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アイデアは図で考えろ!No.4

―私と先生― クリエイティブを科学する(後編)

2022/03/15

前回に続き、明治大学法学部でコミュニケーションの科学的分析を専門とする堀田秀吾教授と、電通クリエーティブ・プランナーのアーロン・ズー氏による対談をお届け。

アーロン氏の新著『アイデアは図で考えろ!』の内容を交えながら、「アイデアのつくり方」を科学してみました。

書籍

情報の多い時代だからこそ本質力を磨こう

堀田:アイデアを生み出す時、あまりに考えすぎて、その結果、失敗してしまうこともありますよね。人間の意思決定でもそうですけど、情報が多ければ多いほど変な方向に考えたり、間違った判断をすることは有名な話です。

アーロン:おっしゃる通りです。商品開発のときも、商品数を増やしてしまうとユーザーが悩むんですよ。数十種類の味とか香りを展開すると絶対に迷います。そうすると瞬時に購買行動が起こせないので、結果的に買わないケースも多いんです。

堀田:そうそう。情報過多になると、飽和状態になって、気持ち的にお腹いっぱいになってしまいます。だから、選べなくなる。例えば、飲食店にメニューがたくさんあると、何が何だか分からないから、「もう1番上のもので良いや」と投げやりになってしまう。あれと同じ状態ですよね。

あと、本書はアイデア発想法だけでなく、「メンバーに必要なエッセンス」といったところまで踏み込んでいます。そこで挙げられているのが、実行力、交流力、本質力。特に最後の本質力というのが面白いと思いました。本質を捉える力ですよね。

この「本質力」を育てていくには、イベントに足を運んだり、いろんなことに関心を持つことが大事だと書いてありますよね。

アーロン:そうですね。「本質」は一般教養と似ていて、何にでも応用させることができるわけです。

この会議って何を本質にしているのか?
この打ち合わせは何なのか?
この問題は何なのか?

このように、本質的に捉えることがやっぱり重要だと思うんです。ただ、本質力を身に付けるのは難しいです。小さい頃から一般教養として育てるしかないと考えているのですが、他にも何か良い方法があったら教えていただきたいです。

堀田:小さい頃から育てるのは、もちろん大切ですね。ただ、普段の生活の中でも意識するだけで「本質力」を上げられると思う例があるので紹介しますね。

アーロン:ぜひ、お願いします。

堀田:ラドバウド大学のダイクスターハウスらがユニークな研究を行なっています。(※1) 中古車が4台用意されていて、そのうちの1台だけお買い得な車があります。まず実験者を2つのグループに分けて、片方のグループにはじっくり考えてもらい、もう片方のグループにはパズルをやらせて考える時間を奪って、短い時間でお得な車を選んでもらうテストを行いました。

ヒントになる情報が4つ与えられた場合、どちらのグループも大体同じような確率で、お買い得な車を選べるんです。しかし、情報を12個に増やすと、じっくり考えるグループは25%しかお買い得な車を選べなかったんです。25%というと、当てずっぽうに選ぶのと同じ確率ですから、全然考えたことが反映されていないということですね。

※1 Dijksterhuis, A., Bos, M. W., Van Der Leij, A. and Van Baaren, R. B. (2009), Predicting Soccer Matches After Unconscious and Conscious Thought as a Function of Expertise. Psychological Science, 20, 1381–1387.
 

アーロン:情報を増やした分、じっくり考えられるグループがしっかり選べるように思えますけど、違うんですね。

堀田:そうなんです。一方、考える時間がなかったチームは情報を12個に増やしたあとでも、60%の人がお買い得な車を選べたんです。多くの情報の中から自分に必要なものだけを見極めて、選べたんですね。まさに、本質力を育てるためには、情報を集めすぎるのは良くないということです。

常に「自分にとって大事な情報は何なのか?」を考える力を身に付けることが「本質力」につながるのかなと、この実験から思いました。

現代人は、ネットが発達したことで、江戸時代の農民が一生かけて得る情報を1日で得るような生活をしているんです。

そう考えると、現代人は本当にものすごい量の情報に常に接している。そんな中で、日々正しい判断をしていくのは、人間の能力からしたら、かなり難しいはずなんですよ。だからこそ、1番大事なものは何なのか、選択していくためにも本質力を磨くことは本当に大事だと思います。

堀田秀吾氏
堀田秀吾氏

やる後悔よりやらない後悔。まず行動力を付けよう

アーロン:個人的な感覚なのですが、最近は行動力がない人が増えているように思うんですよね。そこを少し危惧しています。

堀田:それはありますね。良くも悪くも面倒くさがり屋というか、エコを目指しているように思います。僕らの時代なんかは、派手さを目指す人が多かったですけどね。

どれだけ勉強を頑張ってきても、野望を持たずに「普通が一番良いです」という人が少なくない。「冒険しない、行動しない、無理しない」がカッコいい時代になってきているのかもしれません。

アーロン:その行動しないというのを非常に危惧していて。というのも行動しない人って、ただの評論家になるんですよ。評論家になってしまうと、ビジネスを始めても全く成功しないことが多いんですね。

幅広い知識があって、さっきお話に出た「本質力」も持っていて、周りとコミュニケーションがとれる方であっても、行動力がなければ、結局何もできない。

新規事業においては、実行力、交流力、本質力の3つとも、どれも欠かせない重要なものです。

堀田:実際、やる後悔よりやらない後悔の方がずっと残ると言いますしね。ここでも面白い研究結果があるんですよ。シカゴ大学のレヴィットという人の研究で、コイン投げして、するかしないかの行動を決める実験です。(※2)

悩んでいることをコインに決めさせると、ほとんどの人がその結果に満足するんです。それも離婚するかしないか、仕事を辞めるか辞めないか、といった人生において重要な決定なのですが、コインで決めた通りに行動すると、約70%の人はその行動に満足するんですね。

アーロンさんが言っていた、「人間はやらない理由を探す」みたいなのがあるけれど、実は心配事の95%は起こらないという研究もあるんです。(※3)

こうなったらどうしようと考えて準備しておくのは大事なんですけど、不安だからやらないというのが一番良くないんです。やってしまうことが大事。不安が支配している世の中だから、どうしても不安が先行してやらない世代なんだと思いますね。

※2 Levitt, S. D. (2016). Heads or Tails: The Impact of a Coin Toss on Major Life Decisions and Subsequent Happiness. NBER Working Paper, No. 22487.

※3 Borkovec, T. D., Hazlett-Stevens, H., and Diaz, M. L. (1999). The role of positive beliefs about worry in generalized anxiety disorder and its treatment. Clinical Psychology & Psychotherapy, 6(2), 126–138.
 

アーロン:ポジティブに物事は考えないと。ネガティブな思考が1番損しますからね。

アーロン・ズー氏
アーロン・ズー氏

 考え方次第で世界は変わる

堀田:ネガティブ思考は健康の害にもなります。 行動力とも関係するのですが、ネガティブな感情とポジティブな感情だと、ポジティブな感情の方が行動力は高まるんですね。気持ちは軽めに、ポジティブに、気楽にいくということが大事ですね。

アーロン:高級料亭でアルバイトをしている若い子が「私、成功する社長と失敗する社長の違いが分かったんです」と話していて、気になって聞いてみたんですね。すると、

「成功する社長は未来のことしか話さない。失敗する社長は過去の自慢話ばかりするんです」

と言っていたのが印象的でした。

本の中で、「何事も能動的にやれ」と伝えていますが、例えば、倉庫管理は一般的に受動的な仕事のように見えるかもしれませんが、能動的に考えれば、いろんな売れるものと売れないものを理解できる、最先端の現場だと捉えることもできます。

接客業も、同じです。能動的に頭を使ったら、成功する社長と失敗する社長が見えてくるんです。何事も、どんな仕事も能動的に考えると、見える景色も大きく変わってくるんですね。

堀田:解釈の話ですね。大学もまさにそういう場所だと思うんです。

僕、大学1、2年生の時は受動的だったんです。テキトーにしか授業を受けなかったし、大学にも全然行かなかったんですよ(笑)。

3年生になってようやく真面目に勉強してみようと大学に行き出しました。

そこでいろんな科目の授業を受けてみたら、今まで同じものが目の前にあったはずなのに、解釈が変わったんです。この目の前にあるものは、もしかしたら自分の将来のためになるかもしれないと思うようになりました。

何百万円という学費を払って、受動的に受けていたら何も得られなかったものが、能動的に受けたら、知の泉だったんです。そうなると、いくら時間があっても足りないんですよ、大学での勉強というのは。

普段の生活でもそうですよね。身の回りはリソースだらけです。これをどう解釈して、どういう風に見ていくかという目線を変えるだけで、世の中は宝だらけになるんです。人との会話もお宝だし、本なんかも全てがお宝に見えてきます。

アーロン:それこそ、堀田先生の常識を変えるような衝撃的な出来事、つまり“ブラックスワン”ですよね。

堀田:全ては、解釈次第なんですよね。「能動的」が本当にキーワードです。能動的に情報をどう解釈するか、それだけで人生は変わりますからね。飲み会一つとっても目線を変えると、いろんな発見があるんです。自分の関わり方を変えるだけで何でも面白いものにできるんです。

アーロン:おっしゃるように、つまらないと思った飲み会でも、「この先輩たちは会社のいろんなことを知ってる」と考えてコミュニケーションを取ってみると、根回し力などを学べる時もあるじゃないですか。解釈次第ですよね。

アイデアよりも大切なもの

堀田:最後に一つ、質問させてください。本書で「二番煎じのアイデアは成功しづらい」とありましたが、ビジネスの世界では「TTP(徹底的に真似をしろ)」というようなことがけっこう大事だと言われていたりもします。そこに関してはどう考えていますか。

アーロン:本当のイノベーションは、二番煎じでは成功しないと思いますね。

例えば、Googleは二番煎じではないわけです。最初に思い付いたアイデアを徹底的にやったから成功しているんですよ。

Googleの次に、似たようなビジネスコアで活動している企業は、それほど大きな成功はしていません。本当の王者になるためには、二番煎じでは難しいんです。

もちろん、セカンドとして成功したいのであれば、それこそ徹底的に真似をしろというTTPはあるかもしれません。

堀田:すごい腑に落ちました。ありがとうございます。この本は私も一読しただけで、たくさんチェックするところがありました。野心を持った学生や野望のある方、若い方にもぜひ読んで欲しいですね。

今日はありがとうございました。

アーロン:こちらこそ、ありがとうございました。

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