブランドや商品イメージに合わせてミュージシャンを選定し、コンテンツを考えたのですね。

藤田:ブランドのファンにもミュージシャンのファンにも違和感なく受け入れられながらも、双方に新しい体験を提供することを意識しました。情報感度の高いミュージシャンのファンにとって、ブルーボトルコーヒーという組み合わせはうれしいと思いますし、ブルーボトルコーヒーとしても、届けきれていなかった層にリーチできたと思います。

月刊CX:ライブ配信の撮影で具体的に工夫したことはありますか?

藤田:カメラの台数です。音楽ライブではカメラを7台入れて、移動しながら撮影するためにレールも引いています。トークコーナーは4台のカメラを入れました。照明演出もさまざまな表情が出せるように凝っています。テレビの音楽番組、情報番組を手掛けているディレクターに担当いただけたので、カメラ撮影や段取りなどもうまくいったと思います。

そのような素晴らしいプロフェッショナルな人たちのプロ意識に支えられて、コロナ禍で配信ライブに慣れた目の肥えた人たちにも満足してもらえるクオリティの配信ライブを実現できたと思っています。

月刊CX:実際のライブイベント時の反応はどうでしたか?

藤田:正直、どうなるかやってみないとわからないという不安がありましたが、SNS上の反応を見ると100%ポジティブな反応でした。これまでの仕事の中でも、これほど絶賛の嵐になったことはなく、ネガティブな反応がなかったのは良かったです。受け身に視聴するだけでなく、誰かに体験をシェアしたくなるほど高い熱量を生み出すことができました。

焙煎場という特殊な空間でのパフォーマンスや、あまりなじみのないトークコーナーなど、いつもとは異なることだらけだったのですが、MCの笹川さんのリードもあってトークも盛り上がり、参加したミュージシャンの方々も楽しかったと大変満足されていました。ミュージシャンの方々とブルーボトルコーヒーとの、良いWin-Winの関係が築けたと思います。

生活者が能動的に行動してみたいと思う体験づくりを

月刊CX:プロダクトに藤田さんの強みであるイベントを掛け合わせる、これまでにない体験が成立しています。加えて、藤田さんのプライベートや趣味の知識や経験も生きていますね。

藤田:そうですね。私は生活者の能動性と実際に体験する機会をいかに増やせるかを考えたクリエイティブをやっていきたいと思います。

月刊CX:「能動性」、良い言葉ですね。

藤田:映像、グラフィックのみだと、受け身のコミュニケーションになりがちです。新しい顧客体験を生み出すCXクリエイティブの場合は、もう少し手前から仕掛けられ、生活者の行動、体験をデザインしてコミュニケーションができるのかな、と思います。

例えば、入場料がかかる書店「文喫」や、認知症の方がスタッフとして働く「注文をまちがえる料理店」など、いろいろな新しい体験をつくっている事例の話を聞くと、私は前のめりに行きたいと思います。体験自体がコミュニケーションコンテンツになっているんですよね。そういった、生活者の体験がアップデートされていることが面白くて。身体性があったり、生活の風景が少し変わったりするようなコミュニケーションを仕掛けていきたいです。

月刊CX:藤田さんのCXクリエイティブの真髄は、確かに能動的であり、かつ、受け取った人自らが発信したくなる、双方向性のようなものもありますね。

藤田:テレビの画面やポスターといった枠の中だけにとどまらず、生活の中で起こること全部をコミュニケーションメディアにしていきたいですね。そうすると、映像やグラフィックも、いつ、どこで、誰に見せるのかを、かけ算で考えられて、体験の機会を増やしたコミュニケーションコンテンツとして届けることができると思います。

効率だけを求めるのは危険!自分がやりたいかどうか右脳で検算する

月刊CX:イベント業界にもDXの波が来ていますが、双方向性、能動性といったところでどう影響しますか?

藤田:個人的には、DXを論理・効率といった左脳寄りな物差しだけで考えるのは良くないと思っています。ビジネスでは効率が重視されますが、好奇心や興味など右脳寄りなクリエイティブな部分が最終的に人を動かすからです。

便利という観点ではすでにやり尽くされていることも多いので、「面白い・新しい」という観点でこれまでにない価値をつくっていくことに可能性があると思います。そういったところでデジタルをもっと活用できないかと考えています。

月刊CX:デジタルとクリエイティブを組み合わせると、傾向としては確かに論理的な左脳寄りになりがちです。右脳寄りのデジタルクリエイティブにするための秘訣(ひけつ)はありますか?

藤田:本当にやりたいかどうか、懐疑的になることでしょうか。私は本来、面倒くさがりで動くのが遅いタイプですが、好きなことや興味があることであれば動きます。面倒くさがりの自分が動くかどうか、自分が作ったものに対して考えています。

効率を重視しているときは危ないと思っていて、「クライアントが言っているから」「こうあるべきだから」と思考停止しているときは特に気をつけないといけません。そういう時はあえて、自分がやりたいのか、動きたいのか右脳的に検算しています。

月刊CX:右脳から入る仕事、左脳から入る仕事、それぞれあるのでしょうか。

藤田:ありますね。今回の取り組みは「音楽とコーヒーの相性が良い」という左脳的なアプローチで入って、それを右脳で楽しめるかと検算しました。
逆に、店舗、イベントなど空間に関わるものは右脳からのことが多いです。あと、メディアや手段が限定されると、そこにどんなものがあったら良いか考えるからか、感覚的にアイデアが先に浮かぶことがあります。その後、それらがふさわしいか左脳で検算する感じです。逆に、どのようなコミュニケーションがあるべきか、左脳で論理的に考えてから右脳で楽しめるか問い直すことが多いような気がします。

売り方にクリエイティブを加えて新しい体験を

月刊CX:最後に、これから新しく取り組んでいきたいことはありますか?

藤田:広告、コミュニケーションにとらわれすぎずに、体験をアップデートするようなソリューションを作りたいです。

売り方にクリエイティブを注入するコミュニケーションソリューションを提供する「ウリクリ」というCXCCのプロジェクトチームを立ち上げました。今回の案件もウリクリでの仕事で、チームメンバーにキックオフの時に入ってもらい、助けられました。

ウリクリ

今の世の中、企業活動がCSR文脈だけで語られがちですが、本来、販売活動は企業活動の根幹ですよね。そこにクリエイティブの力を注入すると、新しい意味をまとわせたり、エンタメに変えたりと、コミュニケーションとしても機能する面白いことがまだまだたくさんできると思っています。

クライアントとの関係も受発注の関係だけにとらわれると、できることの幅が狭くなりますが、パートナー同士の関係ととらえると、もっと広げていけると思います。体験の機会を提供するコミュニケーションが自分の強みでもあるので、クライアントとパートナーになって新しい体験を世の中に仕掛けていきたいです。

もちろん映像、グラフィックなどもつくっていきますが、立体的で手触りのあるコミュニケーションとして生活者の暮らしの中におじゃましていくような企画を考えていきたいですね。

月刊CX:コロナ禍が一段落すれば、再びイベントや体験を楽しむ人が増えますし、DXでオンラインとオフラインの垣根を越える新しい体験をつくることもできると思います。今後の活躍を期待しています。ありがとうございました。


(編集後記)
月刊CX 第7回では、コーヒーと音楽の掛け合わせで顧客の期待を超える体験を提供できたブルーボトルコーヒーの事例を紹介しました。

論理的な左脳で考えた後に、自分が本当に動きたくなるのか右脳的に検算する、というのも、クリエイターにとっては非常に参考になるアプローチではないでしょうか。プロジェクトチーム「ウリクリ」から生まれてくるであろう今後の活動にもぜひご注目ください。

今回のインタビューは、「CX Creative Studio note」(CX Creative Studio noteに関してはコチラ)とも協力しながら行っています。電通CXCCチームだけでなく電通デジタルのCXクリエイティブチームとも連携した、より幅広い事例の収集や紹介等も行っていますので、興味がおありでしたらそちらも併せてご覧ください。

また今後こういう事例やテーマを取り上げてほしいなどのご要望がありましたら、下記お問い合わせページから月刊CX編集部にメッセージをお送りください。いつもご愛読ありがとうございます。

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