NIPPON在住の、NIPPON通による、NIPPONのこれからのためのキーワード。No.16
外国人のメッセージから気づかされる日本のあり方:Discover Japan 高橋氏、電通総研南氏・倉成氏 鼎談前編
2015/03/23
電通総研では、2015年1月に「A HAPPY NEW VISION '15」という冊子を作り、15人の日本在住外国人にメッセージを「書き初め」で書いていただきました。この冊子の副編集長である南太郎氏、クリエーティブディレクターである倉成英俊氏の2人が、アドバイザーとして参加した『Discover Japan』統括編集長の高橋俊宏氏とともに制作を振り返り、2020年に向けての日本のあり方や、それぞれのメッセージから見えてくるものについて話していただきました。
電通年賀会で約4000人に配布された「A HAPPY NEW VISION '15」
南:A HAPPY NEW VISION '15は、全国5拠点で開催された電通年賀会で配布した小冊子であり、電通報では2015年1月から2月上旬にかけて毎日1人ずつメッセージを公開しました。1月に電通総研にジャパン・スタディーズ・グループという新チームが設立されたのを機に、2020年およびその先を考える際のヒント集になればという思いで、日本で活躍されている外国人の方にメッセージをいただきました。
倉成:この冊子は「電通総研からの情報のお年賀」でした。メッセージを書き初めにしたのは「外国の方は書き初めに興味がある」のを知っていたからです。去年の1月、電通本社の1階で「エントランス書き初め展」として、社長や年男年女の社員の特大書き初めを展示したのですが、ティム・アンドレー(電通取締役・専務執行役員)から「終わったら自分の書き初めくれない?」と言われて、そのエピソードがキッカケになっています。書き初めは、ワンワードだし、参加してくれる外国人の方にも楽しんでもらえるなら、これだと。
高橋:先ほどまで、電車の中で改めてこの冊子を読んでみて、非常に読みやすかったですよ。文章の量がちょうどよく、ライトな感じで読めて、思わず乗り過ごしそうになりました(笑)。
倉成:高橋さんとは、IMF世銀総会のプロデュースをしたときに『別冊Discover Japan DESIGN vol.2』で取り上げていただいたときに初めてお会いして、その後、有田焼のプロジェクトなどでもご一緒させていただいているご縁もあり、今回アドバイザーをお願いしました。書き初めは読み物として余白が多いので、間に、電通総研らしくデータなど密な読み物を挟んだ方のがよいのではないかというアドバイスをいただきました。そこで、社内にあったジャパンブランディング調査などのデータから、自分で見ても意外だった発見をグラフィック化して載せています。
高橋:インフォグラフィックだと客観的に見られて、理解しやすいですね。この手法は、本を作るときに僕もよく使います。電通総研がデータを出すことによって、存在をアピールできると思い、提案させていただきました。アドバイスしたのは人選の前でしたが、実際に冊子になってみて、それぞれの専門分野の方が選ばれていて、説得力があると思いました。
倉成:人選がいいねと、いろんな人に言われました。まったく違うジャンルの人が並んでるでしょう? しかも「この人知らなかったけど面白い!」という方々が。最近は情報が縦に深掘りされる傾向が多いので、隣のジャンルをあんまり知らない。そこをつなぐ、知らせるのは、僕らの役割だと思っているんですよね。代わりに調べて横にシェアする係。
高橋:Discover Japanも特集によってさまざまな専門分野の人と出会い、雑誌全体としては「日本」という横串で刺す形となっているので、今回の冊子の作り方に共感できましたし、連なりが面白いと感じています。
Discover JapanとA HAPPY NEW VISION '15のこだわり
南:Discover Japanを編集される上で、どのような事にこだわっていらっしゃいますか。
高橋:世の中の「気分」ですね。普遍的なテーマの中で、気分をどう察知していくか。2015年3月号の特集は大相撲なんですが、白鵬が歴代最多優勝となるタイミングで、一般の人たちが相撲をもう少し知りたいという気分になると考えて特集を組んでいます。
南:そう言えば、2012年6月号で五重塔の特集を組まれたのも、スカイツリー開業(2012年5月22日)に合わせたタイミングとおっしゃっていましたね。
倉成:A HAPPY NEW VISION '15では、「幅」と「検索できないこと」を目標にしました。人選は、国籍、年齢、有名無名を含めて幅を持たせ、コピーライターがインタビューに行って、オリジナルの言葉を掘り出しているので、すべて検索しても出てこない言葉です。たとえば、冊子が配布された時点では、「しょうゆ一本からはじめる。」や「列島万華鏡」といった言葉は検索で出てこなかったはずで、それぞれの人の頭の中にあるものを掘り出すようにしました。表面的な言葉ではなく、その人ならではの言葉が出てくるまで質問し、検索できない言葉にすることにこだわりました。
南:高橋さんは、どの言葉が印象に残りましたか。
高橋:あん・まくどなるどさんの「列島万華鏡」は、字面が面白いし、上手いなと思いましたね。一番印象に残ったのは、ニコライ・バーグマンさんの「COMFORT ZONEをでよう。」です。
それぞれのメッセージを振り返る:前編
高橋:今は、失敗を恐れるな、チャレンジしよう、といった流れがあると思うんですよね。それぞれのメッセージに、ハッとするものがあると思います。僕らも本を作るときに、海外目線で同じものを見て、海外の人がどう面白がっているかを日本人に聞かせることを考えています。共感する言葉が多かったと思います。
倉成:どれが答えというわけではなく、15個すべてが言われてみればそうだ、というものです。読んだ人が共感できる言葉を選んで、生活や仕事に生かして、何かが生まれていくヒントになれば、と思っています。
南:せっかくなので、ここで、それぞれのメッセージを見ていきましょう。
#1「COMFORT ZONEをでよう。」フラワーアーティスト ニコライ・バーグマン
倉成:余白に絵でも描きますか、と聞いたら、筆じゃなくて、菊の花に墨を付けて描いたんですよ。冊子の裏表紙のデザインにも使わせてもらいました。
#02「失敗しない≠成功する」インフォシス リミテッド 日本代表 ベンカタラマン・スリラム
倉成:僕はこれが一番刺さりました。「失敗を恐れるな」など、同じような意味の言葉はありますが、この言葉は初めて。失敗しないやり方を続けていても、成功はしない。肝に銘じます。
南:インド本社のIT会社の日本支社を立ち上げた方がおっしゃると妙な説得力があります。
#03「しょうゆ一本からはじめる。」日本食研究家 八須ナンシーシングルトン
高橋:この方は知らなかったのですが、面白い方ですよね。この人が言うのだったら、しょうゆを気にしてみようかな、と思ってしまいますね。
#04「一日一アドベンチャー」NACニセコアドベンチャーセンター 代表 ロス・フィンドレー
高橋:非常に絵心がありますね。印象に残った言葉の一つです。
#05「ゼロサムゲームじゃない。」京都大学 准教授 経営学 アスリ・チョルパン
倉成:日本企業を研究している経営学者だからこその言葉。どれも、その専門のジャンルの言葉をちりばめてあるから、バラエティーがあって面白いでしょう?
高橋:これも上手い言葉ですね。専門の方ならではの言葉は耳を傾けるし、説得力がありますね。
#06「感謝」元サッカー日本代表選手 ラモス瑠偉
倉成:テレビで見る通りの熱い方でした。来日されてからの体験談を熱く語ってくれました。
南:漢字の書き順にもこだわっていらっしゃったそうですね。
#07「寛心・放心・開心」日中映画祭実行委員会 理事長 耿忠
高橋:この寛心という言葉は初めて知りましたが、なるほどと感じましたね。中国らしいと思いました。
南:耿忠さんは、日本人は物事が計画通りにいかない時にジョークで乗り切ったり、柔軟に対応するのが苦手だとおっしゃっています。痛いところを突かれたと感じました。日本人は「おもてなし」に自信を持ちがちですが、サービスを提供している側は丁寧で良質な仕事をしているつもりでも、外国人からは簡単なことでも融通が利かなく見えたりして、必ずしもプラスの評価ばかりではないことを思い出しました。
高橋:日本人は真面目だから、「おもてなし」をしなければと思って、受け手のことを考えていないことは結構多いですね。情報発信も同じようなことが起きていると思います。
#08「列島万華鏡」上智大学大学院教授 環境歴史学者 あん・まくどなるど
高橋:万華鏡という言葉をよく知っていますよね。力が抜けた感じもいいと思います。
倉成:「鏡」という字も難しいと思いますけど、僕より上手いですね。フィールドワークに行きまくってらっしゃる方で、メールチェックや原稿チェックもフィールドワーク中に対応してくれましたよ。