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【続】ろーかる・ぐるぐるNo.191

「皇居をめざせ」

2024/08/29

1954年創業、世田谷の地から人々の暮らしを支えるLPガスや機器の販売を手掛けている富士瓦斯(フジガス)代表取締役社長の津田維一さんは、中学校・高校の同級生です。

といってもグループ違いというか何というか、長年「知っている」以上の関係ではなかったのですが、恩師の「お別れの会」で言葉を交わして以来、少しずつ縁ができ、実は以前このコラム(※)にも「別の同級生」として登場してくれました。

※第171回「なぜ、学問は必要なのか?」

 

続ろーかるぐるぐる#191_津田社長
津田維一さん/画像提供:富士瓦斯株式会社

そんな彼の全面協力のもと、今年で13年目を迎える明治学院大学での私の講義、「経営学特講 イノベーションとクリエイティビティ」では、春学期期末レポートの課題を「津田社長が、思わず『その手があったか!』と叫ぶような、新規事業を提案してください」としました。

今期、学生と論じたテーマは主に2点。1つは最近このコラムでも扱っている「コンセプトの評価基準」。そしてもう1つが、その「コンセプトのつくり方」の前半。具体的にいえば「十字フレーム」の横軸、つまり「ターゲット」と「商品・サービス」の新しい結びつきをどのようにつくっていくか、というお話です。

続ろーかるぐるぐる#191_十字フレーム

実際、学生も(そしてもしかすると多くの読者の皆さまも)不慣れなうちは「新規事業を考えよう」とすると、たとえば富士瓦斯の商品カタログを丹念に読み込んだり、LPガスの特性をあれこれ調べて、それだけを起点にして発想しがちです。こういった知識の蓄積も当然必要ではありますが、それだけでは残念ながら商品・サービスという「モノ・コト」の側面に偏り過ぎてしまいます。

続ろーかるぐるぐる#191_LPガス
LPガスのボンベ/画像提供:富士瓦斯株式会社

ここで同時に求められるのは、いままでの常識では一見、LPガスと結びつくことがなさそうな「ヒト」の側面をあれこれ思い出すアプローチ。

これが、なかなかストレスフルなのです。なぜなら「モノ・コト」を起点とするプロダクトアウトにせよ、「ヒト」を起点とするマーケットインにせよ、ロジカル思考の場合、段階を追っていけば必ず「正解」というゴールにたどり着く保証があります。

それに対し、思わず「その手があったか!」と言いたくなる「コンセプト」を生み出す創造的思考の場合、常識を覆すような新しい視点が手に入るまで、ただひたすらヒトの側面とモノ・コトの側面の間を行ったり来たりして、あらゆる組み合わせを試し続けなければならないからです。

しかも「ヒトの悩みを思い出してみよう」と言われても、最初に思いつくのは「暑すぎて、困る」レベルの、誰でも思いつくテーマだったりします。それでもあきらめず、粘り強く質より量を追い求めた人にだけ「親しい友達の間でも『政治』って話題にしにくいよね(でも、できれば話題にしたいよね?)」といったような「なるほど、たしかに人間にはそういう側面があるかも」という切り口が舞い降ります。

しかしそこから、その悩みがLPガス、そして富士瓦斯の手に負えるものなのかを考え抜かなければなりません。それでもまだ終わりではなく、次にはそのLPガスによる解決策が(その「悩み」に対する“競合”の解決策と比べて)「売れるか」「勝てるか」「儲かるか」が問われ……もし、ダメなら最初からやり直し(涙)。

まさに「ヒト」と「モノ・コト」の間を行ったり、来たり。たかが期末レポート1本のために、こんな大変なチャレンジをした学生の皆さんには、心から拍手をお送りします。

続ろーかるぐるぐる#191_ヒトコトモノ図

ところで今回のお題を富士瓦斯さんにお願いしたのには、大きな理由があります。それは津田さんご自身が創造的な思考の実践者だからです。

LPガス業界の圧倒的な「常識」。それは都市ガスの普及に従い、その戦線を地方に移動させることでした。しかしそれでは全国の1万5000を超える販売事業者が、過当競争に陥ることは必至。そこで全社に号令を掛けます。

 「皇居をめざせ」

この常識外れな決断が、後に大きな成果を生みます。たとえばレストランのオープンテラスやルーフトップバーの暖房や除虫はLPガスの得意とするところになりました。「大都会だからこそ自然を感じたい人々」という顧客創造です。

最も近代的な高層マンションも、都市ガスや電気が遮断されてしまったときのためにLPガスの備蓄を検討し始めました。「災害で日頃のエネルギーにアクセスできない人々」です。

あるいは都市型の公園を会場とした大型イベントへの供給もビジネスとして育っているといいます。LPガスの簡単に持ち運べる利便性を活用した「フードフェスを楽しみたい人々」の開拓です。これらはどれも素晴らしい創造的思考の賜物だといえましょう。

続ろーかるぐるぐる#191_オープンテラス画像
オープンテラスの暖房/画像提供:富士瓦斯株式会社

さて、そんな津田さんを相手に、学生さんがどんな提案をしたのか?果たして「その手があったか!」と叫んだのか?その結果報告は、またの機会とさせてください。

というのも、実は今年(2024年)10月、「LPガスを活用したビジネスプランやアイデア」を審査するコンテスト「&LPG Business Awards 2024」が開催され、明治学院の有志も参加するらしく、ここで彼らの手の内をさらすわけにはいかないのです。スイマセン!

グランプリ賞金は50万円だそうですから、「大学生、大学院生で構成される団体、サークル、個人」という参加要件を満たす方々はぜひ、ご自身でチャレンジしてみてはいかがでしょうか?(9月17日エントリー締め切りのようです)

続ろーかるぐるぐる#191_花火
続ろーかるぐるぐる#191_栗
写真上:諏訪湖祭湖上花火大会の様子(撮影:海老原秀男)/写真下:蓼科で見かけた栗

「暑い夏は、高原をめざせ」

そこに常識を覆す視点など皆無なので高速道路の渋滞も必至ですが、それでも澄んだ風の心地よさは格別です。八ヶ岳の麓で採れた野菜、いつもの馬刺し、茅野の銘酒「ダイヤ菊」、そこに仲間の笑い声が加われば、嗚呼、生き返ります!

どうぞ、召し上がれ!

続ろーかるぐるぐる#190_ロゴ
※山田壮夫が取り組む「Indwelling Creators」について詳しくは、ロゴをクリック。
 

お問い合わせ/担当:山田

書籍「コンセプトのつくり方」

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