カンヌライオンズ2015②
電通社員スペシャルリポート~太田祐美子&日塔 史
2015/07/21
女性CD育成プログラム「See It Be It」
再認識した、「個」の力の重要性
カンヌにはアワードやセミナーだけでなく、少人数制で学ぶ機会が数多く用意されています。
「See It Be It 」(見て、そして、それになる)もその一つ。昨年始まった女性クリエイター応援プログラムで、今回、幸運にも世界中から選ばれた12人の1人として参加しました。
そもそもなぜ女性なのか。統計によれば、世界の広告業界全体で女性クリエイティブディレクターの割合はいまだ3%。制度上は男女平等なはずなのに、30代を超えるとさまざまな理由で辞めていく女性が後を絶たないのだそう。市場の半数は女性、購買決定権を持つのは80%が女性だといわれる中、こうした現状を過度なフェミニズムに陥ることなく見詰め直し、どうありたいかを考えること。それがこのプログラムの趣旨です。
内容は、業界の第一線で活躍する人たちとのワークショップやセッションが中心。3日にわたり分刻みのスケジュールで、あらゆる人たちの話を聞き意見を交わすことができました。悩みや課題を共有しアドバイスをもらうメンターシップもありましたが、何より刺激的だったのは、参加メンバーの女性たち。作品集を片手に国境を越え、エージェンシーを渡り歩きキャリアを積んでいく。自分にはないその力強さと自由さがまぶしかったです。そんな彼女たちと議論し、こう結論付けました―女性うんぬんとかじゃなくて、いい仕事をしよう。それしかないね、と。
セミナー最前線
AI、ロボット、テクノロジー
「進化の著しい人工知能( AI )やロボットの波が、どれほどカンヌに届いているか」というテクノロジー視点で、参加してきました。実際に目撃したことは予想をはるかに超えました。
まず驚いたのは、AIを正面から捉えたセミナーが予想以上に多かったこと。電通セミナー「Creativity in the Age of Data 」(データ時代のクリエイティビティ)では、マーケティング・ソリューション局局長・山本浩一氏が「データ・クリエイティビティは可視化と解析の段階を経て、次なるフロンティア“AI ”の時代を迎えた」と宣言しました。「World Wide Web」の生みの親、ティム・バーナーズ=リー氏も「Sentience: the Coming A I Revolution」(知覚:到来するAI革命)と題するPHDのセミナーで講演。また、AKQAチーフ・クリエイティブ・オフィサーのレイ・イナモト氏も同社セミナーで、「ブロードキャスト、デジタルの次は、AIの時代だ」と述べました。
ロボット関連ではソフトバンクの「Pepper」が注目の的でした。新設フェスティバル「ライオンズイノベーション」の電通セミナー「Communication Robots as a Creative Platform」(クリエイティブプラットフォームとしてのコミュニケーションロボット)に、ソフトバンクロボティクス林要氏、電通山本氏と共に登壇。会場にはあふれんばかりの人が集まり、Pepperが英語でラップを披露して、同フェスティバル一番の盛り上がりを見せたと思います。米ホームセンター大手ロウズも、店頭での接客に特化した実用性重視のロボット「OSHBot 」をデモンストレーション。Pepperとは、設計思想において好対照をなしました。カンヌライオンズの最終日には、エーラボ主催のセミナー「Matsukoroid Disrupts T V and Ad Agencies 」(マツコロイドがテレビとエージェンシーに変革をもたらす)にマツコロイドも登壇。同社の三田武志社長、大阪大の石黒浩教授、電通CDCの佐々木康晴エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクターらによるセッションが行われました。これら日本発のロボットやセミナーは、先進的でエッジの効いたものとして、海外において大きな驚きをもって受け止められたようです。 全体を振り返ると、デジタルエージェンシーの草分け、R/GAが大きな存在感を放っていました。公募で選ばれたベンチャー10社に「Star t-up Academy 」を提供した他、出資企業の開発製品を多数出品し、イノベーション部門では2作品が受賞。同社セミナーでは、スタートアップに投資し育成するアクセラレーター・米テックスターズとの取り組みが明らかにされ大きな話題になりました。最終日の授賞式では、創業者兼会長のボブ・グリーンバーグ氏が功労賞「Lion of St. Mark 」を受賞するとともに、R/GAが「エージェンシー・オブ・ザ・イヤー」を獲得し、長いフェスティバルの幕が閉じました。そのテクノロジー・ドリブンの革新性をカンヌの地で存分に振るったといえるでしょう。