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ティーンフルエンサー大解剖No.7

【まとめ】ティーンフルエンサーを理解する三つの視点

2018/08/07

足掛け9カ月にわたり連載してきた「ティーンフルエンサー大解剖」も今回で最終回を迎えます。まとめとして、これまでのコラムを振り返りながら、ティーンフルエンサー=ティーンのインフルエンサーにフォーカスすることの今日的な意義を再度確認したいと思います。

タイトルにも冠した三つの視点とは、①「マインドや考え方」、②「コミュニケーションやつながり」、③「情報流通の構造」です。①今のティーンフルエンサーはどんな価値観を持っているのか、②その上で、どのように他者とコミュニケーションを行い、そこでやりとりやつながりを生み出しているのか、③最後に、それを踏まえて流行やトレンドはどのようにSNSなどに乗っかっていくのか…。私たちの9カ月の探求をこの視点に沿って整理していきます。

女子高生ミスコンを取材して分かったのは、コンテストを勝ち抜くために参加者たちに求められるのは、先進的なコミュニケーションの技術を体得していることでした。

その内実をこれから確認していきますが、私たちにとっての結論を先取りするならば、「情報の広がりだけでなく情報の深まりが重要で、そのコミュニティーの中心にティーンフルエンサーがいる」ということ、そして私たちにとっては「この領域をウオッチしておくことでマーケテイングインサイトはもちろん、世の中の変化を先取りした事業ヒントも得られる」という知見が重要となります。これまでの連載内容を踏まえながら、具体的に見ていきましょう。

ティーンフルエンサーを理解する三つの視点

三つの視点と、それぞれに対応する連載は以下のようになっています。

視点①:マインドや考え方

連載第2回「“日本一かわいい女子高生?!”の実態をさぐってみた! ティーンフルエンサー的★支持率の集め方」

連載第4回「ティーン世代の心を動かすのはどんな子? 4タイプのティーンフルエンサーとは」

視点②:コミュニケーションやつながり

連載第3回「ティーンフルエンサーのスマホカルチャー」

連載第5回「SNSで見る、今ドキ高校生の“つながり”事情~「たむろする」若者を見かけなくなったワケ」

視点③:情報流通の構造

連載第1回「スマホ×関心多様化=『ティーンズ・カーブ』」

連載第6回「“プロセスジェニック”に夢中になるティーン〜SNS時代を生きるティーンの流行を徹底分析」

視点①について、リサーチを通じて見えてきたキーワードは、「フラット」「ヒロイン」でした。女子高生ミスコンで同世代に支持されるためには、一様に他者とフラットな関係性を保ち、SNSでのコミュニケーションに手を抜かないこと。自分を支持してくれる人たちとのインタラクティブなやりとりはティーンの影響力を考える上で必須要件なのです。

あるティーンフルエンサーは定期的にLINE LIVEなどのライブストリーミングサービスを使って、応援してくれる人々とのやりとりを行っていると話していました。そのようにして、応援されるために重要なヒロイン性を獲得していくわけです。

視点②については、「SNSでの推しマーク」「SNSの使い分け」「サブ垢※による複数コミュニティーへの所属」といった要素が特筆できそうです。例えばあるティーンフルエンサーはTwitter上で「推しマーク」(この場合は葉っぱの絵文字)を決めていて、自身のアカウント名に表示させています。それを応援してくれる人たちもマネしてアカウント名やプロフィールの中に入れることで、つながるための符丁(サイン)として機能し、ファンたちとのコミュニティーを擬似的に生み出しているわけです。

さらには、SNSごとの使い分け(詳しくは連載第5回をご確認ください)を行い、自身の発信したいものを場の特性に合わせて出し分けすることで適切な自分のアイデンティティーをオンライン上でも確立しています。

ティーン全般の傾向としてサブ垢を活用し、自分の好きな対象に全力コミットすることも多々あるので、情報の発信側と受け手側それぞれがSNSを高いリテラシーで使い分けている実態を理解する必要があります。

※SNS上の複数アカウントのうち、メインではない特定用途のサブのアカウントのこと。

「独自情報を深めるコミュニティー」がティーンの情報行動の核

 
ティーンズカーブ
(連載第1回より再掲)

最後の視点③、つまりティーンフルエンサーに端を発する情報の広がり方や流行の起こり方については、私たちは「ティーンズカーブ」「参加感の重要性=プロセスジェニック」といったキーワードを挙げてきました。

「ティーンズカーブ」はティーンの関心の多様化を示すコンセプトであり、「プロセスジェニック」は情報が広まるプロセスへの参加感がその拡散をブーストする役割を果たすという構造を描出したものです。

20世紀のメディア研究をけん引した一人、社会心理学者のポール・ラザーズフェルドは、(マス)コミュニケーションの2段階の流れを仮説として提唱しました。それは、テレビや新聞のようなマス情報も、オーディエンスに直接到達するのではなく、いったんオピニオンリーダーがその情報を解釈し再波及させることで多くの人に届くようになるのだという見立てです。

これはインターネットが普及した時代に生きる私たちにとってより納得度の高い理論だと思いますし、そこに付け加えるならば、現代ではティーンフルエンサーから始まる流れもあるということ、そして2段階ではなくN段階の流れになることが重要だといえます。ティーンズカーブとプロセスジェニックはその情報流通の複雑性をとらえるためのコンセプトでした。

メディアは情報を広げる機能を有し、ティーンフルエンサーは情報を深める契機を提供します。ティーンフルエンサーは各自が情報のコミュニティーを保持し、そこでの情報の広まりのプロセスを通じて同世代のティーン一人一人に深い理解や納得が醸成されるのです。

<発見型ステップ イメージ図>

発見型ステップ
(連載第6回より再掲)

またアーリーアダプターとしてのティーンフルエンサー起点で情報がトレンドとして認定され、さまざまなメディアを通じて広がりを有していくことも珍しくありません。これが情報の多様性を生んでいきます。

これらの構造を踏まえるならば、メディアとティーンフルエンサーとを2項対立的に捉えては本質を見誤ることになるでしょう。メディアと個人、マス(放送)とネット(通信)のような表層的な「VS(バーサス)」ではなく、両者が相互に影響を与えながら、互いを補うことで、より多様な情報の選択肢がセットされていくダイナミズムを把握する必要があります。

ミスコンに注目すると新しいコミュニケーションテクノロジーが分かる

よくいわれるように、選挙はコミュニケーションテクノロジーが最も開発され挑戦される機会でもあります。その象徴的なケースとして、アメリカの大統領選挙はコミュニケーションテクノロジーやその活用法についての最先端のショーケースとなっています。

そして、それはこの女子高生ミスコンという場においてもある程度の共通性があったといえるでしょう。この「選挙」を戦うティーンフルエンサーは、ときには意識的に、ときには無意識的に、最も効果的で今の時代に沿ったコミュニケーションを実践していたのだと思います。

私たちは、これからもティーン(ティーンフルエンサー)の研究を続けていくつもりです。なぜなら、その実践の中に、情報社会の最先端を切り取るリープフロッグ※のかたちが示されているからです。この連載でも触れてきたように、情報の拡散の構造、リアルタイムへの選好、インフルエンサーを応援していく気質など…、今のネット社会が体現する先進的な価値観への最も分かりやすい順応のありかたを知ることができます。

※一気に進展、変化すること。ここでは情報リテラシーのある大人からではなく、若者が一気にテクノロジーに習熟し新しい価値観や文化に順応することを指す。

 

さらに、ティーンをターゲッティング、 セグメンテーションの対象としてだけではなく、世の中の変化を読み解く鍵として見つめる視座が大切であると思います。すなわち、広告やプロモーションの領域はもちろん、新しい事業や市場の創造にもつながるヒントを読み解くための契機として捉えることが重要なのです。

電通ギャルラボは今後もこのジャンルについてのリサーチと知見発信を進めていく予定ですので、引き続きご注目いただければ幸いです!